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第11話 景樹の目的

「バイトか。やってみたいんだけどな。」


 景樹が俺と須藤を少し羨ましげに見てきた。


「この学校に来る奴、大半はバイトできないだろうからな。隠れてすることはできるだろうけど…。でも、バレると大変らしいからな。」


 景樹の悩ましげな声に、許可を得ずにバイトの危うさが伺える。


「聞いた話なんだけど。2年くらい前にサッカー部にいた先輩が、学校に隠れてバイトしてたのが見つかったらしいんだ。で、10日間の停学。しかも部で結構知られてたってこともバレて、サッカー部が1か月間の対外試合禁止。この期間に新人戦があったんだけど、出場取り消し。先輩はいたたまれずに、退部した。高校はやめなかったけど、停学になった時点で、日照大の推薦、それと指定校の推薦も受けられなくなった。リスキーだよ。」


 そんなことになるのか。

 でも、許可を取れば問題ないわけだ。


「じゃあ、一応了解という事でいいかな、光人と須藤君。?」


「うん、よろしく。」


「よろしくお願いします。」


 俺と須藤はにっこり微笑む伊乃莉に座りながらではあるが、深く頭を下げた。


「でも、ぽしゃっちゃたらごめんね。まだ内々のはなしだから。」


「うん、大丈夫、わかってるよ。」


 俺の言葉に、残っていたカレーライスを口に運び始めた。


 あやねるは、俺たちの会話に少し不服そうである。

 油断すると「私も…」とか言いそうだが、景樹の具体的な話に、どうやらしり込みしたのだろう。

 機嫌の悪い顔をしながら最後の一口を口に入れた。

 俺たち3人はとうの昔に食べ終わってる。


 そのタイミングで、景樹が伊乃莉に顔を向き、声を掛けた。


「鈴木さん、ちょっと確認したいんだけど、いい?」


「ん、なあに?」


 そういうえば、景樹がここにいるのは伊乃莉に何か話があるって言ってたからだ。

 忘れてた。

 バイトの話に少しテンションが高くなっていたらしい。


「昨日の昼くらいに、西舟野駅の近くにいたよね?」


 少し待とう、佐藤景樹君。その話は、出来たらこの場ではやめてほしい。

 その話に少しセンシティブになっている女の子が同席してるんですが…。


「うん、いたよ。でもよく私ってわかったね?学校外でメイクをした私をわかる人ってそうそういないよ。それも知り合って2,3日しかたってない男子ならなおさら。」


 それは当然だね。

 俺だって待ち合わせしてても、綺麗なお姉さんがいた、ラッキー!と思ったほどだもん。


(そこは経験の差かな)


(うるさい!黙ってろ、親父)


「光人といたからね。逆に、光人はまったく校内にいるときと変わんないから。」


 これはディスられてるのか、俺。


「それでも、普通は解んないと思うよ。そのパターンだと、今朝、光人に「昨日の美女は誰なんだ?言わないと宍倉さんに言いつけるぞ」って脅して聞くってことがあるけど…。光人だったら、私の名前を出さずに親戚の女の子って言い逃れするだろうからな。」


 洞察力、凄いっすね!

 伊乃莉さん!


「でも、それでも私ってわかったわけだ。佐藤君って何者?」


「別にそんなに俺が観察力があるわけじゃないよ。昨日姉さんの買い物に付き合って、西舟野駅近辺を連れまわされてたとこで、カップルがやんちゃなお兄さんに絡まれてんの見たんだよ。ちょっと場所が遠かったから、最悪駅前の交番に駆け込んだ方がいいかと思ってたら、すぐにやんちゃな方々が頭下げていなくなってほっとしてたら、姉さんがそのカップルの女性に目、付けちまったんだよね。」


「カップル…。」


 ああ、あやねるの瞳から輝きが消えて、闇の何かがせりあがってきてる。


 今の話の流れだと、そのカップルが俺と伊乃莉と容易に想像つくもんな…。


「ンで、よく見たら、男の方が光人じゃん!まあ、びっくりした。一緒にいる美女が柊先輩に遜色しない感じだったからね。でも明らかに柊先輩ではない。当然、宍倉さんでもない。うちの姉がね、俺が男の方と知り合いって知ったらさ、煩いんだよ、本当に。知り合いなら何とかその女性とコンタクトを取りたいって。」


 景樹が困ったような面持ちで俺を見た後に、食い入るように鈴木伊乃莉を見つめる。

 話の流れから、自分のことだと気づいたのだろう。

 口を開いた。


「それで佐藤景樹君のお姉さんはその美人とコンタクト取って、どうしたいの?」


 明らかに自分のことなのに、よくいけしゃあしゃあと、美人という単語を使えるよな!


