ショウ=タッカーと姉ヶ崎メグミの宿命の戦い(戦いません)
鬼畜ショタ魔王×グラマー姐さん勇者(粘着攻め×ポンコツ受け、純愛仕様)
幼少の身にして闇を統べる魔王、ショウ=タッカー。
異世界より召喚されし光の勇者、姉ヶ崎メグミ。
光と闇の宿命の戦いが今、始まる。
「はい。と言う訳で、今日も今日とて負けてしまったメグちゃんには、いつも通り罰ゲームを受けてもらおうと思いまーす」
「メグちゃん言うな、魔王め」
「もう、わがままな人ですねぇ……。気を取り直しまして。今日も今日とて負けてしまった姉ヶ崎さんのために本日ご用意しました罰ゲーム用コスチュームはズバリ、コレです」
じゃじゃーん。逆バニー。
「な、なんだコレはぁっ!?」
「何って、見ての通り逆バニーですけど?」
「逆バニー!?なんだ逆バニーって!?」
「なんだと言われましても。逆バニーは逆バニーですよ、姉ヶ崎さん。知らないんですか?逆バニー」
「知るか!」
「えー、ホントに知らないのー?知らないフリしてるんじゃなくてー?」
「知る訳無いだろう、こんなもの!」
「ええっと……。ちょっとマジメに聞きますけど、本当に知らないんですか?」
「知らん!」
「あらー、リアクションがマジだコレ。相変わらず世間知らずだなぁ、メグちゃんは」
「世間知らずではない!私は人間だぞ!魔族の変態衣装なんか知るか!それとメグちゃん言うな!」
「いや、あの、これ、姉ヶ崎さんの故郷の世界からお取り寄せした資料を基にして製作したコスチュームなんですけど。つまり、これを考えたのは人間なんですけど」
「……えっ?」
「おわかりいただけましたか、姉ヶ崎さん?これは人間の人間による人間のためのコスチュームですよ?」
「なん、だと……!?」
「って言うかさー、何度も何度も魔王城まで来てるんだし、知ってるでしょ。魔族って基本、服にこだわり無いよ。人間で言うところの裸族みたいな人も珍しくないし」
「……えっ?」
「なんで不思議そうな顔してるのさ。……まさか、本当に知らないの?」
「……うん」
「ええっと……。一応説明するとさ。魔族って自前の毛皮とか羽毛とか鱗とか樹皮とかで全身覆われてる人が多いから、裸で問題無い人が多いんだよ。人間みたいに服着なくて平気なの。むしろ着込むと邪魔になる」
「た、確かに……。い、いや、しかし、全員が全員そうでは無いだろう。服着てる人も見た事あるぞ」
「そりゃあ服着てる人もいるけど、みんな簡素な服しか着てないでしょ。服を用意したり洗濯したりするの面倒臭がる人が多いんだよねぇ。人によっては魔力を練って服っぽくして纏ってるだけだったりするし。人間で言うところのボディペイント?」
「そ、そうなのか?では、まさか魔王のその装束も……?」
「いや、僕のはちゃんと物質的な服だよ。何なら、その手で脱がして見る?」
「脱がす、だと……!?」
勇者、ごくりっ。
「……念のために確認しますけど、まさか本気で脱がしたいんですか?僕の服を?冗談ではなく?姉ヶ崎さんには、そのようなご趣味が?」
「じ、冗談だ!冗談に決まっているだろう!冗談以外の何だと言うんだ!魔王め!」
勇者、あせあせっ。
「まあそれはともかく。魔族はみんなそんな感じだから、人間みたいに服飾文化が盛り上がらないんだよね。必要も興味も薄いから、しょうがないんだけど……。まあ、僕は身体が幼すぎて威厳もへったくれも無いし、それだと対外的にアレだから、偉そうに見せるために色々着飾ってるけどさー。僕みたいな魔王は例外中の例外だよ。マッチョでパンイチがデフォみたいな?」
「そ、そうなのか。魔族って、そうだったのか。し、知らなかった……」
「……ちょっとマジメな話、姉ヶ崎さんは剣と魔法を鍛えるよりも、まずはお勉強をがんばった方が良いのではないでしょうか?」
「うちのオカンみたいなこと言うな、魔王め」
「言いたくないよ、僕だって。僕ちょっと心配だよ、メグちゃん世間知らずすぎて悪い大人に騙されそう。大丈夫?」
「余計なお世話だ。あとメグちゃん言うな」
「えー、せっかく心配してあげたのに、その言い草は酷いなぁ。姉ヶ崎さんの事を真剣に心配してるのに、そんな風に言われちゃうなんて、僕、悲しくて泣きたくなっちゃうよー。えーん、しくしく」
「お、おい、泣くな。す、すまん、私が悪かった!だから泣くな!」
「……かなりマジメな話、悪い大人に騙されそうで本気で心配だよ、僕」
それはそれとして、お着替えタイム。
「なんて言うか、いいよね。等身大の着せ替え人形みたいって言うか。自分の趣味に合った服を自分の手で着させるのって、まさに至福の時間って感じ?服だけに」
「くっ、殺せ!」
「はい。本日のくっころ、いただきましたー。ノルマ達成ですねー。じゃ、今日も今日とて、いつも通り、この格好のままで人間のお城まで転送しまーす」
「やめろぉっ!?」
「ポチッとな」
転送準備開始。魔法陣ズモモモモッ。
