第127話 山村咲良の陰謀
「これからいう事ってのは、正確さを欠いてるという事をまず覚えておいて。結局何事もなければいいんだけど…。万が一ってこともあるんで、ね。」
そう言って、俺の横の智ちゃんに顔を向けると、智ちゃんが軽く頷いた。
「昨日、うちの班で作ってるLIGNEのグループに山村咲良さんからメッセが届いたんだけど…。」
同じ班で共有事項はあるだろうし、この学力テストがあるから班での決め事も後回しになっていた。
うちの班もカレーの分担くらいは決まってるけど、ペットボトルロケットの制作については下調べもしていない状況。
LIGNEで細かいことを決められなくても、大まかな制作の流れや、役割分担はできるだろうし、連絡手段としては当たり前。
「まあ、今日放課後に集まろう、みたいな感じ。ただ、私と室伏君は部活を理由に欠席と連絡してある。」
「真面目に親睦旅行の計画を立てるとしたら、そんな感じになるんじゃないかな。うちの班にはそんな気配は皆無だけど。」
俺の言葉にあやねるが頷く。
「そう言われれば普通はそうだよねって、返すとこなんだけど…。うちの班、というか山村さんが、ね。」
ほお、あの柊先輩の劣化版の人か。
「私が苦手ってこともあるんだけど…、、不穏なんだよね。」
「ふ、不穏、ですか?穏やかではないっていう、あの不穏?」
思わず出てきた単語に反応してしまった。
「それ以外に何があるの、白石君。」
「いやあ、ちょっと気になるワードが出てきたんで、ついツッコんでしまいました、ごめんなさい。」
「素直だね。で、なんでそんな単語を使ったかって話だよね。」
大きくため息をつく。
話しづらい内容らしい。
なんとなくその山村さんが宍倉さんを見る目が、好意的ではないことからも、その話ってやつに心当たりがあった。
後から考えると、俺の考えの甘さに自分で自分を殴りたくなったのだが。
「山村さんは、宍倉さんと白石君が気にくわないらしいの。入学してすぐに話題の中心になったでしょう?あの人、自分が中心じゃないと気が済まない感じなんだよね。」
思った通りだ。
俺たちが騒いでる時の彼女の視線、やけに冷たかったもんな。
「その雰囲気は感じていたけど…。それがその不穏にどうつながるの?違う班だし、そんなに関わり合う気もしないけどさ。」
全くその不穏という単語が結びつかない。
これが政治の世界、もっと小さく言うなら会社の派閥抗争という事ならまだわかるけど。
その山村さんが将来的に日照大に進学する気がない、としてもだ。
指定校推薦もあるんだ。
下手なことはできないと思うんだけど。
「単純に嫌いってことなら、わざわざからもうとは思わないと思うよ。でも、彼女の場合、自分より目立ってるのが気に入らない、って子だよ。そこを忘れちゃダメ!」
かなり強い調子で弓削さんが言う。
地下鉄のホームでも思ったけど、この子、結構正義感、強いね。
「さらに、この山村さんの扇動に乗ってる子たちがいるんだよ。槍尾君ていう男子と湯月玲子さんていう女子。この二人も白石君と宍倉さんにいい感情持っていないみたい。バレー部の本橋沙織さんは面白がってるだけだったけど。」
「でも、なんで私、そんなに目の敵みたいに思われてるんですか?」
あやねるが本当に解らなそうに言った。
うーん、そういえば中学3年時には男子はともかく、女子は自分をかばってくれたって言ってたな。
だから女子の嫉妬って、理解できてないっぽい。
それにその時は強コミュお化けと言われる鈴木伊乃莉が横にいたからな。
とすると、俺はしっかりとこのか弱きお姫様を守らなきゃいけないわけだ
「簡単言えば可愛くて目立ってるから、かな。白石君?」
「ああ、やっぱり俺のせいか。入学式でぶっ倒れて、さらにバス停であやねる泣かせて…。」
うん、思い当たることはありすぎる。
「おそらくは、俺の近くにいて目立つほどの可愛さ。そして、自分で自己評価の高い山村さんにとっては邪魔な存在、って言ってしまうとなんか酷い女に見えるな。」
俺の言葉に弓削さんが頷く。
「まあ、自分はモテると思ってるのは間違いないよね。で、高校生活のスタートに躓いちゃったって感じ?で、それを他人のせいにしたい。格好の的が宍倉さん。」
弓削さんはよくわかっている。
智ちゃんは、ちょっと俺のことで人の機嫌を察知しづらくなってるんだろうな。
いつもの智ちゃんならこんなこと、すぐに察することが出来る人だ。
弓削さんは山村さんと同じ班っていうのもあるけど。
「私はどうしたらいいのかしら?」
「あやねるはとりあえずこのままでいいよ。もし山村さんかその班の女子が変な難癖付けてきたら、今のことを思い出して。俺か景樹に言ってくれれば護れるよ。伊乃莉でもいい。あ、弓削さんと智ちゃんにも頼ってもいいかな?」
「もちろんだよ。でなければこんな話、言いに来ないし。ねえ、智ちゃん。」
「う、うん。も、もちろん。頼ってもらっていいよ、うん。」
なんか気乗りしないみたいだけど、言葉に出した以上約束は守ってくれる人だ。
「何を考えてるかはわからないけど、常識的な範囲を逸脱するようなら、私も先生や他の人に助けを求めるから、宍倉さんは注意だけはしてて。そうだ、LIGNEのID交換してもよい?」
「うん、お願いします!」
少し暗くなっていた顔が、友達が出来たことに純粋に喜んでいるようだ。
ああ、高校になっても、くだらないいじめって、絶えないんだな。




