表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

「私と相棒」

リアリティ

作者: XI
掲載日:2022/12/18

*****


「つまんねーよ、ああ、つまんねーなぁ、俺の働き口ってのはくそったれだ、暇を埋め合わせるのが業務ってもんだろうが。それなりにやることやって金を得るのが本分であるはずだ、違うか?」

「違わないよ」

「だったら心地のいい仕事を寄越しやがれ」

「そのうち来るかもよ?」

「そういうもんかね」


 私は「そういうもんだよ」とだけ答えた。


「ほんとくそったれだよ、いまの状況は。俺はより危ない橋に身を投じたくていまの職に就いたってのによ、マジでそうだ、くそったれ」

「それ、嘘でしょ?」

「嘘に決まってんだろうが、馬鹿ったれ。平和が一番だ、くそったれ」


 私は黄色い愛車を高速に載せる。相棒はきちんとアシストグリップを握っている。それはともすれば臆病な奴の対応にしか見えないのだけれど、相棒の場合は違う。ただ単にそうすることが染みついているというだけだ。だったらどうして染みついた? どうでもいい。とにかく言えるのは、あいにく、私は愛車を乱暴に扱ってはいないということだ、客観的に見て、という話でしかないけれど。


「今日はね、相棒――」

「気安く相棒だなんて言うんじゃねーよ。虫唾が走っからよ」

「でもさ、あんたは私の相棒くんなんだわ」

「くでーな、わかってるよ、んなことくらい。だから相棒でいい。で、なんだ? 俺に豚の始末でもしろってのか? それとも豚の餌を始末しろってのか?」


 なんだか笑ってしまった。

 どうあれ相棒は愛されキャラだ。そのへん、信じたほうがいい。


「地下闘技場。ちょっとそそられない?」

「ああぁ?」

「無法者らの中であんたがトップをとる。そんな様子が、見てみたい」

「嫌だっつったら?」

「少なからず、私はあんたのこと、見損なうだろうね」

「んなことについては、いつだって俺は良心的だ」

「戦ってよ。応援、するからさ」

「応援なんてな、弱い奴が受けるもんだ」

「ま、そう言わずに、さ」


 相棒はまんざらでもないようで、「どこだよ?」と訊いてきた。


「だから、いま向かってるんだってば」

「酒飲みながら、阿呆どもはさぞかし声援を送ってくれるんだろうな」

「お願いだから、言うこと聞いてよ。私はそうあることを期待してる」

「だ・か・ら、それでいいって言ってんだよ。連れてけ」

「オーキードーキー」

「セオリーもまた、いつかは嫌われんぞ」


 相棒は「ははっ」と笑ってみせた。



*****


 夜、問題の酒場についた。表に黒人の大男が立っていて、平たく言えば「カネ」を要求してくる。まあ観戦の料金だと思えば安いものだ。実際、私らは指定の金を支払って店内に足を踏み入れた。


 問題の地下の闘技場。濃密に充満した汗っぽさ、すなわち人いきれを感じさせるオクタゴンのリングがある。殴り合っている。とことん、とことんまで。たぶん、そいつは右腕の関節を折ったのだ。うまいこと折ってみせたのだ。たしかにボキッという生々しい音が聞こえた。それもあって、会場は沸きに沸き立つ。想像以上に盛り上がっているなぁと感心させられる。次の試合が始まった。マグレだろう。片方が顎にフックを放ち、もう片方が簡単に膝から崩れ落ちた。攻撃を緩める様子はまるでない。がくりと尻餅をついたほうはもはや倒れたサンドバッグだ。奴さんが殴り果てたところでギブアップ、決着がついた。美しい。まったくもって美しい。私はこのへんの美学に傾倒している。


 今宵の私はプロモーターだ。この闘技場のチャンプであるイギリス人ボクサーの相手に相棒を巻き込んだのだ。ボクサーには言ってある。勝ったら私のことを抱いていいって。ボクサーはひどくアイリッシュの訛りが強い男だ。プロから退き、その後、アンダーグラウンドにもぐったらしい。「あなたは」というより、「おまえにねじ込んでやる」などと言った。だけど、言い分としてはえらく上品で高貴な物言いだった。「あなたを抱きたい」、そんなふうに言ったのだった。


「ねぇ、聞いた? あんたが勝たないと、私は乱暴されちゃうみたいだよ?」

「うっせー、任せとけ。俺より強い奴なんて、この世にゃいねーんだ」

「ほんと、期待してる」

「うっせー」


 試合が始まった。


 あっけなかった。相棒は左のフックを顎先にもらっただけで、膝から崩れ落ちてしまったのだ。「おいおいおい」と思いながら、私はクスクス笑った。もはやイギリスのぼっちゃんは歓喜を浴びている。だからってな、だからってな、私の相棒がそう簡単に沈むわけがないんだよ。


 相棒はふらふらと立ち上がった。途端、パンチを浴びる。左のフック、右のストレート。だいじょうぶ。だいじょうぶ。あんたなら。相手は言わばプロなんだ。ある程度のパンチをもらうことなんて、私も相棒も知ってる。知っている。それでも力尽くでなんとかしちゃうのが相棒だ。「いてーよ、馬鹿」、相棒はそんなふうに言い、「いてーよ、馬鹿!」と声を大にした。さすがの相手も驚きおののいている。


 私には聞こえた。


「ルパンだったか。壁なんてなぁ乗り越えるためにあるんだ。俺はいまからそれを証明してやる」


 ジャブ、フックと浴びせる。

 ストレートも的確に決められる。

 それでも相棒は堕ちない――怯まないと言ったほうが適切なのだろうか。


 ボロボロの相棒が相手の両肩を両の手で掴み、頭突きをかました。

 また聞こえた。


「壁なんてのは、乗り越えるためにあるんだよ!」


 私は泣いた。

 この状況を仕向けたのは自分なのに、涙が止まらなかった。


 相棒が相手に馬乗りになり、ガンガンガンガン頭部に拳を浴びせる。

 私が「もういい!」と叫ばなければ、パンチでヒトを殺していただろう。


 私はリングに入れる口を探した。見当たらない。だから私は金網にしがみつき、相棒の名を幾度も呼んだ。相棒は私のすぐそばで、金網越しに笑って、言った。


「俺が負けるかよ。俺はそういうふうに出来てるんだよ」


 私は言った。「あんたのカッコよさは規格外だね」って。「あんたを好きになって良かったって」、「あんたがいないと生きていけない」とまで。


「アイリッシュ訛りの野郎ってのは、総じて阿呆なんだよ」

「アイリッシュ訛りとかって、あんたにわかるの?」

「わかるかよ、ばーか」

「馬鹿はあんたのほう」


 あたしがそう言うと、相棒は子どもみたいに「へへっ」と笑って、乱暴に鼻血を拭った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