「マジでやめろぉっ!?今日の格好はマジで洒落にならんぞ!?」
「あははっ。今更だよ。また遊びに来てね、メグちゃん。待ってるからねー」
「メグちゃん言うなー!」
転送完了。
「……あー、楽しかった……次はいつ頃、来てくれるでしょうか、姉ヶ崎さん……」
闇の帳が落ちる。
翌朝。
「覚悟しろ、魔王!」
「えっ?もう来たの?さすがに早すぎない?まだ罰ゲームの準備できてないんで、待ってもらっていい?急いで準備するから」
「しょうがないな。早く準備しろよ、魔王」
「あ、はい」
勇者。腹の虫。ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっ……。
「くっ!」
「……先に朝食、用意しますね。ちょっと待っててくださいね」
「魔王の施しは受けん!」
「実は僕も朝食まだなんだよね。あー、でもなぁ。朝食を一人で食べるの、寂しいなぁ。あー、どこかに僕と一緒に朝食を食べてくれる、優しい姉ヶ崎さんはいないかなー?」
「むっ……。そういう事なら、しょうがないな。私が一緒に食べてやろう。……そうだよな、子供が一人で朝ご飯は寂しいよな」
「あ、はい」
ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっ……。
ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっ……。
ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっ……。
「くっ、殺せ!」
「早い早い早いよノルマ達成するの早いからホントちょっと待っててすぐ用意するから」
闇魔法。影の収納室、開口。
厚切りトースト、ジャムたっぷり。
ベーコンエッグ、半熟カリカリ。
トマトジュース、しぼりたて。
「用意できましたよー」
「おお、これはっ!」
勇者、じゅるりっ。
「じゃ、食べましょうか。いただきまーす」
「いただきます」
勇者、パン、ぱくりっ。
激辛。
「からひぃっ!?」
「うん、おいしい。この唐辛子ジャムね、僕のお手製なんだ」
「とうひゃらひひゃむっ!?」
「あははっ。なに言ってんだか全然わかんないよ、メグちゃん。ウケる」
「めひゅひゃん言うひゃ!」
「まあまあ落ち着いてよ、メグちゃん。これでも飲んで落ち着いて」
勇者、トマトジュース、ごくりっ。
激辛。
「からひぃっ!?」
「うん、おいしい。このトマトジュースね、僕お手製タバスコ入りなんだ」
「ひゃひゃひゅひょ入ひひゃひょっ!?許ひゅまひ!」
「まあまあ落ち着いてよ、メグちゃん。僕はさ、僕の手作りの食べ物をメグちゃんにも食べてもらいたいと思って、この朝食の用意したんだ。ホントだよ?悪気は全然だったんだよ?子供が頑張って作った料理を大人に食べて欲しいという純粋な想い、まさかそれを非難するなんて非道な真似、光の勇者がしないよね?」
「くっ……。ひひょうな言ひひゃまひゃな」
「で、それはそれとして。メグちゃん光魔法使えるでしょ。回復したら?」
光魔法。きゅあっ。
「ふぅ、酷い目にあった……」
「人間の舌って貧弱だねぇ。食生活の不一致は後々苦労しそうだし、いっそ人体改造しちゃう?実は僕、そういうの結構得意なんだよね。手先の器用さには自信アリって言うか。ほら、僕の手、小さいからね。細かいところにまで入り込んで完璧に改造してあげるよ。何なら今すぐにでもね。どう、メグちゃん?」
「誰がするかっ!あとメグちゃん言うな!」
ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅっ……。
「……まあ、姉ヶ崎さんを改造するしないの話は朝食を食べてからにしましょうか。どうぞ召し上がれ」
「食えるかっ!」
魔王、もぐもぐ、ごくん。
「ちゃんとおいしいベーコンエッグですよ。食べないんですか?」
「そ、そうか、ベーコンエッグは、ちゃんとおいしいのか。……んっ?」
「いやー、それにしても凄いですね、姉ヶ崎さん。初めから2連チャンで当たりを引くとは。さすがは勇者、引きが強いですね。魔王ビックリしちゃった」
「魔王め!やっぱり本当は悪気あっただろう!」
「悪気は全然ですよ。本当ですよ?何なら光魔法で僕が嘘を言ってるかどうか判定してみます?」
「言ったな!覚悟せよ、魔王!」
光魔法。ぽりぐらふっ。
「むっ……。反応が無い。本当に嘘は言っていないのか……?」
「悪気は全然ですよ、全然。僕は正直者の魔王ですからね。そんな事より、どうぞ召し上がれ。そのベーコンエッグ、僕の超自信作なんですよ。鶏はゼロから品種創造した特別性で、餌も特別なものを与えて、特別な飼育環境で産ませた特別な卵を使ってます。無論、ベーコンにもこだわってますよ。特にこだわったのが燻製のチップですね。特別なチップによる燻煙で、まさに魔王的な仕上がりになってますよ」
