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第112話 第二体育館裏 Ⅳ

「なんでそう思ったの?」


 綺麗な瞳が私を射貫くように見つめてくる。


「わざわざ自分の容姿だけを見て告白してくる相手に、先輩が真剣に「告白」に付き合うとは思えなかったんです。」


「確かに、そうね。今回は瑠衣からの頼みというのはあったけど、無理に付き合う必要はなかった。でもそれが何で私に恋人がいる、という事を広めるってことと繋がるのかしら。」


「何といえばいいのか、私もさっきから考えていたんです。さっきの、湊君ですか?がこの機会に告白に踏み切ったわけ。」


「それで?」


「既にさっき本人が言ってましたよね。「斎藤会長と付き合っているという噂」。私は初耳でした。でも噂として一部の人は聞いていた。私は柊先輩の噂話ならすぐにでも全校に広まると思うんですよ。でも、一部の人しか知らない。」


 私の言葉に、いまだその瞳が動かず、私を直視している。


「口止めでもされていれば、まだ理解もしやすいんですが、その割に湊君を個人的に知らない先輩がそこまで広まっていることを不思議に思わないわけがない。おそらく狩野瑠衣ちゃんはそのことを事実と知っていて、以前から柊先輩に橋渡しを頼んでいた湊君を引き合わせることにした。」


「さすがは文芸部ね。想像が逞しいわ。さっきの私たちの会話からそこまで筋立てを考えるなんて、ね。」


 射るように見ていた視線の力が、不意に緩まった。


「大体は想像通り。私に好意を寄せていたという湊君に瑠衣は付き合ってる人がいると伝えたそうよ。それでも本人から話を聞きたいって言ってたと私に伝えてきた。で、今日、この時間にこの場所を指定してきた。学力テストが終わって、バスケ部もまだ休みってこともあってね。彼は普通の進学クラスだからこのテストは重要。でも、私のことでモヤモヤしていたってとこかしら。」


「その湊が先輩に付き合ってる人がいるかどうか、最初に聞いてこなかったことに驚いたわけですか?」


「本当にそうよ。最初に聞いてくれればそこで終わり。彼が運動部に噂を流す。そして運のいいことに、あなたがいた。特に有坂さんは他の部にも顔が広い。噂は一気に広がる。そう確信したんだけどね。」


 大きく先輩がため息をついた。

 少し疲れた顔をしたのは、その反動だろうか?


「終いにはあの体格の男子に押さえ込まれるような格好になったでしょう。浅はかだったと思ったわ。有坂さんがいてくれなかったら、キスくらいされたかもしれない。自分の思ってなかった悪い噂が流れるとこだった。本当にありがとうね、有坂さん。」


