第102話 ダンス部の公開練習
「さっきの友人、神代麗愛がダンス部って言ったでしょう?」
「うん、言ってたな。」
「そのダンス部が明々後日の土曜日に公開練習があるんだけど…。」
静海が頼まれたことについていうのかと思ったら、違うことを言い始めた。
「なんだ、その公開練習って?」
言いづらそうにする静海に、そもそも公開練習っていう意味が分からない。
よくスポーツの日本代表チームなんかが、マスコミ向けにすることは聞いてるけど、学校の部活で公開練習って何なんだ?
「ああ、そうだね。その説明からか…。なんかメンド臭くなってきた。」
小声でぼそりと呟く。
この話を静海がしたくなさそうだったのはわかっていたが、さらに説明が面倒なことに気づいたらしい。
「ちょっとうちのダンス部が特殊でね。そこそこ強い部活というのはあるんだけど、結構今ってダンス、注目されてるでしょう?」
「ああ、まあな。いろいろな大会とかオーディション番組とかあるよな。」
「純粋にダンスが好きな子もいるけど、結構目立ちたがり屋が多いの。それに運動してるからプロポーションもよくてね、そこそこ薄めの布地のコスチュームだったりするじゃない?」
「まあ、そんな感じはするな。」
「目立ちたがり屋が多いから、みんなに見てほしい。でも格好が格好だからエロ視線で見る男子も多いんだよね。」
それは十分理解できる。
「あの、KAHOさん、いや柊夏帆先輩も高1のときまではダンス部だったんだ。」
「えっ、そうなの?」
とすれば、えらい目立つだろうな、あの美貌だと。
「今お兄ちゃんが考えたように、すごく注目されてたの、女子からも男子からも。当然エロ目線も多かったんだと思うんだけど…。」
「なんとなく、納得できるな。」
「ほかにも理由はあったかもしれないけど、体育館で練習してると、ギャラリーが、そりゃあもう多かったって話で。その視線に耐えられなくて、部をやめちゃったんだって。」
「でも、さっき言ってたように目立ちたがりの子も多いんだろう。見られて演技するのがダンスだよな。大会とかもそうだろうし。」
「聞いた話だから、本当のところはわからないよ。でも、彼女のせいで体育館が人であふれて、しかも、うちと関係ない人も紛れ込んでたって噂もあって…。柊先輩が辞めた後、ダンス部の練習はダンス部に関係のある人以外はシャットアウトして練習してたの。普通はそれで落ち着くはずだったんだけど…。」
「その言い方だとその非公開練習に異議を唱えた人がいた、と言うことか。」
「そう。それもダンス部員からね。その人たちは、目立つことがモチベーションにつながっている人たちでね。大会とか、文化祭とかの特別の日にしか自分たちを見せられないというのが不満だったらしくて…。練習のときにギャラリーがいるほうがいいという人たちだったわけ。」
「その落としどころが、公開練習日、ってことか。それで、その練習日が今週の土曜にあるのはいいけど…?」
「麗愛が、お兄ちゃんに見に来てほしいって言いだしたのよ、昨日。」
「?」
「いや、わかるよ、その「なんで?」って顔は。私もびっくりしたんだから。例の「イケメン」発言、どうやら私がお兄ちゃんのことを貶めるような内容と今のギャップで言ったというわけでもないらしく。ただ麗愛の好みだったらしいの、お兄ちゃんが。ずっとモテモテ人生で、でも彼氏なんて興味ないって顔してたのに……。それで誘ってほしいって頼まれたのよ。自分のカッコいいところをお兄ちゃんに見せたいとかで…。」
まあ、褒められて悪い気はしないが、唐突だな。
「今日、麗愛にせっつかれたんだよ。まだ聞いてないのかって。でも、お兄ちゃんが今日はテストだから聞かなかったって言い訳したんだけど。明日にはとりあえず答えをもっていかないと…。もう、どうしていいんだか…。」
「つまり、俺が土曜日に、その公開練習とやらに行くと言えばいいのか?」
「行く気なの、本気、お兄ちゃん!やっぱり、お兄ちゃんはかわいい子ならだれでもいいんだ。ちょっと、ショック。」
「どうしてそういう結論になるんだ。おまえがその友人の願いを聞いてくれって言ったんだろう?」
「違うよ!私は麗愛の聞いておいてほしいということを伝えただけ。」
「じゃあさ、断っていいのか?」
俺の言葉に、ちょっと考えだす。
「それはそれで、なんか麗愛と変な雰囲気になるような…。」
「ってことだよな。じゃあ、その時間に体育館に行けばいいんだな。」
「そう単純じゃないの。さっきも言ったけど、学校外の変質者が紛れ込んでもよくないし、写真や動画をとってネットのアップされても困るから、そうしない信用のある人だけに招待状を配るの、部員が。」
「うわあ~、ちょっと面倒になってきた。」
「でも、行くってことでいいんだよね?」
「まあ、いいよ、行くよ。でもその招待状を俺含めて3枚もらえるか?友達と行くから。」
「わかった。それは交換条件として麗愛に伝えておくよ。」
「静海、お前も行くんだろう?」
「それは当然。その時にもう一人の友人、鳴海も紹介しておくね。」
そういって、静海は俺の部屋を出て行った。
親睦旅行前に、またイベントが一つ増えたことに、俺は少し疲れを感じていた。