「お、おお、そうなのか。なんか凄そうだな、よくわからんが」
「と言う訳で、さあどうぞ」
「ああ、いただこう」
勇者、ベーコンエッグ、ぱくりっ。
超激辛。
「からひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
「いやー、見事ですね。最後の最後まで大当たりを残しておいて――……引く。わかってるねぇ、メグちゃん」
光魔法。きゅあっ。
「許ひゅまひ!」
「光魔法でも回復できないみたいだね。やっぱり人間の舌は貧弱すぎるし、これはやっぱり人体改造かな?」
光魔法。きゅあっ。
光魔法。きゅあっ。
光魔法。きゅあっ。
「許すまじ!マジ許すまじ魔王!」
「まあまあ落ち着いてよ、メグちゃん。いずれは改造するとして、ひとまず今のメグちゃんの舌でも問題無いの用意するから」
「メグちゃん言うな!」
闇魔法。影の収納室、開口。
おにぎり山盛り。
「おにぎり各種盛り合わせセットです」
「おお、おにぎりだぁ!」
「姉ヶ崎さんの故郷の世界の中でも一部地域の人に特に人気が高いという話を小耳に挟みまして、ご用意いたしました。お気に召していただけますと幸いですね」
「素晴らしいな!では早速――……って、騙されるかぁ!さっきの今で食べるとでも思ったか、魔王!」
「えー、食べないのー?せっかく用意したのにー?」
「どうせ魔王の事だ、何か辛いのが中に入っているんだろう?」
「そうです」
「正直だな!?」
「ロシアンルーレットおにぎりですよ。姉ヶ崎さんの故郷の世界からお取り寄せした資料を基にして製作してみました。懐かしいですか?」
「懐かしい訳あるか!こんなんやったこと無いわ!」
「……なんか、ゴメン。ぼっちな人には無縁ですよね、こういうの」
「ぼっちではない!」
「うんうん。わかってます。僕はちゃんとわかってますよ、姉ヶ崎さん」
「わかってない!これでも私は羅腑霊死亜の第4代目ヘッドだぞ!舐めるなよ、魔王!」
「ええっと……。どうして急にラフレシアの話を?ラフレシアって、なんかトイレみたいな花でしたっけ?」
「トイレとか言うんじゃない!私の率いるチームが羅腑霊死亜だ!その第4代目ヘッドが私だ!どうだ、恐れ入ったか、魔王!」
「いやチームて何ですか」
「私のチームは凄いんだぞ。人たくさんいるし、強いし、無敵なんだぞ」
「へー。凄いですねー。それはそれとして、おにぎり食べます?」
「うん。……って、食べんわ。まったく、危うく流されるところだったぞ。これが魔王の罠か」
「せっかく用意したんだし、食べてもらえないの寂しいなぁ。……それじゃあ、こうして見ようかな?」
闇魔法。無作為の暗転、発動。
おにぎり10個、ランダムシャッフル。
7個は普通。
2個は当たり。
1個は大当たり。
「姉ヶ崎さん。本日の勝負、このロシアンルーレットおにぎり対決にするというのはどうでしょう?」
「何だと?これで対決?どういう意味だ?」
「今、このおにぎりの中身は僕にも不明です。どれに何が入っているのか、わかりません。これを交互に食べて勝敗を決するのです。要は運試しですね」
「……ふざけているのか?」
「真剣ですよ。もしも僕が負けたら、何でも一つだけ言う事を聞きましょう。欲しいなら、この首、差し上げます」
「……っ……」
「まあ要するに、基本はいつもと同じって事ですよ。内容は若干アレですが、内容がアレだろうと勝負は勝負。勝負事と言うのは真剣でなければ面白くありませんからね。それで、どうします、姉ヶ崎さん?」
「……信じ難いな」
「酷いなぁ。嘘なんか言ってないのに。もし僕が負けたら本当に首あげるのに」
「それも信じ難いが、そうではない。これは魔王が用意したおにぎりではないか。本当は中身がわかっているのではないか?」
「魔王ショウ=タッカーの名に懸けて宣誓します。僕にはどれに何が入っているのか、わかりません。その上で、勝負に挑みます」
「むぅっ……」
「さあ、どうしますか、姉ヶ崎さん。僕の名に懸けて宣誓までしたのに、この勝負、逃げますか?」
「いいだろう。そこまで言わせて逃げたとあっては、羅腑霊死亜の第4代目ヘッド、姉ヶ崎メグミの名折れだ。その勝負、受けよう」
「さすが、それでこそ姉ヶ崎さん。敬意を表し、先攻はお譲りしましょう」
「いい度胸だ。後悔するなよ、魔王」
先攻、勇者。
ひょいっ、ぱくりっ。
「からひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」
大当たり。
「いやー、マジで引き強いねー、メグちゃん。ここでまさかの一発引きとか、さすがはメグちゃん」
「めひゅひゃん言うひゃ!」
「あははっ。なに言ってんだか全然わかんないよ、メグちゃん。ウケる」
後攻、魔王。
ひょいっ、ぱくりっ。
「あ、サケだ。僕は引きが弱いなぁ……」
普通。
「ひゃひゃっひゃな、まひょう」
「いやだから全然わかんないって。ほら、光魔法だよ、光魔法。回復して」
