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第142話 「白石ハーレム」

 時計を見るともうすぐ予鈴が鳴る時間だ。

 結構話し込んだようだ。


 俺は自分の机を反転させて、元の位置に戻した。

 その前の席にあやねるが座り、次の授業の準備を始める。

 俺も同様に準備をしてると、後ろから肩を叩かれた。


 振り向くと瀬良がにやにやして俺を見ていた。

 その横に男子がいる。

 瀬良よりは背が低めだが、精悍な顔つき。


「見たぞ、白石に須藤。何だ今の綺麗な子。うちのクラスじゃないだろう?」


 ああ、変な奴に見つかったな。

 正直面倒くさい。


「ああ、あの子は宍倉さんと同じ中学の友人だよ。だから一緒にご飯を食べてた。」


 俺が言う前に須藤が簡単に説明した。


「ほお、さすがに美少女の友人もまた美人ってわけだ。かなりタイプは違うけど、なあ宮越。」


 瀬良がそう振ると、宮越と呼ばれた男子がちょっとぎこちない笑みを浮かべた。


「ああ、こいつ同じクラスの宮越真澄。昨日からバスケ部に入部したんだ。」


「よろしく、宮越君。おれは白石。」


「僕は須藤。よろしく。」


「あ、ああ、よろしく。白石はもうすっかり有名人だから知ってるよ。」


「はあ~、そうなんだろうな。」


 こういう言われ方は地味に傷つく。

「でだ、この宮越が今の美人は誰だってうるさくてな。」


「それ言うなって言っただろう!」


 さすがは瀬良。

 やらかしたわけだ。

 つまりこの宮越君、伊乃莉の整った顔に見惚れて、是非お近づきになりたい、ってとこかな。


 言われた宮越は顔を真っ赤にしている。


「そうか、ふ~ん。伊乃莉にねえ。」


 何気に下の名前を言ってしまった。

 急に宮越の顔が強張る。


「今言ったのって、下の名前だよな、白石。」


 その怖い顔を近づけるのはやめてください、宮越君。


「ま、まあな。鈴木伊乃莉。それがあいつの名前。」


「いつからそんな下の名を呼び捨てに出来る程に仲良くなってんだよ、白石!この「女泣かせのクズ野郎」。」


 そうキレられてもな。


「落ち着けよ、宮越。別に彼女と白石が付き合ってるわけじゃないんだからさ。」


「でもさ、瀬良。女子って、親しくない相手に下の名を、しかも呼び捨てにされていい気はしないだろう。」


 うん、それはまっとうな意見だよ。

 俺もそう思うけどさ。

 伊乃莉が呼べって言ったからさ…。

 と宮越に言う気は全くない。

 フルネームを教えただけでも感謝してほしい。


「そうだとは思うが、だからと言って白石に喧嘩腰なのはいただけないな。」


 あれ、本当に瀬良君だよね。

 いつもの瀬良君がどこにもいないんですが。


「あっ、ああ、確かにそうだ。わりい、白石。」


「まったくだ。フルネームはしっかりと教えた。後は自分で何とかすることだよ。」


「それは、ありがとう……。でさ、聞きたいんだけど…。」


 やけに宮越が低姿勢、というか踏ん切りがつかない、という感じ。


「ん、なに?」


「あのさ、鈴木さんてさ…。」


「ああ、まどろっこしい!宮越、さっきの喧嘩腰はどうした!」


「それは瀬良がダメだって言ったんだろうが!」


 予鈴のチャイムが鳴った。


「もう、いいかな?授業が始まるよ?」


 意を決したようだ。

 宮越の口が開く。


「鈴木さんってさ、白石ハーレムの一員なのか?」


 俺の頭が真っ白になった。

 こいつ、何聞いてんだ?


 俺の後ろでガタッと音がした。


「馬鹿か、お前は!」


 瀬良が勢いよく宮越の頭をはたく。


 てっきり、伊乃莉に付き合ってる人がいるかどうかの確認かと思ったら、かなりの斜め前からの発言が飛んできた。


 白石ハーレムって何?


「光人く・・・ん。ハーレムなんて、作ってたの?」


 ほら、変な事考えてくる女子がいるんだよ?

 明らかに動揺した女子、宍倉彩音さんが変なテンションで俺に聞いてきてるよ。


 ヤダ、怖い。

 後ろを振り向けない。


 俺の視界にいる須藤の顔が雄弁に物語ってる。


「み、宮越。ちょっと聞きたいんだが…、白石ハーレムって、なに?」


 瀬良に頭をはたかれ、手で頭をさすっていた宮越が、その俺の言葉に俺を見た瞬間、固まった。


 俺の右肩に誰かの冷たい手がのる。


 俺の耳元に、息が借るくらい近くに来ている雰囲気が漂う。


「光人君?無視しないでね?白石ハーレムってなあに?」


 女子の甘い匂いが俺の鼻腔に漂ってくる。

 普通ならその香りに胸が高鳴るのだが、俺の血が急速に引いていく感じになる。


「ははは。あやねるさん。その質問は俺ではなく、宮越に聞いてくれ。俺も初耳だ。」


 宮越の目が恐怖の色を挺している。

 あやねるの目が宮越に向けられたためだろう。


 さらに瀬良と須藤も固まっていた。


 そこでチャイムが鳴った。


「じゃあ、これで…。」


 宮越が逃げるように自分の席に戻る。


 俺も覚悟を決めてあやねるに顔を向けた。


 そこには笑顔のように見えるあやねるがいた。

 眼は全く笑っていない。


「チャイム鳴ったからさ、あやねるさん。前向こう。後で宮越捕まえて説明させるよ、ね。」


「わかった。放課後ね。」


 冷たくあやねるが言って、前を向いてくれた。


 とりあえずは助かった。

 ただ、時間を引き延ばしただけだが。


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