第130話 放課後のひととき
景樹と須藤はまだ教室に残っていた。
どうやらペットボトルロケットの件で何か話していたらしい。
「おお、お姫様はちゃんと送っていったのか。」
景樹が俺が近づくのを察してそう言ってきた。
「生徒会室に行くのに、護衛でもないだろう。教室の前で送り出したよ。」
「まあ、大丈夫だと思うけどさ。さっき塩入の所に山村咲良ってロングヘア―の女子が来てさ。俺と須藤にも可愛い笑顔で挨拶していった。で、その山村って子に塩入がついて行った先に、山村の班の人間が待っていて合流してたんだよ。なんか雰囲気が変でさ。」
俺もさっきそのシーンは見た。
そうか、あの集団は山村さんの班か。
そういえば放課後に班で話し合いがどうとか弓削さんが言ってたっけ。
「あれ、あの班って、室伏っていうラグビー部のガタイのいい奴いたよな。さっきの集団にはいなかったはずだよ。」
須藤がそう言って来て、昼の話を思い出す。
「うーん、その班の弓削さんっていうテニス部の女子から聞いたんだけど、さ。どうも、あんまりいい話をするんじゃないみたいで。その弓削さんと、ガタイのいい室伏は部活を理由に欠席するってことなんだよな。」
「なんだ、そのなんか極秘の話し合いって。親睦旅行って、そんなに大変な旅行なのか?」
須藤が不思議半分、恐怖半分という感じで言葉を連ねた。
さすがに俺も迂闊な不正確な情報をここでいう訳にもいかない。
ただ、その中に塩入がいるという事が少し気になる。
「大した話ではないと思うよ。結構親睦旅行で、男女が接近することもあるらしいしさ。」
景樹がその話を打ち切ろうとしたのだろう。
そんなことを言ってきた。
「えっ、そうなの?」
須藤が素っ頓狂な声を出した。
「先輩の情報な。親睦旅行で一緒に力を合わせて事のあたるから、そのまま付き会い始める奴もいるらしい。告白なんかもそれなりにあってね。うまくいく場合はいいけど、振られた後でもめ事が起こる場合もあるんだってさ。」
「ああ、それでか。さっきあやねるが生徒会室でその親睦旅行でのトラブルの対策法みたいなものを聞いてくるらしい。状況によっては生徒が間に入った方がいいってことなのかな。」
「そんなとこなんだろうな。ああ、それでな、光人。一応ペットボトルロケットの進行をな、こんな感じでってことでお願いできるか?」
すでに進行表まで作ってるのか。
手回しがいいな。
「しおりには制作に必要なものは学校で用意するらしいけど、最悪考えて、炭酸入りのペットボトルは俺が持って行くよ。お茶や水のペットボトルは圧を掛けた時に壊れるらしいから。」
「ほー、そういうもんなんだな。わかった、任せる。それはそうと明日の午後って、二人とも空いてるか?」
俺は先程のあやねるに言ったダンス部の公開練習について話して、誘ってみた。
「ああーと、すごく興味はあるんだけど…。わりい、練習ありそうだから無理っぽいな。」
景樹がそう断ってきた。
確か静海の友達もそんなことを言ってたような気がする。
「それって、一昨日の噂があった女子中学生?」
ん、そこに興味が行っちゃった、須藤君?
「噂って言われてもなあ。別に静海の友達で挨拶されただけだからな。」
「それは知ってるけど、わざわざ白石を誘うって、よっぽど気にいられたのかと思って。」
「そういう訳じゃないと思うんだが…。で、須藤はどうする?」
「ああ、見れるもんなら見てみたい。この前の部活動の紹介の時も凄かったから。静海ちゃんも可愛いけど、あの部の女子、何気に綺麗だったし…。」
「おお、須藤も結構積極的になってきたな。入学当初は俺のネタで女子と話せたってだけで、あんなに喜んでいたのにさ。」
この陰キャヲタク代表と言った感じの須藤が、ここまで感情を素直に言ってくれている。
俺のことを友人と思ってくれていることもうれしいし、女子とも普通に喋れるようになっている気がする。
俺の主観的願望が多分に入っているけど。
「まあ、一応、女子ばかりの文芸部でも鍛えられているし、TSUGUMI先生や雅楽先生なんて憧れの人たちがこんなに身近にいるんだから、緊張しすぎて喋ることも出来ないなんて、もったいないって思うようになったんだ。」
「凄い進化だ!」
つい驚嘆の声を上げてしまった。
「おっと、結構いい時間だから俺、部活行ってくるわ。」
「おお。お疲れ。」
「またな須藤。」
「また明日。」
爽やかイケメン景樹は颯爽と教室を出て行った。
「須藤はこれから部室に行くのか。」
「昨日逃げたからね。別に言ってもそこで小説が書けるってもんでもないけど、ちょっと思いついたネタもあるから相談みたいなこと、してくる。部長と副部長以外の先輩たちも来るらしいし。白石も行くか?」
行くとギャル先輩が変に接近してくるからな。
結構居心地はいいけど。
とりあえずは距離を置こう。
「有坂さんがいなければ行ってもいいけどな。」
「それ副部長には絶対言うなよ。とばっちりが俺に飛んでくるんだから。」
「須藤が言わなきゃ誰も言わないさ、じゃあ俺、図書室にでも言って時間を潰すとするよ。」
「何かあるのか?」
「あやねる待ち。」
「ああ、じゃあ僕はとっとと消えるよ。じゃあまた明日。」
「おお。ダンス部の件はOKってことでいいんだよな!」
「ああ、よろしく!」
須藤が出ていくと急に肩を叩かれた。
振り向くと長身の瀬良が変な笑みを浮かべている。
「聞いたぞ、白石。ダンス部の公開練習行くんだって。」
急に猫なで声で聞いてきた。
「な、何だよ、瀬良。気持ち悪いな。」
「俺もその公開練習の見学、仲間に入れてくれよ~。」
「えっ、瀬良ってバスケ部だろう。部活いいのか?」
「それは大丈夫!サボる!」
清々しいまでの、ダメっぷりだった。