光魔法。きゅあっ。
光魔法。きゅあっ。
光魔法。きゅあっ。
「さては謀ったな、魔王!」
「何を言ってるのさ。先攻で一発引きしたの、誰だったかなー?僕が何かする余地、あったかなー?」
「そ、それは……っ……」
「と言う訳で、勝敗は決したね。僕ちょっと罰ゲームの準備してくるよ。結構時間かかると思うから、残りのおにぎりでも食べながらノンビリ待っててね、メグちゃん」
「メグちゃん言うな!」
魔王、退席。
「……勝利条件を確認せずに勝負を始めてしまうなんて、脇が甘いですね、相変わらず……まあ、そういうところも姉ヶ崎さんの可愛いところですけど……」
闇の微笑。
罰ゲーム、準備完了。
「はい。と言う訳で、今日も今日とて負けてしまったメグちゃんには、いつも通り罰ゲームを受けてもらおうと思いまーす」
「メグちゃん言うな、魔王め」
「負けたのに偉そうな人ですねぇ……。気を取り直しまして。今日も今日とて負けてしまった姉ヶ崎さんのために本日ご用意しました罰ゲームですが、本日はいつもと少々異なる趣向を凝らしてみました。コレです」
じゃじゃーん。制約のチョーカー。
「ん?なんだコレは?リボンか?」
「そんな可愛らしいものではありませんよ。これ、いわゆる隷属の首輪ってヤツです。これを首に着けたら奴隷になっちゃう感じのアレですよ、アレ」
「ど、奴隷だとっ!?」
「これを今から姉ヶ崎さんに着けてもらおうと思いまーす」
「ふ、ふざけるなぁっ!誰が着けるか、そんなもの!」
「大丈夫ですよ。安心してください。これは僕が手ずからチューニングした特別性ですから、着けても奴隷にはなりません。ちょっとアレがアレしてアレな感じになるだけのアレですよ。安心安全です」
「安心できる要素が一つも無い!」
「まあまあ、そう言わずに」
魔王から勇者へ。手渡し。
「さあ、姉ヶ崎さん、自分で着けてくださーい」
「誰が着けるか!」
「えー、着けないのー?ホントにー?」
「奴隷にされるとわかってて着ける奴がいるか!」
「だから大丈夫ですって。そもそも隷属の首輪って、自分で自分に着けた場合は、誰の奴隷にもなりませんから」
「ん?そうなのか?」
「ご主人様が奴隷の首に手ずから着けると呪いが発動する仕組みなんですよ。ご主人様が手ずから、と言うのがポイントですね。なんか量産の都合上、そういう仕様の術式にせざるを得なかったみたいで」
「り、量産だと?このような恐ろしいものを量産していると言うのか!何と言う恐ろしい事をするんだ、魔王め!」
「いや、あの、なんか勘違いしてるみたいですけど。それ量産してるの、人間なんですけど」
「……えっ?」
「なんかイイ感じの呪いの媒体が欲しくて、人間の王国の闇市で買ったんですよ、それ。一応僕でも作れますけど、ゼロから作るのって地味に面倒臭いし、省ける手間は省きたいなーって思って」
「そ、そんな……それでは、これは本当に……?」
「ベースは人間の作った呪いのアイテムですね。さっきも言いましたけど、僕が手ずからチューニングしましたので、もうほとんど別物ですけど」
勇者、愕然。
「あのさ、何度も言うようだけどさ、ちゃんとお勉強した方がいいよ?ぶっちゃけ、勇者をやってあげるほどの価値無いと思うよ、あの国」
「う、うるさいっ!魔王に私の何がわかると言うんだっ!」
「はいはーい。僕、魔王でーす。……まさか、魔王にわかって欲しいとか言っちゃう?勇者なのに?魔王に理解求めちゃう?」
「……っ……」
「まあ、それはそれとしてさ。ほら、早く着けて着けて。今日の勝負はかなりアレな感じではあったけど、勝ちは勝ち、負けは負け。負けたら何でも一つだけ言う事を聞く。それが僕とメグちゃんとの間で交わされた誓約でしょ?今更、違えるのは許されないよ?ねえメグちゃん?」
「……メグちゃん言うな」
勇者、制約のチョーカー、装着。
「どう?どう?どんな感じ?」
「……なんだ?何とも無いぞ?」
勇者、困惑。
「おい、これは何なんだ?何の効果があると言うんだ?答えろ、ショー君!」
「うんうん、正常に起動してるみたいだね。良かった良かった」
「ショー君!答えろと言っている!……って言うか何だコレ!?ショー君!?」
「いやー、さすがは僕だね。こんなピンポイントな呪いを生み出しちゃうなんて、マジで天才だね。自分で自分を褒めちゃうよ」
呪い。装着者が『魔王』と呼ぼうとすると『ショー君』に変更されます。
「ショー君!?これはショー君の仕業か!?」
「もちろん」
「ふ、ふざけるなぁっ!こんなもの!こうしてやる!」
呪いの装備は外せません。
「は、外れないっ!?」
「そりゃあ外せないよ、力尽くでは。呪いの装備のお約束でしょ?」
「くっ、かくなる上は!」
光魔法。りりーすっ。
「ふっ、私が光の勇者であるという事を失念していたようだな、ショー君!」
「覚えてるよ、もちろん」
「こ、これはどういう事だ、ショー君!?ショー君!?くっ、ショー君をショー君と呼べない!?」
