第136話 ダンス部公開練習招待状
夕食を終え、風呂に入ったのちに自分の部屋で明日の準備に取り掛かっていた。
明日からは通常授業に入る。
時間割を見て、その教科の教科書を揃えているのだが、微妙に何の教科かわからないものもあった。
どうやら国語の一環なのだろうが「表現」という項目。
まだ明日の時間割には入っていないが少し気になった。
明日は「国語・現代文」、「数学1」、「体育」、「英語・リスニング」と午前中にあり、午後から「生物」と「地理」となっていた。
体育の後に英語のリスニングか。一歩間違えると眠りに落ちるのは必至だな、これ。
鞄にそれらの教科書とノートを入れ、体操服のチェックをする。
胸元にクラスと出席番号のみ。
名前が見知らぬ人に知られるのを避けるための処置とのことだが、体育教師はすぐにこの番号で名前を憶えておかないと、注意も出来ないという訳か。
体育は女子の数も少ないことから、2クラス合同となる。
うちの1-G は1-Hと合同になっている。
1-Fと一緒でなくてよかった。
ここで大江戸と一緒は勘弁してもらいたい。
あやねるは伊乃莉がいた方がいいんだろうけど。
今日の所は早く寝とくか。
そう思ったときに、俺の部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
妹の静海が声を掛けてきた。
「ん、いいぞ。」
ドアを開いてパジャマの静海が入ってきた。風呂上がりのようだ。
「どうした?」
一言聞いてみる。
一応の心当たりはあるが、変に聞くと俺が楽しみにしてるようで、なんだか嫌だった。
部屋に入ってきてドアを閉めた静海が何かを持った右手を差し出す。
「昨日お兄ちゃんに言ってた、ダンス部の公開練習招待状。言われた通り3枚貰ってきた。」
「ああ、ありがとうな。静海は別にもらってるんだろう?」
「うん、正確には4枚貰って、1枚抜いたよ。他にも同級生たちが行くから一人じゃないからね!」
何をむきになってるんだ?
「俺と須藤、あと同級生のバスケ部の瀬良ってやつで行くことになったから、よろしくな。」
「あれ、宍倉先輩と鈴木先輩の分じゃないの?」
そういう勘違いをしていたか。
あれ、伊乃莉はいくのか?
「あやねるは柊先輩たちと行くって言ってたよ。生徒会に入ったからな。俺も須藤のほかに景樹を誘ったんだけど、サッカー部があってダメだって。」
「そういえば鳴海もサッカー部があるからダメって言ってたっけ。今まで名前聞いたことなかったけど、瀬良さんって誰?またお兄ちゃん、別の女子に手を出したりしていないよね?」
この妹は何を心配しているんだろうか?
この陰キャの俺が早々女子をひっかけるわけが……、と思ったが、既に結構な女子と知り合いになっていることを思い出していた。
「さっきも言ったけど、バスケ部の男子だ。ダンス部に興味あるらしくて、景樹に振られたらすぐに食いついてきた。」
「男子は解ったけど、その人大丈夫?そういう感じの人を排除するための招待状だと思うんだけど。」
「う~ん、言われてみれば。と言っても悪いやつではないんだよ。ただ少し女子に興味があるってだけ、だから。」
「一応さ、私の信用みたいのでもらって来てるわけなんだよね。あまり変な事して私の顔に泥を塗るようなことは控えてよ。」
「ああ、それは大丈夫さ!」
本当に大丈夫なのだろうか?
瀬良君、くれぐれも変な事はしないでくれよ!
一抹の不安はあるものの、静海から3枚のチケットを受け取る。
「でも、静海の友達、えっと、神代さん?なんで、俺を呼んだりしたんだ。あの年頃だと、やっぱり男の視線は恥ずかしいだろうに。」
俺の質問に、かなり不機嫌な顔に変わった。
「そんなこと、私が知るわけないでしょう!バカ兄貴!」
静海が捨て台詞を吐いて部屋を出る。かなり強くドアを閉めたようで、大きめの音が響いた。
「なんだ、あいつ。」
(まさかな。そんなことはないよな。実の兄妹なんだからな)
(親父は親父で何言ってんだ?)
(うん、気のせいだよ、光人)
(だから、一体何なんだよ!)
親父は一切答えなかった。