第115話 槍尾霧人 Ⅰ
「そこ、遅いよぉ。」
つい大声で敵に対しての攻撃の遅さに、そう声を荒げてしまう。
案の定、即行躱して安全圏に退避している。
僕はすぐに狙撃ポイント移動、攻撃の遅いアタッカー・スコープウルフをマシンガンでサポートして、ひかせる。
すでにビルを回り込んでいる敵の出る予測ポイントに意識を向けながら、それ以外のルートをマシンガン連射でルート選択の幅を狭める。
ビンゴ!
他のルートを絶たれた敵がビルから顔を出す。
迷わずもう片手に持っていたグレネードランチャーを発砲。
ビルの側面ごと爆発。
敵の数が一時的に2に減った。
「ライオンヘッド!突進して、手榴弾5個くらいばらまいて退避して」
「了解、ウミウシ。」
もう一人のアタッカー・ライオンヘッドが指示通り小型の爆弾を前方に投げて、すぐに続いて爆発した。
コードネーム・ウミウシこと僕、槍尾霧人はディスプレイ内で展開されるファンタジー的な背景の中で戦っていた。
今日は3人対3人でネットを通じてゲーム中。
ウミウシの自分と二人のアタッカーはいつも一緒にやることが多いメンバーだ。
僕のアバターは手にしていたグレネードランチャーから、ハンドロケットに換装、実際に人が使ったら使用者がすぐ死んじゃいそうな炎を噴射してやや上方に跳びだす。
これを相手チームが3人いた時にやるとすぐに撃ち落されるところだが、相手は一時的に2人のこの時間が勝負とみて、僕は空に飛び出し、先ほどスコープウルフが打ち漏らした敵に接近、そのままハンドロケットから手を放し、落下しつつ愛用のロングソードをチョイス。
相手が慌てて銃口を僕に向けるが、一瞬僕の後ろの太陽にディスプレイが真っ白になったはず。
そのままロングソードで切りつけた。
敵が1になったことを確認直後、0になった。
僕の空中滑空という大技に、もう一人も反応してしまい、スコープウルフの餌食になったようだ。
ディスプレイにWinの文字が浮かぶ。
「お疲れっす。」
「おっつー。」
「お疲れさま。」
二人の仲間からのねぎらいの声に僕も答えた。
たぶん、この中では僕が一番若いと思う。
で、プレイ以外は丁寧な言葉で話すようにはしてる。
「相変わらず、ウミウシ君は無茶というか、見事というか…。」
「いやあ、ライオンさんのサポートがあったからですよ。あの爆発、陽動として見事でした。」
「君に褒められると照れるな。まあ、貴重な手榴弾、5個も爆発すりゃあ、何事かと思うよね。」
「すいませんっす、俺が下手こいて…。」
スコープウルフさんが申し訳なさそうに、言ってきた。
「そのためのチームでしょう。反省は必要ですが、変に落ち込まないでください。また勝ちに行きましょう。」
「ウミウシさん、さすが達観してる。ハンドロケットをあんな使い方しないでしょう?」
ライオンヘッドさん、褒め上手だよな。
そう思いながら、あの装備は、捨てられている車に取り付けて高速移動、短時間の空中移動に使われることが一般的。
でも人がそれをもって飛ぶことは公式ガイドにちゃんと明記されてる。
もっとも、Q&Aの隅の方だが…。
「ふつうはやられる確率の方が高いですよ、あんなの。今回は運が良かっただけですから。」
「その豪胆さがウミウシさんだよね。俺、一瞬躊躇っちゃうんだよ、何やるにしても。」
「その慎重さも、個性ですよ、ウルフさん。」
「ハハハ、慰められちゃいましたよ、ライオンさん。立つ瀬ねえ。」
「この3人はいい感じで補完し合ってるんですから、あんまり落ち込まないでってことだよ、ウルフさん。そいえばテストとか言ってたけど、大丈夫、ウミウシさん?」
この前の雑談で、3日ほどログオンできないことを話していた。
心配してくれてんのかな?
「ああ、もう終わりましたので、大丈夫です。あんま成績には関係しないみたいで…。今回はみんな適当でしたね。」
「懐かしいな、テスト勉強か。もう、えらく昔の話だ。」
ライオンヘッドさんがかなり年上だとは知ってるけど、正確な年は知らない。
スコープウルフさんは20代という事は言ってたな。
「青春だよね。そういえばこの前、美少女をはべらかしてる、いけ好かないやつがいるって言ってたけど…、その後、ハーレム化は進んでるの?」
「ああ、あいつね。本当に腹立ちますよ。こっちは彼女なんかできたこともないのに、あいつ、そんなイケメンとか、スポーツできるって奴じゃないんですけどね。気づいたらこの1週間で5人くらい女子、しかもみんな可愛いというおまけ付きの子たちに囲まれて嬉しそうにしてんですよ!クラスにも、あいつを目の敵にする奴らがいますけど。本当、ちょっと古いですけど、リア充爆発!って念送ってます。」
俺の話にライオンヘッドさんは大笑い。
でも、スコープウルフさんは笑ってない。
どころか「女の敵」っとぼそっと言ったのを、僕は聞き逃さなかった。