「いや呼んでるじゃーん」
「ち、違う!私はショー君をショー君と呼ぼうとしているんだ!ああもうショー君!」
「はい。僕がショー君です」
「おのれぇっ!ショー君め!」
光魔法。りりーすっ。
光魔法。りりーすっ。
光魔法。りりーすっ。
「今度こそ!これでもうショー君の思い通りにはならないぞ、ショー君!」
「無理だよ。光魔法の解呪が利かないようにチューニングしたから」
「くっ、ショー君め!ああもうショー君!ショー君をショー君と呼ぼうとしているのにショー君と呼べない!」
「制約の範囲を絞る事で拘束力を増したからね。勇者の光魔法であれば、普通の隷属の首輪くらいなら簡単に解呪できちゃうんだろうけど、まあそれは無理だね」
「ええいっ、この、この、このぉっ!外れないっ!」
「ちなみにそれ、条件さえ満たせば簡単に外れるよ」
「何だと!?その条件とはなんだ!?教えろショー君!?」
「あははっ。教える訳無いじゃーん。と言う訳で、ポチッとな」
転送準備開始。魔法陣ズモモモモッ。
「はい。今日はもうノルマ達成していますので、このまま人間のお城まで転送しまーす」
「待てショー君!これはマジで洒落にならんぞ!?」
「そう?昨日の逆バニーよりはマシじゃない?僕が言うのもアレだけど」
「ショー君が言うな!ああもうショー君!」
「じゃ、まったねー、メグちゃーん」
「メグちゃん言うなー!」
転送完了。
「……さて、そろそろ本格的な仕込み、頑張らないといけませんね……」
魔王、行動開始。
翌週。
「あ、久しぶりー。1週間ぶりだね、メグちゃん」
「メグちゃん言うな!覚悟しろ、ショー君!」
呪い、継続中です。『魔王』と呼ぼうとすると『ショー君』に変更されます。
「……ぷっ」
「わ、笑うな!誰のせいでこうなってると思ってるんだ、ショー君!」
「……ぶふっ」
「こ、このっ、ショー君め!」
「……ぶひひっ、ふひひひひっ、あははははははははっ!」
「ショー君!笑うな!ショー君!」
「いひひっ!ひははははははははっ!あははははははははっ!」
「笑うなと言っているのが聞こえないのか!このショー君め!」
「あははははははははっ!あははははははははっ!」
「ショー君!ああもうショー君!ショー君!」
「無理ですダメですやめてください死んでしまいますあははははははははっ!」
「ショー君!」
1時間後。
「……ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ……腹筋が攣るかと思いました……」
「笑いすぎだろう、ショー君」
「ひゃはひぃっ!あははははははははっ!」
「笑いすぎだろう!?ショー君!?」
「あははははははははっ!」
更に1時間後。
「……ふひぃっ、ふひぃっ、ふひぃっ……マジで笑い死ぬところだった……魔王が笑い死ぬとか史上最低最悪の死因だよ。マジ笑えないわぁ。危ない危ない」
「いや笑いすぎだろう、ショー君」
「んぐぅっ……よし。耐えた。ギリギリだったけど耐えた。僕は笑いへの耐性を手に入れたよ。今ここに魔王は進化しました」
「どんな進化だ。大体、前は普通に耐えてたと言うか、別に笑ってなかったではないか」
「いやー、なんて言ったらいいのかな。久しぶりに聞くと破壊力が増してたんだよね。こう、うまく言えないんだけど、一晩置いたカレーは円熟味が増して別物の美味しさになってたって感じ?わかる?」
「わかるような、わからないような……」
「はー、疲れたー。笑い疲れて今日はもう無理だわー。これもう今日の勝負は僕の負けって事でいいや」
「……えっ?」
「僕の負けです。姉ヶ崎メグミさんは、魔王ショウ=タッカーに勝利しました。初勝利、おめでとうございます」
魔王、拍手。ぱちぱちぱち。
「……ふざけているのか?」
「心外だなぁ。ふざけてないよー?そりゃあ僕は悪ふざけが大好きだけれども。ふざけて負けを宣言するような魔王じゃあないんだなー、これが。……誓約もあるし、割と命懸けですよ?本当はわかってるでしょう?」
「……っ……」
「で、どうしますか、姉ヶ崎さん?僕の首、持ってっちゃう?」
「ふ、ふざ、ふざけるなああああああああっ!」
「いやだからさ、ふざけてないってば」
「私がっ!どんな覚悟でっ!ここまで来ていると思っているっ!」
勇者、激昂。
「知ってるよー。アレでしょ?魔王の首を持って来たら、故郷の世界に帰してやる、とか何とか言われてるんでしょ?」
「なっ、何故それを知っているんだ!?」
「そりゃあ調べたからねー」
「調べた、だと……!?」
「いやそこ驚くトコじゃなくない?普通なら、自分の首を欲しがってる人がいたら、理由調べない?調べるでしょ、普通」
「むっ……。言われてみれば、確かに」
「まあ僕は普通じゃなくて魔王だから、普通は理由なんか調べないけれども。人間が僕の首を欲しがるの、普通だし。わざわざ調べるまでも無いって言うかね。イチイチ調べるのメンドイし」