 もう一度、柊先輩が頭を下げてきた。


「それはもういいですって。それよりも斎藤会長と本当にお付き合いしてるんですか?」


 さっきまでは噂の話。

 本当のところ、どうなのか知りたい。


「本当よ、有坂さん。斎藤君から3月の終わりに告白されて付き合うことなったの。」


 お似合い、何だろうな。

 私的には、今一、腑に落ちないけど。


「何か不満げな顔ね?疑問がある?」


「疑問と言うほどではないんですが、先輩から恋する少女の雰囲気が微塵も感じられないんですよ。あくまでも私個人の感想ですけどね。」


「鋭いところをついてくるわね。」


 そう言って、柊先輩が髪をかき上げた。

 そこから流し目で私を見てきた。

 女の私から見ても色っぽく映る。

 高校生男子がこんなことされたら、惚れない方が至難だ。


「その雰囲気については、またの機会があれば話すわ。有坂さんは私にとって恩人だもの。でも付き合っていることには間違いはないのよ。」


「わかりました。それでその噂を流すメリットってあるんですか?」


 私の質問に軽やかな笑みが帰ってくる。


「そうね。まずさっきみたいな男子はまず近づかなくなる。相手はあの斎藤会長だもん。さらに、私を危険視してる女子が落ち着く。私の日常が少し平穏になると思うのよ。」


 男子の告白云々もさることながら、かなりの男子の憧れの君に男が現れれば、確かに女子としても、脅威が減るか。

 そうだね、光人が「女泣かせのクズ野郎」と言われて、その毒牙にかかったと言われる女子の一人が柊先輩という噂もあったよな。


「でも、いいんですか?モデル業に支障が出来たりとか?」


「ああ、それは大丈夫。アイドルなんかとは違うし、大体読者モデルだもん。」


「そういう事でしたら、遠慮なくネタにさせてもらいます。という事で、柊先輩は、今まで多くの男子から言い寄られたと思うんですが、斎藤会長にOKを出した最大の理由は?」


 ここぞとばかりに、私の恋愛脳がフル回転した。

 もしかしたら、今後の私の方向が決まるかもしれない。

 というより、純真な好奇心、野次馬根性だな、こりゃあ。この柊先輩と斎藤会長は同じ生徒会で仕事してんだから。

 今の私の参考になることは少ないとは思ってる。


「一番は、私が落ち込んでた時に優しくしてくれたこと、かな。」


「落ち込んでいた?」


「聞いてないかな、私と白石光人君の関係。」


 まさか、ここで光人の名前が出てくるとは思わなかった。

 じゃあ、やっぱり、「女泣かせのクズ野郎」という噂は本当だったか。

 入学式初日にナンパ、遊ぶだけ遊んで捨てたとか。

 いや、でもそれじゃ、3月っておかしいか。


「なんとなく。入学初日に先輩をナンパしたってことくらいしか。」


「うわあ~、あの件はそんな風に伝わってるの?」


「それで捨てたとか。「女泣かせのクズ野郎」と言われる所以とも。」


 柊先輩が明らかに落ち込むように頭を項垂れている。


 まあ、この噂はまったく信じてなかったけど、柊先輩と光人の話ってこれくらいしか…。


「白石君のお父さんが小学生の男の子を救って、死んだ話って聞いたことない?」


 それはかなり有名。

 だから、先生たちも、マスコミとかに気を使ったとか聞いてる。

 Dichttubeの動画も話題になっていたっけ。


「その助けられた男の子が私の従弟なの。」


 その一言が、私に光人が微妙に柊先輩を避けているという話と重なった。


 入学式のナンパの話はまったく違う面を見せてくるわけか。


「従弟の事故は私も、その男の子の家族、私の家族、みんなに衝撃的だった。助けてくれた人が死んでしまったこともあって、その助けてくれた人、白石影人さんというのだけど、その遺族の方に深い感謝と、言い知れぬ罪悪感を抱えてしまった。そんな時にそばにいてくれたのが、斎藤会長だったの。」


 ああ、さっきの微妙な言い方。

 恩が会って付き合ことになったが、恋愛とは違う次元という感じだ。


「白石光人君は、動画でも拡散したんだけど、亡くなったお父さんと、事故にあった私の従弟に関して

「幼い命を守った父を誇りに思う」という言葉で、私たちに無用な罪悪感を抱かないようにしてくれたのよ。」


 ちょっと待て、柊先輩。

 そう語るあなたの顔、明らかに昂揚してるよね。

 自覚ありますか?


「私は斎藤君と付き合うことになってから、その本人、白石光人君がこの高校に入ることを知ったの。でも、従弟の命の恩人が本当にこの高校に入るなら、是非挨拶したかった。それが入学式で本人が倒れちゃってね。保健室に会いに行ったのが、変な風に伝わっちゃたみたい。」


 おい、柊夏帆!

 さっきの斎藤会長と付き合ってるといってるときと、光人について語ってるときに表情が違い過ぎるぞ!


 やばい。

 これはやばい。

 いくら付き合っている人がいると言っても、この女、非常に危険だ。


「もう一度言います、先輩。会長とのお付き合いの事実。かっちりこの校内に広めて見せましょう。」

「ああ、本当に、ありがとう。有坂さん。」


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