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プロローグ~現世始末記

【前書き】


この小説はあくまでも作者の妄想から派生したものであり、馴染みのある名前や場所などが出てくる場合がありますが、必ずしも同一とは限りません。


またそのイメージを損なう意図は毛頭ございません。また、この小説では人が死ぬ描写が出て来ますので、苦手な方はご遠慮下さい。


最後に、必ずしも共感を得られる内容かは定かではありません。それでも読んでいただければ幸いに思います。


なお、本業の合間で書いていますので、不定期投稿になります。ご了承下さい。

私はどこにでも居そうなしがないサラリーマンだ。


アラフィフを直前に控えているというのに未だに独身の身の上だし、女気も無く、毎日朝起きて会社に出社し、定時で退社すると、帰りにコンビニで安い弁当を買い、自宅のアパートで重宝している電子レンジで温めて食べる。


趣味らしいものがある訳でも無い。あるとすればほんの密やかな楽しみとしているパソコンでのゲーム程度である。こんな日々がこれからもずっとずっと続くのだと自分では思っていた。


人から見れば、何の刺激も無く、ごくごく平凡なつまらない人生だというかもしれない。別にそれを否定するつもりはさらさらないし、実際寂しい男なのだろう。


そんな私にも、輝かしい未来を想像し、将来に夢を大きく膨らませて、前向きに勤めて明るく過ごしていた時期があった。


もういつ頃の事だったのかは今さらどうでも良いが、何度も繰り返される挫折と失望に日々蝕まれていき、けっきょくそこから這い上がる事が出来なかった。


当初は無駄な抵抗を試みてみたものの、その都度現れる大きな壁をついに越える事無く、今に至っている。




或る日の午後、私は日課となっている食後のコーヒーを求めて外資系のチェーン店に寄った。ホットコーヒーをブラックで頼み、出来立てのその温かい飲み物を持って近くの公園に行く。


大抵の場合は空いているいつものベンチに腰を掛けて、昼休みが終わるまでゆっくり時間をかけて飲むため、今日も先を急ぐ。


ところが、その日に限っていつものベンチは親子連れに占有されていて、見た感じすぐに空きそうにない。


『仕方ない…』


楽しそうに笑いながら、話しかける男の子に母親が隣で応えながら、頭を優しく撫でてあげている、それを横目に通り過ぎながら、のんびり出来そうなベンチを探す。


あのベンチは珍しく他のベンチと離れていて、公園でも比較的人が来ないため、静かに過ごせる穴場なのだ。


重宝していたのだが、ま…こんな日もあるか…と諦め半分の気持ちを引きずったまま、落ち着ける場所を捜してみるが、満足のいく場所は見つからない。


昼休みの時間は限られて居るので、少々焦って来た。そこでベンチは諦めて、芝生の上に座り込んでコーヒーを空ける事にした。


『少しぬるいか?』


移動距離が増えた分、いつもより冷めている。でも味はやはり美味しい。


ベンチも良いが、人間たまには、大地に直接座り込んで…のんびりするのもいいな…などと考えていると、急にお腹が痛くなってきた。


いつもなら、ベンチから近い公衆トイレまで、然程の距離もないため、焦る必要はないのだが、あれから倍の距離は歩いて来てしまっているので、ひょっとしたら間に合わないかもしれない。


『弱った…』


昼食時に冷たい水を飲み過ぎたせいかもしれない…或いは地べたに直接座っていたから冷えたのかしらん??…などと思いながら、辺りを見渡す。


いつもの公園ではあるのだが、よくよく考えてみると、あのベンチ以外に座った事がないのだし、所詮勤め先に近いというだけで、憩いの場にしていただけで、園内を一周したことすらない。


昼休みが終わる前に戻れる距離に座っていたとはいえ、緊急を要する事態はさすがに想定外だった。


『ちょっと考えれば、判る事なのにな…』


こういう判断の甘さが、ズルズルと栄光の未来から外れていった原因なのだろうか。昼休み中だが、幸いな事にトイレをして戻るくらいの時間ならまだある。


ひょっとすると近くに私の知らない公衆トイレがあるかもしれないが、もはや捜しているだけの余裕はない。我慢していると冷や汗すら出てくる始末なので、早くなんとかしなければいけない。


