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第116話 槍尾霧人 Ⅱ

「ああ、そいえば、この前LIGNE交換したうちの女子から、そいつが美少女中学生から告白されたとかいう噂が回ってきましたね。」


「美少女中学生!えらいワードぶっこんで来るね、ウミウシさん!」


「その美少女中学生って単語だけで、萌えキュンしちゃう!」


 あっ、暗黒面に落ちていたスコープウルフさん、戻ってきた。


「でも、ウミウシさんもやりますな。すでに女子とLIGNE交換ですか。」


「いや、これは…。今度学校行事で同じ班になるんで…。」


「青春ですね、ウミウシさん。では、また。」


「じゃあね。」


 二人がログアウトした。


 ヘッドフォンを外して、ゲーミングチェアに深々と体を沈めた。


 心地よい勝利の高揚感に浸っていると、ノックと共に僕の部屋の扉が開いた。


「ほら、キリ、さっさと晩御飯食べな。母さん、怒ってるよ。」


 姉の雫が文句を言いながら僕の部屋に入ってくる。

 ディスプレイを覗き込むが、すでにゲーム画面は終了させてある。


「なんだ、もう終わってるじゃん。」


 タックトップにショートパンツという、見る人が見れば興奮するであろう現役大学生の姉さんが、胸の谷間を強調するように僕を見る。


 下のベージュの下着も見えるが、さすがに実の姉のそういう光景では、何も感じない。


 顔は十人並み。

 化粧して、2割くらい良くなるという感じ。

 胸はそこそこあるけど、特別大きくも小さくもない。

 普段から家でこんな姿をしているから、女性に対しての幻想はあまりない方だと思ってる。


「どう、実の姉の谷間からちらっと見えるブラ。キリももう高校生だと、来るもんあるでしょう?」


「この雫姉さんの修行の成果で、無心で見ることが出来るよ。」


「本当に、あんたは面白くないな。顔を赤らめて「やめろよ、姉貴。俺、こう見えても男なんだぜ」って照れるの楽しみにしていたのに。」


「だったら、10年位前から、僕の前ではそういう格好をすべきではなかったね。」


「本当に、憎たらしいわね。洞下折りて、さっさとご飯食べちゃいなさい。」


 姉さんはそう言って階下に降りて行った。


 PCをシャットダウンさせ、立ち上がった。


 そのタイミングでLIGNEの音がした。


 見ると、さっきの雑談で出た、噂の出どこ、山村咲良さんだった。

 「明日、班会議やろう。放課後、学食で。」とだけ来た。

 「OK」と返しておく。


 僕に限らず渡辺結弦も、白石に対してあまりいい感情は抱いていない。

 室伏は動画の影響でかなり白石寄りではあるが。

 そうは言っても、それは傍から見ていて、という事だ。


 そんな他愛もないことを言ったら、山村さんが食いついてきた。


 いわく、調子に乗ってるから親睦旅行の時に、ちょっと揺さぶりかけよう、と。


 そのことに関しては、僕も、室伏も渋い顔をした。

 室伏は見たとおり、男気のあるいい奴だ。

 そんな誘いには乗ってこない。

 だが、僕はこの山村という綺麗な女の子が何を考えているか、非常に気になった。

 この槍尾という特殊な名前でなければ、こんな綺麗な子と喋ることもなかっただろう。


 話は単純だ。

 白石と宍倉さんがかなり親密なところに行って、揶揄ったり、囃し立てたりする。

 純情そうな宍倉さんは、きっとそのことに過剰に反応するだろうと、山村さんは言っていた。

 「何が男性が苦手よ!すぐに男捕まえといて」という山村さんはちょっと怖かった。


 確かに、宍倉さんのあの発言は、信じろというほうが無理があるよな。


 湯月玲子さんは山村さんの話に乗り気だった。

 見た目は普通の女の子だが、彼氏持ちみたいなものが許せない、みたいな陰キャ前回の発言をしていた。

 本橋沙織さんは少し引き気味、弓削佳純さんは明らかに嫌そうな感じがした。


 そんな雰囲気だが、旅行につきものの高揚感によるちょっとした冗談であれば、許されるんじゃないかと思っている自分がいた。


 具体的には明日の話し合いか。


 と思ってたら、グループチャットで、室伏と弓削さんが欠席する旨を伝えてきた。


 あの二人がいないと、ストッパーがいなくなる気がするんだけど…。


 まあ、盛り上がりはするだろうな。


 でもな、聞いた話だと女子のいじめって陰険だって聞いた気もするんだけど…。

 そこに手を出していいんだろうか?

 まあいい気になっている白石を多少苛めることには、賛成だけど。

 俺って、本当にリア充とやらが嫌いらしい。


「霧人!早くしなさい!」


 母さんの声に、俺は重い腰を上げた。

 妙に気が重いのはなんでだろう?


 今日は父さんは遅くなるって話だ。


 何か聞けば父さんなら聞いてくれるかもしれないが…。


 まあ、まだ旅行までは日がある。

 班の話し合いで、全く違うことになるかもしれないし、明日の話し合いで決まってもいいだろう。


 でも人の嫌なことをするための相談というのも、感じは悪いかな。


 そんなことを考えていると足も重くなるというものだ。


 すでに雫姉さんは夕食を食べていた。


 俺が1階のダイニングテーブルに座るのを見た母さんが、茶碗にご飯をよそって俺の前に出す。


「本当にいい加減にしなよ、霧人。呼んだらすぐ来い、って言ってあるよね。それと、ゲームは10時まで。その約束でお父さんがあのパソコン買ってくれたんでしょう。」


 母さんの小言はいつも通り。


「わかってるよ。でも、区切りのいいとこじゃないと、ダメなんだよ。」


「じゃあ、全て終わらせてからにしなさい。終わってから風呂、食事とか言うなら、もうやらせないよ。」


「はい、はい。」


 お小言はいつものことだが、せっかくの夕飯が、すぐに食欲がなくなってしまった。


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