第15話 須藤文行Ⅹ
月曜日の朝。
僕はいつもより早く家を出た。
新聞配達は中学を卒業してすぐに始めている。
すでに2週間以上働いた計算だ。
給料は月末。
但し、15日までで清算に入るから僕の初収入は今月末になる。
正直なところ単純計算でも、そう多くは入らないん見通しだが、それでも待ち遠しい。
親睦旅行には間に合わないが、さして使う予定はないはずだから問題はない。
ただその期間、2日間は配達ができない旨は雇ってくれているおじさんには伝えてある。
今日は土曜日にギャル先輩である有坂副部長から、出来たら朝に部室に顔を出してほしいと言われていた。
何かあるのか聞いたが、曖昧に誤魔化すだけで、なにがあるかは教えてくれなかった。
すでに「魔地」という短編についての感想は聞いている。
あの話も、長くしようと思えば長くかけたのだけど、スピード感がなくなってしまうので、強引に終わらせたとこがある。
もっと表現力がついたら、書き直しもありだとは思っている。
昔見たことのある、小説の書き方みたいな文章で心に残っているものがあった。
必ず、どんなにひどい物語でも、終わりまで書ききること。
確かそんなような内容だったと思う。
そういう点では「魔地」には満足できている。
もともとラストも復讐を開始するところで終わらせることは決めていた。
不満を言えば、自分に絵を描く才能がないことだ。
本当は漫画の形で書きたい作品だった。
特に最後の校舎に向かって主人公が飛ぶシーンは、自分の中ですでに絵が出来ている。
でも、それに勝る表現の文章が書けなかった。
そこだけは自分筆の力のなさを痛感している。
そう言ったことで、短編の「魔地」に関しての感想は直接聞けたことは、僕にとっては非常に有意義だった。
今書いているファンタジーは逆に書くことが多すぎて、しかも書いているうちにどんどん膨らんできて、書いている自分自身がいつ終わるのか、非常に不安に思っている。
自分的には設定は面白いと思うんだけど、なかなかイメージ通りの文章にならない。
単純に説明が長すぎる。
こういったところが、ファンタジーのテンプレ的なことを使わないデメリットなんだと思っているけど、そこは自分の幹にあたるところだからな…。
そんなことを考えながら高校の校門をくぐり、文芸部の部室に辿り着いた。
「おはようございます。」
ドアの鍵は当然開いていた。早く来いと言ってるんだから当然か。
「おお、おはよう、ブン。」
部室には緩く制服を着崩したギャル先輩、有坂副部長と背の高い女子が仲良く座っていた。
日向雅さんだ。
「おはよう、須藤君。」
「お、おはよう、日向、さん。」
少しどもってしまった。
そんな僕の態度に、凛と伸ばした背筋が少し緩んで苦笑が零れた。
「有坂から聞いてるよね、私たちの関係。」
「あ、は、はい。聞いておりますです、はい。」
「何、その日本語。変に捻じれちゃってるよ。」
「須藤君がどうしていいか、定まらないとは思うけど…。できれば、普通の同級生として、接してほしい。そっちのほうが嬉しいよ。」
ギャル先輩からいじられる。
日向さんからは気を使われた。
まあ、日向さんが年齢を気にしないでほしい、ということは充分に解ってるけど。
「あ、ああ、すいません、です。ぼ、僕、あんまり女子の人と喋った経験がないんで…。変な、喋り方は、慣れるまで、ご容赦してください。」
「そんな感じだよな、須藤は。でも、この部はほとんどが女子だ。変な動機で入ってくる男子は叩き出してるからな。」
何を自慢してんだか、ギャル先輩が胸を張って言い切る。だから、女子にあんまり免疫がないヲタ男子の前でそんなことをしないでください。ガン見しそうになります。
「おや、照れちゃったね、ブン。いきなり視線逸らして。」
ギャル先輩がそう言って僕を煽ってきた。
「やめなさい、有坂。あんただって耳を赤くして言うようなことじゃないでしょう。」
その言葉にちらっとギャル先輩を見ると、耳どころか顔を赤くしていた。
「ば、ばかなことを言うなよ、雅!こ、こんなことくらいで、あたしがテ、照れるわきゃ、ないだろう!」
日向さんがため息をついた。
「そんな調子じゃ、今日、やめといたほうがいいんじゃない?」
「か、関係ない、だろう…。今日逃すと、いつ会えるか…。」
虚勢を張るようにしていたが、段々声が小さくなっていく。
そのことが、さすがに今日僕を早く来させたことと関係がある事に気づいた。
「日向さんに関係あること、何ですよね、今、僕がここにいるのは。」
「そう、有坂の頼みでね。」
「ち、違うよ。ただ、雅にだな、せっかくだからこの場所を貸したい、って思っただけだ。」
何のことだろう。日向さんが場所を借りるって?