「ふざけているのか、ショー君!?」
「ふざけてないよ。あんまりマジメにならない僕にしては珍しくマジメに調べたね。普段はあんまり他人のプライベートをほじくるような真似、あんまりしないんだけれども。うん。あんまりはしないね、あんまりは。そこは信用して欲しいかな?」
「これ以上無いくらい信用ならないな!?」
「酷いなぁ。僕みたいな正直者の魔王を信用ならないだなんて。僕の首を賭けてもいいくらい、僕は正直者の魔王だよ?」
「……っ……」
魔王、首元を晒す。
「負けたら何でも一つだけ言う事を聞く。勝者、姉ヶ崎メグミは、敗者、魔王ショウ=タッカーに、何を望みますか?」
「……っ……」
「あ、一応言っとくけど、実現不可能な望みは無理だよ。無理なものは無理だからね。メグちゃんの故郷の世界に僕を一緒に連れて帰りたい、とか言われちゃっても無理だから。そこはゴメンね?僕の実力不足のせいだね。僕としても、できる事ならメグちゃんのお義母さんにご挨拶したいなーって思うけど、無理なものは無理だから。うーん、本当に残念だけど、まあしょうがないね。そこは諦めてね、メグちゃん」
「……メグちゃん言うな」
魔王、にっこり。
「それが望みでいいんですか?無欲ですね、姉ヶ崎さんは」
「ち、違っ!?今のは違う!」
「あ、違うの?それじゃあ何がメグちゃんの望みなのかな?ほらほら、正直に言っちゃいなよ、メグちゃん。ねえメグちゃーん?」
「だからメグちゃんと言――……くっ!?」
「ほらほら、どうしたのー?メグちゃーん?メグちゃん?ねえメグちゃん?メグちゃんってばー?メグちゃーん?」
「くっ、これがショー君の罠か!何と言う卑劣なショー君だ!?」
「いやー、なんかイイね、こういうの。僕がどれだけメグちゃんをメグちゃんと呼んでもメグちゃんに否定されない。ついにメグちゃんは僕にメグちゃんと呼ばれる事を受け入れたんだね。やったねメグちゃん」
「くっ、ショー君め!」
「ほらほら、メグちゃん。早く望みを言った方がいいんじゃないかなー?ねえメグちゃん?じゃないと、ずぅーっとこのままだよ、メグちゃん?まあ僕としては大歓迎だけどね。メグちゃんはどうなのかな?実はメグちゃんも本心では歓迎しちゃってるのかな?ねえメグちゃん?望みを言わないって事はそういう事なのかな?ねえメグちゃん?メグちゃーん?」
「いいだろう!言ってやる!言ってやるぞ、ショー君!」
勇者、深呼吸。
「何でも一つだけ言う事を聞くんだな、ショー君?」
「何でも一つだけ言う事を聞くよ、メグちゃん」
勇者、自らの首を指差す。
「ならば、これを外してもらおうか、ショー君」
「えー、せっかくプレゼントした制約のチョーカーなのにー?それ外しちゃうのー?そんなのが望みでいいのかなー?メグちゃーん?」
「ああ、それが私の望みだ」
「今なら僕の首だって取れちゃうのにー?本当にそれでいいのかなー?ねえメグちゃーん?」
「あまり私を舐めるなよ、ショー君。ショー君の首は後回しだ。今は私の首からコレを外すのが先決だ」
「ふぅん、そう。……メグちゃんは甘ちゃんだねぇ」
「何とでも言え、ショー君。どのような境遇であろうとも、人には決して捨ててはならない誇りというものがある。いかにショー君がそれを良しと言おうとも、こんなお情けのように譲られた勝利でショー君の首を取れるか!いずれ必ず相応しい勝利の果てに、ショー君の首をもらい受ける!覚悟しておけ、ショー君!……って、ああもうショー君をショー君と呼べないから締まらないな!?」
「本当に、メグちゃんは甘ちゃんだねぇ。まあ、メグちゃんがそれでいいって言うなら、いいんだけどさー。これが最初で最後のチャンスかもしれないのに、まったくもう、メグちゃんはメグちゃんだねぇ」
「メグちゃん言うな!」
「かしこまりました。やはりそちらの望みを叶えた方がよろしいのでしょうか、姉ヶ崎さん?」
「ち、違っ、違う!」
「えー、違うのー?もう、メグちゃんってば、あんまり紛らわしい事は言っちゃダメだよ。ねえメグちゃん?メグちゃーん?」
「くっ、ショー君め!」
「で、結局どうするのさ。メグちゃんの望みは何?」
「これを外せ!今すぐに!」
「それがメグちゃんの望みでいいの?本当に?今度こそ違わない?」
「ああ、そうだ!これを外すのが私の望みだ!」
「うん。それがメグちゃんの望みなんだね。わかった」
闇魔法。純黒の誓約書、顕現。
「念のため、最終確認をするよ。今回のメグちゃんの勝利に対する望みは、制約のチョーカーを外す事。本当にそれでいいんだね?」
「ああ、それでいい」
「後でキャンセルもチェンジもできないよ?本当にいいんだね?」
「くどい!」
「うん。それじゃあ、もし本当にそれでいいのなら、ここにメグちゃんの母印を押してね。僕も押すから」
「母印?これでいいのか?」
「うんうん。じゃあ僕も」
勇者、親指、ぐぐっ。
魔王、親指、ぐぐっ。
