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第100話 須藤文行の憂鬱

 日向さんと別れて、俺は今須藤と一緒に電車に乗っている。

 座れたので俺はまだしも、須藤はかなりほっとしたような感じだった。


「その様子だと、テストどころではないな。」


 俺が疲れ切っている須藤にそう声をかけた。


「ああ、ま、そうなんだけど…。テストはそこそこかな。」


「寝不足か?俺が関係してるってことだが…。あれか、ギャル先輩か?」


 俺の言葉に明らかな動揺をした。

 目が泳いでるかと思えば、俺から目をそらす、どころか顔を反対方向に向けた。

 こめかみに一筋の汗、…冷や汗か?


「想像はつくんだが…。何かギャル先輩に無茶振りされてるんじゃないか?」


 須藤が大きく息を吐いた。


「そうだな。そこまでばれてたら、逆に楽になったよ。まあ、想像通りだよ。有坂先輩が白石をいつ入部させるんだって、しつこくてね。でもさ、白石には宍倉さんいるじゃん?」


「別に付き合ってるわけじゃないが…。」


 俺の発言に須藤が苦い顔といらつきが俺に向けられた。


「付き合ってるかどうかは、まあいいけどさ。お前たちを見ていて、さらに巻き込まれてる俺の身としては、単純に勧誘とはいかないんだよ。」


「ああ、それは、なんかごめん。」


 須藤はもう一度大きくため息をついた。

 なぜか憐みの目で俺を見てきた。


「須藤、その可哀そうな人を見る目をするんじゃない。確かに3か月くらい前に俺は父を事故で亡くしたが…。」


「それは本当の意味で可哀そうなことだとは思うが、今はその話をしてないよな。代替自分で、ある意味親の死をそういう風に扱うのはいかがなものかと…。確か、その件で宍倉さんを泣かせたんじゃないか、お前。」


「うむ、そうだな、これは確かに俺が悪い。謝る。」


「俺に謝るより親父さんに心の中でいいから謝っておけ。この車内で口にすると変な奴認定されるからな。」


「ああ、わかってる。」


(親父すまん。さっさとここから立ち去り、成仏してくれ!)


(素直に謝るのかと思えば、なんだその態度は!そこに座りなさい!)


(何、べたなギャグ展開してんだよ。親父がここにいるから、ついあんなこと言っちゃうんだぜ)


(うむむ)


「でだ、白石が宍倉さんと超絶仲がいい。それも二人きりになれるとこを邪魔しそうな奴に対し、夜叉のような態度に出るくらい。それはわかってるよな。」


「はい、なんとなく…。」


「なんとなくか、はあ~。そうだな、お前の目に入らないとこで、プレッシャーかけられるからな。まあいいや。そして、お前さんがほかの女子と仲良くしてるとこ、特に見た目がいい子と話しなんかしてると…。」


「あやねるの機嫌が凄まじく悪くなります。」


「正解、っていうかそれはさすがにお前がよくわかってるよな、うん。そして有坂先輩なんだが…、白石になぜか気がある。お前、先輩になんかしたか?」


「心当たりは……ないな。」


「だが、先輩は白石が気になってしょうがない。ところがその気になる男子にはいつも金魚の糞のごとく宍倉さんがいる。この前の月曜にあんなややこしいことしたのは、お前と宍倉さんを切り離して、有坂先輩の前に連れてくるため。」


「そんなことだと思ったよ。」


「当然日向さんも有坂先輩のために手助けをしたというところ。日向さんいわく、「有坂は実体験がないくせに、頭が恋愛脳になってる」ということでな。運命的な恋にあこがれてる節がある。」


「あ、そういわれると何となく想像ができるな。」


 ダメな男、ひどいクズ男子、などと言われていた人物が実は優しい。

 その男性と偶然にも何度か遭遇。

 そこで傾き始めたヒロインの心。

 そこに現れるライバル女子。

 自分の圧倒的不利。

 この状況を覆すヒロイン…。

 そんな感じでストーリーが組み立てられた結果、それを恋と思い込むという恋に恋する女子高生の出来上がり。


 テンプレ過ぎて頭が痛くなってきた。


「有坂先輩の友人の存在も忘れちゃいけないよ、白石君。」


 こいつはこいつで人の頭の中が読めるのか?


「おそらく白石の中に少女漫画の王道のストーリーが展開されたとは思うけど、ここである事情があって1年遅れで高校に入学した友人が登場。自分と学年が違うので心配していた友人に、その男子がやさしく接してその子の味方にまでなってくれているんだよ。もう惚れるなってのが無理、ってその先輩は思ってる。」


「物語を作るやつは、いつもそんなことを考えてるのか?」


「そういうわけじゃないさ。僕の分野はどちらかといえば、ファンタジーというか、SFだからね。あんまり恋愛ものには精通しているわけじゃない。少女漫画は妹が好きだから共有してるけど。」


「で、その聡明な須藤君の、夜も眠れない悩みは具体的には?」


 この質問に少し考えだした。

 よく見ると疲れた顔はしているが、血色はよくなった気がする。


「もう、白石がそこまでわかってんなら、すごく気が楽になった。白石が有坂先輩の気持ちに気づいてないとすると、極力有坂先輩の気持ちを隠して入部の勧誘をしなきゃならなかったからね。で、勧誘南下すると、宍倉さんの俺を見る目に恐怖を感じてたけど、ここまで来てれば、単純に俺が入部を勧誘した。その事実があればいいって気づいたんだ。それを決めるのは白石自身。俺が悩むことではなくなった。白石が入ってくれると雅楽先生が入ってくれるっていうんで、俺としては白石に入ってほしいけどね。」


「雅楽先生?ああ、日向さんか。そうだろうな。プロに自分の書く小説のイメージ描いてもらえるって、光栄だもんな。」


「そうそう、本当にそれ。イメージをこの前描いてもらって、思わず続編書きたくなっちゃたもんな。」


 うれしそうだな、須藤。

 それほど苦でもなさそうだから入ってもいいんだが、ギャル先輩がちょっと鬱陶しそう。


 まあ、あやねるが生徒会活動で忙しくなりそうだし、もし伊乃莉が景樹の提案を受ける気があるんなら、俺が合わせたほうが、いい気はする。


「そうだな。なんか文芸部に入部すると余計なことを考えなきゃいけないような気もするけど…。少し考えてみるよ。」


「そういってくれると助かる。」


 乗り換えの駅に着いた。


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