 という思いを込めた目で伊乃莉を凝視した。

 その俺の目の圧が響いたのか、伊乃莉が俺に視線を移し、「それが何か?」という落ち着いた微笑を返してきた。


 完全に自分というもの、外見を客観的に見ている。

 大人の余裕のほほえみだった。


「光人の家族ってことがないことは知っていた。いまはお母さんと可愛い妹、静海ちゃんとの3人暮らし。静海ちゃんでないことは解っているから、お母さんという線もあるにはあるが、それにしてもその美人は若かった。いっても20代前半、下手すれば俺らと同い年。って考えたらその美人に見覚えがあることがわかった。」


「佐藤君?もう一度聞くよ。お姉さんはなんでその美人とコンタクトを取りたがってるの?」


「その理由はあとで説明するよ、鈴木さん。で、その美人、特徴的なポイントが二つあった。」


 俺は斜め前の伊乃莉を見た。

 普通にしてても綺麗な部類。

 あやねるの特徴ある鼻と違って、鼻梁が整っている。

 眼もあやねるの少し垂れた感じはなく、かといって吊り上がってもいない。

 バランスがいい。

 人によっては凄く埋もれてしまいそうな目の形はいい方なのだろう。

 そして、その中の瞳の輝きは、自身が漲るように光を讃えていた。

 言い方を変えれば筋が通った瞳、新年のこもった瞳と言っていいだろう。


「一つは整い過ぎた鼻筋。そこまで整っている人は滅多にいない。うちのホールで練習している少女より、確実に綺麗で、芯が通っている。そしてそのあごのライン。目や耳と違い、かなり女性らしいやわらかさがあった。そういった人物についこの前の食事会で会っていたことを思い出したんだ。」


 もうまるわかりっていう感じだった。


「だから光人を通さずに直接お願いした方がいいと思ったんだよ、鈴木伊乃莉さん。」


 景樹の記憶を揺り動かしたのが俺の存在だったということだろう。

 で、景樹のお姉さんが何で美人に興味があるんだろう?

 まさか百合の人ということか?


「まだ質問の答えを聞いてない気がするんだけど…。」


「ということはやんちゃなお兄さんたちに絡まれていたカップルは、光人と鈴木さんということでいいよね。」


「そう、ね。おそらく時間的に見ても、私が絡まれていたときに、光人に助けてもらったのが、西舟野駅近くでそれくらいの時間ね。」


 さすがにここまで言われて否定はできない。

 但し、カップルという言葉を暗に否定するように、昨日の設定通りの返答を伊乃莉は景樹にした。


 須藤が初めての話に、少しついてこれない感じだ。

 周りをきょろきょろして、あやねるの暗い目を目撃し、一人で恐怖している。


「確かに気合を入れた伊乃莉のメイクは、素顔よりさらに綺麗になってるけど…。それでどうして佐藤君のお姉さんが興味を示しているの?いのすけがお金持ちのお嬢様だから?」


 その質問、庶民ぽくていいけど、言ってるあやねるも十分にお嬢様だよ。

 わかってる?


「さっきの鈴木さんと同じ質問と思っていいかな。ちなみにだけど、俺が光人に気づいて、そのつてで興味をひかれたけど、俺の姉さんが興味をひかれた時点では、スーパー大安のご令嬢と走ってはいないから、お金持ち目当てではないと思う。別の意味で金目当てではあるんだけど。」


「それ、どういう意味?」


 伊乃莉が景樹の言葉に、かなり不審の色合いの強い言葉を突きつけた。


 景樹は少しの間、伊乃莉の質問を頭の中で整理するように押し黙った。


 他の4人の目が景樹に集中した。


 そして、景樹は頭を上げ、伊乃莉にまっすぐな瞳をぶつけた。


「鈴木伊乃莉さん、モデルに興味ないかな?」


 景樹の言葉に、俺を含めて、目が真ん丸に見開かれた。


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