誓約、成立。
「今ここに、メグちゃんの望みは受理されましたー。おめでとーございまーす」
魔王、拍手。ぱちぱちぱち。
「さあ、ショー君。これを外してもらおうか」
「うん。無理」
魔王、にっこり。
「な、なんだと!?どういう事だ、ショー君!?」
「さっき言ったじゃないか。無理なものは無理だって。僕にはメグちゃんにかかってる呪いをどうにもできないから、制約のチョーカーは外せないんだよ。ゴメンね?」
「無理なはずが無いだろう!この呪いはショー君がかけたものではないか!」
「いや違うよ?呪いをチューニングしたのは僕だけど、メグちゃんに呪いをかけたのはメグちゃん自身だよ?」
「……えっ?」
「まだ1週間しか経ってないのに、もう忘れちゃったの?そのチョーカー、メグちゃんが自分で自分の首に着けたでしょ?」
「た、確かに、これは自分で着けたが、それが何だと言うんだ!?」
「隷属の首輪は、ご主人様が手ずから着ける事で呪いが発動する。で、その呪いを外せるのは、呪いを発動させたご主人様のみ。それが基本的な仕様なんだよ。その辺の仕様は弄ってないから、そのまんまなんだよねー」
「つ、つまり、私が私に呪いをかけたから、この呪いを外せるのは私だけだと言う事か……?」
「ベースは量産品だからね。生産者が勝手に外せたらダメでしょ」
「それではどうすればいいんだ!?」
「この前も言ったけどさ、条件さえ満たせば簡単に外れるよ、それ」
「その条件を教えろ!」
「えー、どうしよっかなー?もうメグちゃんの望み、受理しちゃったしなー。もう言う事を聞く必要も無いしー?」
「くっ、ショー君め!」
「まあ、でもアレかな。せっかくのメグちゃんの初勝利にケチをつけるのもアレだしね。今回は特別サービス。教えちゃおう」
「ほ、本当か!?」
「僕は正直者の魔王だからね。メグちゃんが『教えてください、ショー君』って言ってくれたら、教えてあげる。本当にね」
「くっ……。教えてください、ショー君」
魔王、両手で×印。
「ダメダメ、それじゃあ全っ然ダメでーす。とても教えてあげられませーん」
「な、なんだと!私を騙したな!この嘘吐きショー君め!」
「僕は正直者の魔王だって何度も言ってるじゃーん。……ねえ、メグちゃん。今、本当にちゃんと言った?」
「ちゃんと言ったではないか!」
「なーんか、僕の耳には『教えてください、魔王』って言ってたように聞こえた気がしたんだけどなー?」
「そ、それは……っ……」
「あれれー?どしたのー?もしかして、アレかな?メグちゃんは嘘吐き勇者なのかな?小さい子供を騙そうとする悪い勇者なのかなー?」
「ち、違っ……」
「うんうん。わかってる。僕は、ちゃあんとわかってるよ、メグちゃん。……だからさ、次は間違えちゃあダメだよ?もし次も間違えちゃったら、そこで終わりだからね?」
「……っ……」
「さあ、もう一度、心をこめて言ってごらん?ちゃあんと心をこめてね?」
「……っ……」
勇者、顔真っ赤。
「……っ……お、教えてください……し、ショー君……っ……」
「えー、声が小さいよー?いつもの元気なメグちゃんのお声が聞きたいなー?」
「くっ、ショー君め!」
「そうそう、そんな感じの声だよ。なんだ、出そうと思えば出せるじゃーん」
「……っ……」
「さあさあ、もっと大きな声で言ってみよー。もちろん、心をこめてねー?」
「……お、教えてください……し、ショー君……っ……」
「うーん、まだちょっと、お声が小さいかなー?」
「……教えてください、し、ショー君……っ……」
「おー、ちょっと良くなったね。でもまだまだかなー?」
「……教えてください、ショー君っ……」
「うんうん、だいぶ良くなってきたよ。さあ、後ちょっとだよー」
「……教えてください、ショー君っ」
「惜しい。もう一声」
「ああもうっ!教えてくださいっ!ショー君っ!」
「はい。よくできました。がんばったメグちゃんには花丸をあげましょう」
「さあ言ったぞ!教えろショー君!」
魔王、にっこり。
「隷属の首輪の解除条件は、首輪に触れながら『外れろ』と唱える事だよ」
「外れろ!」
外れません。
「なんでだ!?」
「せっかちさんだなぁ、メグちゃんは。今僕が言ったのは、ベースとなった隷属の首輪の解除条件だよ。キーワードは変えてあるよ、当然」
「そのキーワードを教えろ!」
「あれれー?人に物を教えてもらう時はー?」
「くっ!キーワードを教えてくださいっ!ショー君っ!」
魔王、にっこり。
「キーワードは『ショー君だいすき』……」
「っ、ショー君だいすき!」
外れません。
「――にしようかと思ったけど、やめたんだよね」
「ショー君!」
「本当のキーワードは『ショー君あいしてる』……」
「っ、ショー君あいしてる!」
外れません。
「――にしようかと思ったけど、それもやめたんだよね」
「ショー君!」
「本当に本当のキーワードは『ショー君のおよめさんにして』……」