『ええい、ままよ!』


私はいつものベンチの近くにある公衆トイレまで、なるべく早足で行く事にした。


立ち上がる前に、手の中に残ったコーヒーが今となっては足手まといになるため、思い切ってグイッと飲み干した。最後のひとくちはすでに冷めていたが、今はそれどころではない。


飲み終えたコーヒーの紙コップは出来れば捨てたかったが、近くにゴミ箱が見当たらないので、手でそのままグシャっと潰して、ズボンのポケットに無造作に突っ込むと、お腹を刺激しない程度に足早に、もと来た道を戻りはじめた。


こういう時は人間不思議なもので、過去に似たような経験をしたことがある…それが誤認なのか、事実なのか、そこまで頭が廻っている訳ではないが、切羽詰まっているはずなのに、そんなことをいつの間にか考えながら歩いている。


まあ確かに余所事を考えていた方が、少しは痛みも忘れるし、誘発も抑え込めるかもしれないので、成る程…脳の中枢神経が為せる技かしらん…などとさも納得したように苦笑しながら、歩き続ける。


するとようやく、いつものベンチの所まで戻って来た。ここまで来ればあと一息だ。ふと、ここで、つまらん事が頭をよぎる。とはいえある意味切実ではあるのだが…。


『誰も個室を使って無ければいいな…』


などと考えが浮かんだ瞬間、ようやく自覚する。そうだ!そうなのだ…今までゴールを目指して、ただひたすらに間に合う事だけを考えて歩いていたが、ここに来てようやく、トイレが空いているか?…という命題に思考が至った訳である。


『間に合うか?』そして…『待たないか?』という事だな。ここに来てさすがに腹の中ではゴロゴロと雷が鳴り出して来て、さらに冷や汗がダラダラと流れて来る。


足の付け根はぎこちなく、下腹部は緩さが頂点に達しつつあった。お尻の辺りの押し出されそうな圧迫で、もはや歩みはしどろもどろだ。絶体絶命の瞬間まで、いくらも余裕が無いことを自覚する。


『急がなければ!!…』


とにかくまずは辿り着くのが先決だ…私はかなり苦しみながらも、可能な限り足早にトイレを目指して歩みを進めた。


そのお陰か…相当苦しい思いはしたが、公衆トイレに辿り着く。慌てて中に入ると、ちょうど若い男が個室から出て来た所で、他に人は居ない。


私が慌てて入って来るのを、男は横目でチラッと見ながら、手洗いをしている。私はというと、それどころではないので、空いたばかりの個室に入り、(かんぬき)を素早くスライドさせる。これ以上はない程、バタバタしながらも、手早くズボンを下ろし、便座に座った。


『間に合ったぁぁ…』と思った瞬間にそれは発動し、一気にスッキリする。『良かったぁぁ…』良くぞ、間に合った!…と自分を褒めてあげたい!という例の奴だな。私は最早、金メダルを取ったくらいの勢いであった。


ホッとすると、今度はやおら時間が気になって来る。


『ヤヤッ!( ̄□ ̄;)!!』


思ったより時間を喰ったらしく、急がなければ昼休みが終わってしまう。私は慌てて身なりを整えるや、すぐに個室を退去し、手洗いも程々に、取り急ぎ公衆トイレを後にする。


『そう言えば…』


さっきの若い男はもうとっくに出たのだろうが、今想えば、すれ違い際に「ニタッ」と笑っていたような気がした。


その時は急いでいたし、泡喰って入って来た私の不様な様子に、苦笑したのだろうと、少し恥ずかしかったくらいの気持ちだったのだが、よくよく考えてみると前に会ったような気もする。


はて?どっかで会ったかな?と考えながら、ふと背後に人の気配を感じて、反射的に振り返る。その瞬間、頭の上に重みと痛みを感じて、私は意識を失った。


『そう言えば…さっきの子連れはどうしたのかな?』


ふとそう頭に想い画くや、ソレはその直後にスイッチが切れて完全に停止した。

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