第128話 班会議
昼休みが終わり、午後の授業が終わると、親睦旅行の班での打ち合わせに割り当てられていた。
朝のことがあって、明らかに塩入が俺に敵意むき出しの視線をぶつけてくる。
俺はその視線に気づかないようにした。
ここで睨み返さば、おそらく何か言いがかりをつけてくるだろう。
これは中学時代での陰キャの防衛本能でもあった。
ただ、それでも何か言ってくるようなら、言い返すつもりになっているぐらいに、メンタルは強くなっているらしい。
前ほどその想像に恐怖を感じていない自分があった。
「では、カレーの担当はこの前通りという事で、いいね。」
班長を半強制的に押し付けられた景樹が塩入のそんな視線に気づいているのかいないのか、そんなのほほんとした発言から始まった。
いや、気付いていないわけがない。
これは変な空気にならないようにした、景樹の気配りだろう。
「それで、ペットボトルロケットの方だけど、実際にはスケジュールからすると、向こうで設計と政策となる感じ。でもこの時間が設けられてるってことは、設計くらいはしてもいいのかな、って感じだね。」
景樹が今回のこの時間でやるべきことを上げていった。
単純に、このペットボトルロケットについてのイメージの統一って感じだった。
制作のための材料は学校側で研修所に用意してあるとのことで、設計をするにしてもその寸法なんかは入れられない。向こうに行けば、このペットボトルを作るためのサポートもある、らしい。
最悪はそのサポートで適当に作ればいいって寸法だ。
但し、そんな適当に作ったものがうまく飛ぶわけもない。
上位を狙うならしっかりと理屈から知っておいた方がいいというわけだ。
噂では、この親睦旅行のこういった研修が内申点に加算されるという。
明確な点数ではないらしいが、日照大推薦時のボーダーで威力発揮という事らしい。
実際にこの噂は、こう言った半分レジャーのような羽目を外しそうなときの安全弁の役割を持ってるんじゃないかとは、先輩から聞いた話として景樹が言っていた。
「で、塩入に任せていいのか、この件。」
俺ににらみを利かせている塩入に、景樹が振ってきた。
本当にやる気があるのなら任せるという、景樹なりの意思表明だろう。
だが、というかやっぱりというか、この景樹の言葉に当の塩入が慌てて、俺から視線を外し、景樹を見た。
「あ、えっと、ペットボトルのロケット、だよな?」
あまり聞いていなかったのか、聞き返した。
「ああ、そうだよ。この前、作ったことがあるって話だったからな。」
少し皮肉っぽく景樹が言う。
できるものならやってみろよ、変に人に絡まずに。
そんな景樹の心の声が聞こえてきそうだ。
「いや、ちょっと前に作った時の資料、家で探したんだけど、なんか親に捨てられたみたいで…。」
思った通りの反応。つまり、資料がないので俺にはできないといういい訳か。
「そうは言っても、実際に作ったんなら、わかるんじゃね?」
班の一人、瀬良が正論を言った。
確かに資料はネットからいくらでも手に入る。
ここで、変にできる、とか言っちゃうと当日に恥をかくことになるのは解っているらしい。
ここでそんな恥をかけば、他の人から変な目で見られることは間違いない。
「いや、つってももう昔のことだし…。」
おお、さすがに安請け合いはしないか。
ここで少しじらして、しょうがなく引き受けて、この週末にネットや動画で調べる、っていう手もある。
「わかった。塩入が出来ないってんなら無理強いはしないよ。」
おお、景樹。
あっさり切ったな。
まあ、今のは本人にやる気がない、っていうかやったことが無いことを織り込んだというこか。
「ちなみに、誰かほかにわかる奴いるか?」
そう言って、景樹は班員を見回す。
女子のあやねると今野さんは二人して首を振り、瀬良はアメリカ人がよくやる肩をすくめるポーズ。
俺も首を振る。
一応ネットで軽く見てはいたが、この場で言えるほどではない。
景樹がそれでいいみたいに頷く。
塩入が俺ににらみをつけてきてて、さらに恥の上塗りみたいなことをしない方がいいという事だろう。
そんな中で、須藤が自信無げに右手をそっと上げた。
「あの~、一応調べてみたんで、経験はないけどそれでいいなら。」
「おお、須藤、やるな。みんなやったことないんだから大丈夫だよ!」
景樹が須藤にそう言った。
須藤の消極的な態度に対しての発言だろうけど、完全に塩入が未経験であると決めつけた発言であることには気づいていないようだ。
こんなとこは少し抜けている。
塩入は何も言わなかった。




