第101話 静海の頼み事
夕飯を食べ、風呂にも入り、ゆっくりと部屋でくつろいでいた。
入学式から1週間。何かいろいろありすぎて、混沌としている。
明日からは通常授業が始まるということで、時間割も渡されていた。
といっても木金の2日は通常だが、土曜は来週月曜から始まる親睦旅行に向けての計画を各班で決めるらしい。
1日目はついて早々屋外での昼食。カレーライスを各班で作る。
そのあとは学校側で用意したレクリエーションをやるらしい。
夕食は研修センターで用意されているものを食べ、風呂ののち22時までは自由行動。
2日目。7時から朝食。
8時半から1時間半ほど、日照大学の歴史、校風、各学部の説明と、その系列校であるこの高校のより詳しいオリエンテーション。
その後、昼食までは午後のペットボトルロケットの制作のための時間。
昼食をはさんで、ペットボトルロケットの制作、そして実際に打ち上げての計測。
この飛距離が長い班を位から3位まで表彰するらしい。
表彰式は夕食時。そののち1日目と同じ風呂と自由時間、就寝。
3日目が起床、朝食後にオリエンテーリングをするのだが、これが各クラスを縦断しての班分けになるらしい。
これこそが親睦旅行の親睦たる由縁ということだ。
この高校は特進クラスと、内部進学組、外部受験組と、3つの違う集団がある。
一つ間違えるとこの集団同士の差別化が出来てしまうということらしい。
それぞれに知り合いが居ればそういうことも起きづらいと、学校側が考えたようだ。
そんなことでうまくいくかどうかは大いに疑問ではあるのだが。
で、その後バスで帰る途中のドライブインで昼食をとり、学校到着という日程になっている。
つまり土曜日の班で決めることは、カレーライスの分担の手順とペットボトルロケット作成の手順だ。
一応研修でのサポートは入るらしいのだが。
今日のテストはそれほど難しいとは感じなかった。
これも親父の知識が俺に流れているということなのだろうか?
ノックの音がした。
「お兄ちゃん、ちょっといい?」
ドアを開けて妹の静海が顔を出した。
俺は倒れこんでいたベッドから上半身を起こして静海に顔を向けた。
「ああ、いいよ。どうした?」
静海はドアを開けて、おずおずと入ってきた。
「隣、いい?」
きっとした顔で俺に言った。
俺が了承する前に、すでにベッドの俺の横に座ってる。
本当に俺との距離が近くなっている。なぜ?
「ちょっとね、お兄ちゃんに私の友達について、言っておこうかと思って。」
訳のわからないこと言いだした。
「え~と、それは、どうして?」
「この前の麗愛のことがあったから…。また、お兄ちゃんが変なことになっちゃうと困るし…。」
ああ、そういうことね。
でも、友達を紹介と言われてもなあ。
「で、まずはこの前の神代麗愛。ダンス部所属。私と同じ2-D。ああ、そういえば私に「童貞」とか、そういう言葉を教えてくれた子でもあるんだけど…。そんな話したことが合ったよね?」
「ああ、そういえば。あの子か。でも綺麗な子だと思うから、そういう経験、あってもおかしくなさそうな…。」
「だからさ、お兄ちゃん。あの時も注意したよね。私の友人をそんな風に言うなって。まあ、美人で、ダンスで鍛えてるからスタイルもいいし…。でももう1年友人してるけどそういう噂聞かないし、本人もまだ付き合ったことないって言ってた。モテるから、告白は結構あるって言ってたけど。」
「お前だってモテるんだろう?」
「そんなことも言っちゃったね。でも全部断ってるから。」
「その中に鈴木悠馬君も入ってるのか?」
「ううん。しょっちゅう私たちをかわいいとは言ってるけど、そういうことはしてない。だから、雄馬のお姉さん、伊乃莉さんにそのこと言われたときは本気でびっくりした。」
「で、付き合う気はない?」
「それはないって!何度も言ってるでしょう。」
「ああ、そうだな。」
本題からかなりずれてしまったようだ。
「それで、ほかには何人いるんだ?お前が俺に話したい友人って。あんまり多いようだと覚えられんぞ。」
「ああ、大丈夫。あと一人だから。もう一人が御須鳴美。1年のときは同じクラスだったけど、今は2-F。サッカー部のマネージャーで、彼氏持ち。と言ってもついこないだからだけど。お相手がサッカー部のまあ、イケメンだね、鵜沢陽誠。この男子は2-A。そう、雄馬の友達でもあるんだけどね。佐藤景樹先輩と仲がいいお兄ちゃんだから会う機会あるかもね。」
それで終わり、という雰囲気ではないな、これ。
「わかった。今度は気を付けるよ。イケメンなんて言われたことなくて、俺の脳が拒否反応示しちゃったからな、その神代って子の言葉。もう、たぶん、大丈夫。」
俺が話を終わらせようとしてると思ったらしい。
静海が慌ててる。
「あ、うん、友達のことは、これで、えーと、終わりなんだけど、さ。ちょっと頼まれたことがあって。」
こっちが本命か。
にしては静海の態度が煮え切らん。
「お兄ちゃんが困るからどうしようか考えたんだけど…。」
嫌な予感がした。