第120話 生徒会役員室 Ⅲ
「あんまり、こんなことを聞くのは、趣味がいいとは言えないわよ、まりっぺ。」
軽く睨むように柊先輩が岡林先輩を見る。
そんな柊先輩に思いっきりいい笑顔を向ける。
「ふつうは聞かないわよ、カホ。ただ今回は、一応役員の会議中に連れられて行って、1時間も帰ってこない。彩ちゃんもしんぱいしてたんだよ。ね、彩ちゃん。」
「あ、はい。いくら、そういうことに慣れている先輩でも、心配でした。」
岡林先輩に振られ、思わず本音で言ってしまった。
心配だったのは本当だ。
自分の嫌な卒業式の記憶が蘇ってきたこともあったから。
でも、今は柊先輩が会長と付き合ってるという事に、何故か安心している自分がいることも分かっていて、柊先輩に対し純粋な心配の気持ちが出てきたのも事実だった。
そんなことを考えていたらいきなり抱きしめられた。
「んもお~、本当に可愛いよね、彩ちゃん!」
柊先輩にいきなり抱きしめられ何もできない状態。
この匂いはラズベリーっぽい。
きっと汗かいて制汗剤でも使ったのかしら。
柊先輩は私より背が高い。
で、先輩の物は私より小ぶりだけど、しっかりと自己主張できる存在。
その二つの丘が私の方に押し付けられている。
さらに先輩が左横から抱きしめてきているので、右腕が私にお山の頂点を刺激していた。
「いい加減に、その趣味はやめなさい!」
岡林先輩の叱責で、柊先輩に不服そうにして私から引き剥がされた。
「可愛い女の子が好きだからって、そういうことはしないって、何度私に言わせれば気が済むの?」
「だって、私を心配そうに見る彩ちゃんが可愛すぎて。もう尊いったら。」
「わかったから!せめて男子のいないところでやりなさい!」
今ここにいる男子。
大月副会長と八神先輩、そして名前が一切呼ばれていない1年男子君。
大月先輩は多分、一生懸命訝しむ顔を作ろうとしてるところがうまくいかず、変に顔が歪んで、いやらしさが倍増している。
八神先輩は岡林先輩の注意に慌てて顔をそむけた。
1年生男子君は目尻が下がり、鼻の下が伸びきっていて、どうもその顔に本人が気づいていない。
「あなたのその行動は、百合好き女子だけでなく、一般思春期男子に爆弾なんだから!そのことをしっかり自覚しなさい!」
なかなかにすごい説教だ、岡林先輩。
この言い方、必ずしも嫌いじゃないんだな、その方面の話。
と思っていたら、笹木さんも普段のクールぶってる態度とは裏腹に頬を赤らめてた。
あれっ、もしかしたら結構面白い人?
「ごめんってば、まりっぺ。確かに私が可愛い美少女にこういうことをしてはいけないことが、この部屋の人の反応でよくわかりました。今後は少し慎みます、教官殿!」
「少しではなく、大いに慎みなさい!そして、教官はやめなさい!」
あ、これっていつも怒られるたびに柊先輩が岡林先輩に言ってるってことだな。
状況如何では、岡林先輩は暖かく見守ることもあるな、これって。
「話が進まないわね、ホント、カホって。で、湊君にはうまく断れたの?どうもそこらへんでトラブったんでしょう?」
「まあね。ちょっと観客がいたから、つい余計なこと言っちゃって。」
この言葉に、岡林先輩だけでなく、皆、視線を柊先輩に集中した。
「文芸のお騒がせちゃん。今は副部長だったけ、ギャルっぽい恰好で目立ってる有坂ちゃん。」
「あの子がどうして体育館裏に?あれ、つけられちゃった?」
「ううん、先にいたのは有坂ちゃんだよ。非常階段の陰になるとこに一人でいたんだ。」
文芸のギャルっぽい子?
部活紹介の時に光人君達に絡んでいて、部室でもちょっと怖かった人、だよね。
「ああ、そういえば、たまにいるって話聞いたことがあるよ。でも、いつも一緒に誰かいるって聞いてたけど…。」
「今回はひとりだった。ああ、でも後から探しに来た子はいたよ。確か部長の大島さん。」
「それで、カホはそこに人がいると気づいたのはいいけど、湊君は気づかなかったんだ。だと、有坂ちゃんと湊君の間でトラブル?」
「まあ、最終的にはそうかな。」
「えっ、えっ、もしかすると、もしかして!」
変にテンションが高くなる岡林先輩。ちょっと様子がおかしい。
「湊君がカホに告白することを察して、先回りしてた、とか。で、告白しようとしたとこに、有坂ちゃんが間に入って、湊君に告白しちゃって。さらにそのことに湊君もまんざらじゃなくて、……二人が目と目を見つめ合いながら、「愛してます」なんて言っちゃって、そして近づく二人の距離。もう抱きしめるかと思ったところで、唇が、ガフッ!」
岡林先輩の後方から頭に丸めたノートが振り下ろされていた。
私はびっくりしてその振り下ろした人物、岡林先輩の暴走を止めた人を凝視した。




