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第117話 山村咲良 Ⅱ

 LIGNEの一斉メールで、案の定、室伏と弓削が欠席の知らせを送ってきた。

 だが、それも計算の内。あのお二人がいない方が、うまく事を運びやすい。


 宍倉をある程度追い詰めて大きい顔をさせないことと、白石の悪評をもっと広めて、父親の美談をかき消すくらいまでにはしたい。

 でないと、自分の存在を誰も認めやしない。


 これだけの美貌で、このスタイル。

 クラス全部の男子生徒の目を引くとまで言わないが、大半は私のことをよく思う、言い換えればあたしの我が儘が通りやすい状況を作れるはずだったのに。


 完全に計算違い。


 白石の存在がすでに邪魔。

 だからこそ、バス停での話にかなり脚色を加えて、広めて、それもうまくいったと思っていたら、室伏に潰された。

 まあ、学校中に知れ渡っているから、もう少し変な目で見られるかと思ったんだけどな。


 宍倉も「私が一番かわいい」とでも言いたいのかってんだ。

 何が「男子が苦手」だよ。自分は清純ですってアピってんじゃねえよ、まったく。


 それでなくても、せっかく自己紹介というスポットライトも、白石ネタでほぼ潰されてるし。

 そこに来て、読モだか、毒蜘蛛だか知らないけど、柊夏帆なんてのまで現れて。


 私は、お風呂から上がって自分の自慢の髪の毛を乾かしながら、明日のことを考えていた。

 渡辺と槍尾は男子だから、私が構えば問題ない。

 湯月玲子は最初から私を崇拝するように見ていたからこれも大丈夫。

 本橋は体育会系なところが微妙とはいえ、噂話、恋バナは大好き。

 きっと私の思い通りに動いてくれるはずだ。


 自分のスタイルをもう一度姿見で見てみる。

 長めのストレートヘアは重すぎないくらいの黒髪。

 腕も足も細く長い。

 どちらかと言えば細身の身体だが、胸は一応Cカップはある。

 15歳にしてはできすぎたプロポーションだと思っている。


 中学の時はまだこれほどではなかったが、顔立ちは整っていたので、男子たちの憧れの的だった。

 女子の多くの反感は買っていたようだが、少なくはない崇拝者みたいなものもいたのだ。


 女王様、と陰口を叩く奴もいたが、それは私の存在に対する勲章でもあった。


 私はショーツだけの自分の体に満足して、ショーツと同じ薄水色のシンプルなブラを纏い、パジャマを着た。


 そのまま脱衣所から出ると、そこに姉の桃花がいた。

 私より一つ上だが、背は私より10㎝も低く、幼児体形である。

 顔こそよく似てると言われるが、その顔も前髪で隠すようにしている。

 いわゆる陰キャだ。

 でも頭はいい。

 私が落ちた中学をいともたやすく受かりそのまま高校に進学している。


 でも、女性の武器はその見た目の美しさだ。

 頭がいくら良くても、姉のようではどうしようもならない。

 まず見た目と、狡猾さ。

 どのみち人と人との交流は騙し合いなのだし。


 頭の良さは確かに必要。

 でも、自分をよく見せる努力も必要。

 何もせずに人を従えさせるなんて、本当の天才だけだ。


 私は努力をしてきたし、これからも努力して自分の思い描く道を進んでみせる。


「お風呂、済んだ?」


「うん、ごめんねお姉ちゃん。ちょっと髪を乾かしていたの。遅くなっちゃた。」


 少し猫なで声で姉に言った。


「うん、大丈夫。じゃあ、入らせてもらうね。」


 そう言って私と入れ替えに脱衣所に入った。見るからに節制をしていない体を横目で見て、少し違和感を覚えた。


 あれ、胴回り、少しすっきりしてる?


「あ、お姉ちゃん?」


 思わず声を出してしまった。

 姉が振り向く。


「なあに、咲良?」


 姉が不思議そうに私を見た。


「いや、何でもない。」


 多分、私の思い違いだ。

 そうに決まってる。

 姉がやせた、なんて…。


 私はそのまま2階の自分の部屋に入る。


 最近売り出し中のイケメン5人組「プリンス・エンペラー」のポスターが壁一面に張られていた。

 特にギター担当の藤巻流が中央で微笑んでいるこのポスターは自分のお気に入りである。


 クラスで気に入らない人物に平気で嫌がらせが出来る少女。だが、少女らしく咲良には憧れの人がいた。

 それが藤巻流である。


 が、この事を知っているのは家族以外にいない。


 中学時代に仲がいいと思った友人は、私を撒き餌代わりに使い、寄ってくる男子の一人をゲットした。

 どこか藤巻君に似ていたその男子を、しかしその友人が私のあることないことを吹き込み、自分の彼氏にしたのだ。


 私にもプライドがあった。

 まさかその男子をよく思っていた、などという事はできなかった。

 その友人はいやらしい笑いを浮かべ、「彼を振ってくれて、ありがとう」と、いけしゃあしゃあと言ってきたのだ。

 私はまだ言葉も聞いていなかったのに…。


 人は騙してくるもの。

 貴重な経験だ。

 私の今の中枢を形作る言葉だ。


 その後、他の男子をそそのかして、二人の仲は壊したが、私は友人も、恋人も、自分さえも信じられなくなった。


 だから、仲のよさそうな奴らを男女の別なく壊したくなったのである。


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