第121話 生徒会役員室 Ⅳ
2年の御園先輩だった。
普段は物静かな人だと思っていたけど、先輩に対してこんなことしちゃうんだ。
「カホ先輩の可愛い女子好きも困りますが、真里先輩のその恋愛妄想もいい加減にしてください!本当に話が進まないんですから!」
ここは生徒会役員が集う、生徒会室。
一応、この高校の学生の中枢が集まるとこだと思ってた。
だから、自分なんかに務まるのかと思っていたけど…。
入ってみたら面白キャラの動物園だった。
少し肩の力が抜けた気がした。
「ごめん、オウギ。またやっちゃたか…。つい想像してたら面白くなっちゃって。」
「本当に困ったもんだわ、その妄想癖。」
柊先輩があきれた顔で岡林先輩の顔を見ていた。
さっきと立場が逆転している。
「観客がいた話はしたけど、そんなギャグみたいな展開はなかったわ。それより私にとっては本当に困った問題でよくそんな妄想を語れっるね、まりっぺ!」
「だから、本当にごめんって。話の腰も折っちゃたみたいで…。」
「もういいわ、いつものことだし。」
ああ、この光景がいつものことなんだ。ヤバイ、変なとこ入っちゃったかも…。
「はい、そこ!後悔してももう遅いからね!」
岡林先輩に図星をつかれた。
「話した方がいい?それとも、もうやめとく?よく考えたら湊君に悪いって感情も芽生えつつあるんだけど。」
「どうか聞かせてください、カホ様。」
岡林先輩が微妙に真剣さを欠く発言をした。
「話し戻すよ。まあ、有坂ちゃんが見守る中、湊君はそうとは知らずに私に告白してきました。そこは充分見当はついてたんだけどね…。」
「ああ、その告白の仕方、っていうか言葉選びに、カホがカチンときたと。」
「そう。まあ、私が付き合ってる人がいるかどうかを聞いてこないくらいはいいんだけど。」
「そうか…。そこで聞いてくれば「付き合ってる人がいる。貴方の想いは受け取れない」で終わるとこだ。」
「正直に言えば、それが一番楽だったんだけど、ね。ついでに周りに吹聴してくれれば、こういうこともなくなるって考えもあったし。」
「で、実際は?」
岡林先輩がグイグイ行ってくれるから、周りはただ聞いてるだけでいいんだけど…。
こういうプライベートなことにこんなに突っ込んじゃっていいのかな?
ただ、そうは見えなかったけど、これって柊先輩がかなり怒ってるって考えた方がいいんだろう、きっと。
「「関係ないです。僕は柊先輩が好きです。この気持ちは誰にも負けません」、この言葉にはさすがにまいったわ。私のことを何も考えてないんだもん。」
「確かにね。単なる自分の気持ちを押し付けてるだけ、だもんね。で、カホはキレた、と。」
その言葉に自嘲的に笑みを浮かべた柊先輩。
しくじった、てな感じが見られる。
「そうね、まりっぺの言う通り。思わず思ってることをぶつけちゃった。さっきも言ったけど、有坂さんがこっちを見てることは確認してたし。ただ、湊君がそこで手を出してくるとは思わなかった。」
「えっ!」
岡林先輩が柊先輩の声に驚いて声を大きくした。
ただ、それを聞いていた私たちも驚いていた。
手を出されたなんて、と思って見ても柊先輩の綺麗な顔に目立つようなところはない。
という事は体に?
「ああ、勘違いさせてごめん。手を出されたと言っても、殴られたとかじゃないから。正確には手首をいきなりつかまれたの。」
「いや、それだって大概だよ。何、そいつの子とひっぱたくぐらいはしたの、カホ?」
「それが出来ればよかったんだけど。急に手首をつかまれて、怖くて体がうまく動かなかったんだよ。」
少し思い出したように手首をさすっていた。
「そうか、それでヒーローじゃないか。ヒロイン有坂の登場ってわけだ。」
「ハハハ、そう、確かにヒロインだったわ、彼女。カッコ良かったよ、有坂さん。私の手首をつかんだ湊君と私の間に強引に割って入って、引き剥がしてくれたんだよ。漫画だと、こういうときは格好いい男の子が来るもんだと思ってたけどね。」
あのギャルの先輩って、なんか言っちゃいけないんだろうけど、漢気あるなあ。
去年の文芸部での事件でもそうだと思ってたんだけど。
「で、その有坂さんといろいろ話してたら遅くなっちゃった。」
「その後は大丈夫なの?確か、有坂さん、武道をやってるとかって聞いたことないけど…。」
心配そうにする岡林先輩。
でも、柊先輩は女性でも惚れてしまいそうな明るい笑顔を振りまいた。
「あの湊君だからね、その後は正気に戻ってくれたよ。でも、本当にあの時、有坂さんに飛び込んできてくれなかったらと思うと、ちょっと恐怖。一応、人を見てたつもりだったけど、あの体格で体を抑えられると女性の非力さを思い知らされたわ。」
そう、本当に男は怖い。
私もその言葉に同意した。
自然と首が上下に振れたようだ。
「ん、彩ちゃん?なんか、されたことあるの?」
私の体の動きに御園先輩がそう聞いてきた。
その時に初めて自分が無意識に動いていたことを知った。
「……、ええ、ちょっと…。」
私が言いよどんでいると、柊先輩がまた私を抱きしめてきた。
「何も言わなくていいよ、彩ちゃん。怖いよね、男性に迫られると…。」
そう言いながら私の頭を撫で始めた。
ええ、確かに男子に迫られたり、身動きできない状態で体を触られたりするのは怖いですう。
で、先輩に抱かれると、なんか変な気持ちよさがありまして、さらに頭を撫でられたりすると、ついスリスリしたくもなりますが。なりますが!
「もう、やめてくださいよ、柊先輩!」
とりあえず、拒否の言葉を吐く。
「違う!柊じゃなくて、夏帆、またはカホ以外却下!」
放す気はないらしい。
だんだん頭に血がのぼってきてるのか、ポワ~って感じになってきちゃった。
「わかりました、わかりましたから話してください、カホ先輩!」
「よろしい!」
そう言うと、あっさり私を解放した。
油断するとさっきの心地良さを求めて、私から抱き着いてしまいそうだ。
「そんなに私はダメージを受けてないから大丈夫だよ。心配させてごめんなさい。」
柊先輩、いやカホ先輩は優雅に頭を下げた。
ああ、先輩は強いなあ、と思いながら、私はこんな風に成長できるんだろうかと少し不安になった。