第143話 「白石ハーレム」の出処
放課後。俺は宮越を捕まえようとしたが、さすがに状況が悪いと思った宮越が、一足先に教室を飛び出していた。
しまった、と思ったが、瀬良が宮越の腕を捕まえて戻ってきてくれた。
「さすがにあのまま放置はできねえよ。」
瀬良はそう言って宮越を近くの席に座らせた。
「さて、宮越君。昼休みに言っていた「白石ハーレム」について伺いましょうか。」
俺は宮越が座っている席の前に座り相対する位置を取る。
あやねるは今日も生徒会役員会議があるらしいが、今はこちらを優先しているようだ。
俺の右側に座って宮越に睨みをきかしている状態である。
可愛い女の子が睨みを利かしてる状況。
う~ん、おかしなことだな、これって。
ちなみに俺の左側に須藤がいるが、これは逃げようとした須藤を俺が拉致った結果である。
あやねるの横、または前に座らせていない事態で感謝してほしい。
ちなみになぜ須藤が拉致られたか?
帰りのSHR終了後、不用意にも「白石ハーレムはいいねえ」などと揶揄ってきたためである。
聞きようによってはこの「白石ハーレム」について、その噂を知っていたようにも聞こえる。
それと、知らなかったとしても、この席にいさせることで、あやねるの不機嫌な状態に身を晒すことに怯えるのは解っていた。
即ち、須藤に対する嫌がらせに側面もあった。
「な、なんなんだよお。」
宮越が情けない声を出した。
その右横、俺から見たら左斜め前に瀬良が立っている。
近くの椅子を引き寄せることも出来るとは思うんだが、とりあえず座る気はないらしい。
「宮越君。別にそんなに緊張することはないんだよ。ただ昼休みに君が言った「白石ハーレム」というものについて聞きたいだけだから。わざわざ俺の名がつけられているというのが非常に気になるんだよ。」
実際問題として、俺は今日初めてそんな単語が出るぐらいの変な噂があることを知ったぐらいだ。
その単語から内容は想像できるが、誰がそんなろくでもない話を口にしたのか。
さらにどのくらいの生徒、教員が知っているか。
非常に興味がある。
「いや、別に、みんなが言ってるからさ。その一員に鈴木さんが入ってたら…。」
語尾が急に小声になった。
俺は隣に立っている瀬良に視線を移す。
「ああ、白石、俺は全く関係ないぜ。宮越が白石と仲良く飯食ってる見かけない美人について、非常に興味を持ってたから声を掛けたまでだ。その「白石なんちゃら」については俺も今日宮越の口から出るまで全く知らなかった。」
「ええ、まじ?バスケ部内でそんなこと言ってたやつがいたから、バスケ部の連中はみんな知ってるかと思ってた。」
「宮越は誰から聞いた?」
「1-D の春日部が言ってた。」
「ああ、あいつか。」
妙に納得した雰囲気である。
だが部活内のことは俺は知らない。
「どういうことだよ、瀬良。」
「口が軽いっていうのは確かなんだが、うちの時期エースって言われてる2年の湊先輩と仲が良くてな。噂だけど、生徒会の柊先輩にコクったんだけど…、どうやらダメだったらしい。」
さすがはこの学校一とまで言われる先輩だな。
告白もバスケ部の時期エースか。
ん、でも柊先輩は生徒会長と付き合ってるって、あやねるが言ってたよな。
だから振られるのも当然なんだけど。
俺は隣のあやねるに視線を向けた。
あやねるもこっちを向いて、「なんかおかしい」と小声で言った。
「その湊先輩が振られた理由が、柊先輩には付き合ってる人がいるって話だったんだけど、なんかその湊先輩が後先考えず、柊先輩に詰め寄ったんだと。」
「うん、そしたら文芸部の紹介の時のファンキーなギャルっぽい先輩。あれ名前は忘れちった。」
宮越が瀬良の後を引き継いで喋ろうとして失敗したらしい。
「それ、有坂先輩だな。文芸部の副部長だよ。」
なんか、少し声が上ずっているようだ。
須藤がギャル先輩の名字を言ったが、なんでそんな声になる?
「そうそう、その有坂って人が二人の間に入って事なきを得た。ただね、最初はそのまま帰ろうとしたらしいの、湊先輩。」
「という言い方だと、素直には帰らなかったってことか。」
俺の言葉に宮越と瀬良が頷く。
これって、あんま、人に話していいもんじゃないだろうに。
ふと横の二人を見るとうんうんと頷いていた。
あれ、この話知らないのは俺だけ?
「その有坂って先輩と柊先輩がしばらく話してて、その後、有坂っていう人がまた別の女子の先輩と会ったらしい。」
このことにあやねるは小首をかしげていたが、須藤は誰だかわかったらしい。
俺も多分その女子は文芸部部長の大塚先輩のような気がした。
「内容までは解らなかったらしいんだけど、その時に「白石ハーレム」という結構衝撃的な単語が聞こえたって話なんだよ。」
宮越の話に瀬良が驚いていた。




