第149話 木津さんの爆弾
「その「白石ハーレム」という単語。あからさまに、俺が美少女を囲って、日々、高校生らしからぬ如何わしいことをしている、というイメージを抱かせますよね?佐藤つぐみ先輩。」
俺はこの単語を想像して、小説というか妄想をかきたてて、ペンを走らせているであろう先輩に声を掛けた。
「先輩はこのイメージでどんな小説を書こうとしてるんですか?」
「えーと、そのお~……。」
「いわゆる、「薄い本」の原作、もしくはシナリオでも描いてんじゃないんですか?」
沈黙。
即ち図星。
「TUGUMI先生!妄想を文章に起こすのは結構ですが、18禁になるようなものは、絶対にそのモデルがばれないように、くれぐれもお願いしますよ!」
「……はい。」
とりあえず、つぐみ先輩の言質はとった。
「白石~、あんまりTSUGUMI先生いじめないでくれよな。」
須藤が小声で言ってきた。
「白石君が怒りたい気持ちはわかるけどさあ、あんまりうちの部員を怖がらせないでよ。」
大塚部長にそうたしなめられたので、俺が反論しようとすると、ギャル先輩の隣の地味少女が完全にフリーズしていた。
横のギャル先輩も身体を固くしている。
とりあえず、ギャル先輩は放っておこう。
「ああと、木津さん、だよね。ごめんね。怖がらせて。」
斜め前で肩をすぼめて微かに震えてる女子に、どうしたらいいかわからない。
「いきなり怒り出して本当にすいませんでした。ただ、全く根拠もない「白石ハーレム」なんてパワーワード聞かされて普通でいられなくなって…。」
「…………。」
「本当にごめんって。俺だけでなく、この一員て言われた女子のためにも広まる前に、抑えようと思ったんだよ。」
「…女子のため?」
「そうだよ!だって、ちょっと俺と仲がいいからって、そういう関係になってるなんて思われて、いい気分するわけないだろう、みんな。」
「うん、そう…かも。」
よし、この線で押していこう。
他に思い当たらないし。
「だよね。僕がクラスの女子と少し仲がいいからって、いろんな子に手を出すって思われることは心外だ!」
この言葉に、やっと木津さんが俺の方に顔を向けてくれた。
と同時に、そんなことを言ってんのはどこのどいつだ、って目が3方から飛んできた。
いや、お前ら一体どういう目で俺見てんの。
強いて言えばあやねるだけだよ、声掛けたの!
他の女子には俺からなんか声かけてない!
「噂って、確かに、怖いよね…。」
なんか木津さんも昔なんかあったのかもしれないな。
「そうだよね。噂ってどんどん大きくなるからさ。最初からそんな目で見られて、罵倒した人がそこにいるんだよ。」
そう言ってギャル先輩を見る。
俺の声に目を上げた、と思ったら速攻逸らしてきやがった。
「あんときは…悪かった、と思ってる。」
それでも目を逸らしたままそう言ってくれたので、心の中でほっとする。
「そういえば、部活動紹介の時、有坂副部長、やけに新入生の男子に絡んでたと思いましたが…。あれって、あなたでしたか!」
あ、気付いてなかったか。
というより、「女泣かせのクズ野郎」の方が独り歩きしてたってことだよな。
やっぱり噂は怖い。
「木津さん。白石の噂って、他に何か知ってる?」
「いえ、その「女泣かせのクズ野郎」というのもそちらの白石?さん、ですか、という事を今知りました。そんなひどい人とは、近づきたくて、距離を取ったんですが…。そうですね、噂、怖いですよね…。」
この返答に、須藤がどう声を掛けるべきか迷ってるな。
小説に限らないんだろうけど、創作物を作るヒトって、結構好奇心、強いからね。
今の木津さんの言葉。
聞きたいことが山積みって感じだ。
「そうか、木津さん。今年の2月ごろに子供を助けて、自らの命を落とした男性の話って聞いたこと、ある?」
大塚部長が言葉を出しづらくなった須藤に変わって、違う質問をした。
とは言っても、うちのクラスでは、もう知らない人がいないのだが、ちょっとした交通事故の話を覚えてる方が珍しい。
「すいません、部長さん。ちょっと思い出せないです。」
当然の答えが返ってきた。
「聞いた話で悪いんだけど、この白石君、つい最近お父さんをなくしてね。その件で、ちょっとした気持ちの行き違いなんだけど、北習橋のバス停で女の子を泣かせたのよ。そうだったよね、須藤君。」
どうして、ここに当事者がいるのに、他の人間に話し振るのかね。
(いや、この場合は部長さんが正しいぞ、光人。当事者が語ると、どうしても興奮しやすくなる。それに第三者が語る方がより客観的に聞こえたりもする。あくまでもそういう風に思えるという事で、第三者の気持ちによってどうとでもなるんだが、ね)
親父が、俺の疑問にすぐに答えてくれた。
これは助かる。
認知症付きのボロナビゲーションってだけではなかったか。
(ボロとは何だ、ボロとは!)
認知症と、ナビはツッコみなしですか。
「はい。うちのクラスではその辺の誤解は解けてんですけど、よりにもよっって、うちの学生が多くいるところで、美少女を泣かせましたからね。本当は泣いていた女の子、うちのクラスの宍倉彩音って子なんですけど、が白石に心無いこと言って、白石が起こったら泣いちゃったって話なんですけど。」
須藤のちょっと簡略化された話に、木津さんは納得したようだ。
「それで思い出した。どこかで見たと思ったら、この前の日曜にとんでもない美人の人と歩いてた男の子だ。」
木津さんが、いきなり爆弾を放り込んできた。