第148話 つぐみ先輩の妄想
「なんで、すでに本人がその単語を知ってるのよ!」
ギャル先輩が俺に突っかかってきた。
「今日、教室でバスケ部の宮越って奴から聞きました。」
「バスケ部から?」
「湊先輩ってわかりますか?」
「あっ!」
俺の出した名前に大塚部長とギャル先輩が反応した。
「俺も詳しくは知りませんが、湊先輩が柊先輩に振られた後に、大塚部長と有坂先輩が話していた内容に「白石ハーレム」という単語が出てきたって言ってました。」
「湊が…?」
「正確には湊先輩がお二方の会話で出てきた単語という事が、男子バスケ内で語られています。うちのクラスの男バスの瀬良と宮越の証言です。」
「あの野郎、まだうろついていたのかよ。」
ギャル先輩が苦虫を潰したような顔でそう言葉を吐いた。
「ああ、迂闊だったね、裕美。まさかあのバカなイケメン野郎は、未練たらたらってことだったんだ。」
大塚部長もそう言って、俺に目を合わせた。
「申し訳ない、白石君。あそこにはもう誰もいないと思って、つぐみの造語が、ちょうどあの雰囲気にマッチしてたもんだから、ポロっと言っちゃったんだよね。」
そう言って頭を下げた。
「もういいですよ、それは。振られて柊先輩に力で訴えようとしたことは、決して許されることではありません。有坂先輩の行動は立派だとは思います。それで、「白石ハーレム」ってなんで出てきたんですか?佐藤先輩。」
奥で入力をする振りをしていた佐藤つぐみが、油の切れた人形のようなぎこちない動きで、俺に顔を向けた。
どうせ聞き耳を立てていて、創作活動どころではなかったはずだ。
「いやあ、それはね…、まあ、なんというかさあ、君の周りにね、綺麗どころがやけに多いなあ、と思ってね、…ハハハ。」
何とか笑って誤魔化そうとしていることが、ありありとわかる説明だった。
「俺は別に節操もなく女子に声を掛けて囲ったりしてません。確かに綺麗でかわいい子が近くにいることは認めます。だからと言ってその女子と何かがあるわけではない。それでなくとも「女泣かせのクズ野郎」なんて嬉しくもない称号を賜ったところですよ。その誤解も解けていないところに持ってきて、
「白石ハーレム」。はっ、笑えませんね。」
俺は静かにそう言った。
その場にいる2年の先輩たちは何も言えずに、固まっている。
さぞやこのネタで、ありえない恋愛感情を楽しんだのだろうと、容易に想像できた。
俺がすごんでいるから、入部希望と言っていた同じ学年の木津さんも、いやな思いをしていることだとは思うが。
俺の前にいる3人は項垂れて俺の言葉を聞いていた。
「も、申し訳なく思ってるよ?この部の中でのみ、話される単語のはずだったんだよ。まさかお外に遊びに行くなんて考えてなくてさ。」
佐藤先輩が強張りながらも、懸命に自分たちの弁護に走っている。
でも…。
「それ、違いますよね、TSUGUMI先生。」
俺はわざとペンネームを言った。
その言葉に、木津さんの身体がビクッと震えた。
「ここら辺の話をもとに、小説、書こうとしてますよね?」
反応がない。つまり、ビンゴだ。
「小説のネタにするのは、ちゃんとフィクションとして取り扱ってくれれば構いませ。ただ、「白石ハーレム」っていう単語は、何とか消してください。」
思い切り渋面で俺を見た。
いや、いくら俺を睨んでもこれは譲れない。
「つぐみ先輩。ちなみにその「白石ハーレム」には誰がいるんですか?」
「え~と、確か、宍倉さん、生徒会の柊先輩、宍倉さんの背の高い友人、白石君の妹さんと、この前告白されたっていう中学生かな。」
全く、俺の怒りが理解できているんだろうか、この先輩は。
と思ったら、やけにつぐみ先輩を睨んでいるギャル先輩がいた。
「ああッと、あとギャルが一人いたかな。」
つぐみ先輩が後から足した「ギャル」という言葉に、納得するギャル先輩。
そこで納得するんですか、ギャル先輩は。
というより先輩もこんな妖しい「白石ハーレム」に入りたいんですか?
「ねえ、裕美。それ、露骨すぎ。」
大塚部長の一言に、何かを察したのか俺に視線を向けたら、急激に顔が赤くなって行った。
「ギャルさんと告白したという中学生とはそんなに親しくありませんし、大体、俺はそんな告白されたことはありません。単純に俺の妹が俺のことを酷く言ってたので、実物がそれほど酷くはからではないというだけです。」
俺はきっぱり言うと、他の先輩がシュンという感じになってしまった。