「っ、騙されるかぁ!」
「……………………」
「だ、騙されるものか!」
「……………………」
「だ、だま、騙され――……っ、ショー君のおよめさんにして!」
外れません。
「――にしようかと思ったけど、やっぱりそれもやめたんだよね」
「ショー君!許さんぞショー君!ああもうショー君!ショー君!ショー君!」
「うひゃー。そんなに熱烈に呼ばれると照れちゃうなー」
「ああもうっ!ショー君のバカぁっ!ショー君なんて大っキライ!」
「あっ」
制約のチョーカー、外れました。
「……えっ?」
「もうちょっと引っ張れるかと思ってたんですけど、意外と早かったですね」
「ど、どういう事だ!?どうして外れたんだ!?」
「どうもこうも、解除条件を満たしたってだけですよ。と言う訳で、ポチッとな」
転送準備開始。魔法陣ズモモモモッ。
「はい。今日は僕が負けてしまったので、ノルマ未達成です。うーん、残念」
「お、おい、どういう事なんだ!?教えろ、ショー君!」
「えー、このタイミングで教えたら、僕ちょっとカッコ悪すぎなーい?」
「気になってどうしようもないぞ!教えてくれ、ショー君!」
「それじゃあ次に会った時に教えるよ。それまで気にしててね、メグちゃん」
「ま、待て、ショー君!本当に気になって――」
転送完了。
「……次あたりが山場になりますかね……ちょっと気合を入れ直さないといけませんね……」
魔王、わくわく。
1ヶ月後。
「あ、お疲れちゃーん。丁度1ヶ月ぶりかな?メグちゃんがうち来るの」
「……………………」
勇者、血塗れ。
「あ、そうそう、次に会った時に教えるって約束してたの、覚えてる?覚えてるかなー?」
「……………………」
「まあ僕は覚えてるから正解発表しちゃう。ズバリ、制約のチョーカーの解除キーワードは『ショー君のバカ』でしたー」
魔王、拍手。ぱちぱちぱち。
「どうかなー?メグちゃんは気付いてたかなー?それとも予想外だったかなー?どっちかなー?」
「……………………」
「ちなみに、隷属の首輪の解除には、実際に声を出す必要はありません。キーワードは頭の中で唱えれば有効になる仕様です。ご主人様の中には声を出せない人もいるので、そういう人でも使えるように考えられた親切設計ですね」
「……………………」
「逆にさ、声でキーワードを言ってても、頭の中で唱えていないと有効にならない仕様なの。ねえ、わかる?これがどういう事か、メグちゃん、わかる?」
「……………………」
「つ・ま・りー。あの時のメグちゃんはさー、僕の事を『魔王』とは呼ばずに、ちゃんと『ショー君』って呼んでたって事なんだよねー」
「……………………」
「いやー、僕、照れちゃうなぁ。まさかメグちゃんが僕の事を『ショー君』と呼んでくれるなんてさー。いやホント、マジで照れちゃうね。うん。もっと時間かかるかと思ってたんだけど。勇者の予想外の素早い行動に、魔王ビックリしちゃった」
「……………………」
「……あの、さすがにちょっとはリアクション取ってくれないと、さすがにちょっとアレなんですけど。なんか凄く寂しいボッチ野郎が独り言を言ってるみたいになってるんですけど、今の僕」
「……ショー君……」
「あ、はい。僕がショー君です。どしたの、メグちゃん」
「……ショー君……全部、ショー君のせいだ……っ……」
「うんうん、そうだね。全部僕のせいだよ、メグちゃん」
「……っ……」
「そんなの最初っから、わかりきってる事でしょう?だって僕のせいなんですから」
「ち、違っ、今のは思わず八つ当たりを――」
「違いません。この世界に魔王がいなければ、この世界の人間は異世界から勇者を召喚しませんでした。魔王ショウ=タッカーがいたせいで、姉ヶ崎メグミは勇者として召喚されてしまい、故郷の世界から引き離されてしまいました。これが事実です。……つまり、僕のせいですね」
「そ、そんなの、ショー君は何も――」
「それ以外の事も全部そう。全部、僕のせいだよ。それが事実なんだよ。たとえメグちゃん自身にだって否定させないよ?メグちゃんがここにいるのは、全部、全部、ぜーんぶ、僕のせいだからね?」
「……っ……ふざ……けるなぁ……っ……」
勇者、号泣。
「ええっと……。姉ヶ崎さん?あの、姉ヶ崎さーん?なんで泣いてるんですかー?」
「……うぅっ……ショー君……私はどうすればいいんだ……っ……」
「どうすればって、そりゃあ僕の首を持って行けばいいんじゃない?」
「……できるか……できるかぁっ……そんな事……っ……」
「あ、あれー?おっかしいなぁ。ここはこう、メグちゃんが久しぶりにズバーッて斬りかかって来てシリアスバトル発生。かーらーのー、ちょちょいっと一瞬で返り討ち。で、あっさり負けたメグちゃんに罰ゲームして、くっころノルマ達成。……って感じの予定だったんだけど」
「一瞬で返り討ちになんか……ならないモン……」
「いやモンて何ですか」
「……っ……うぅっ……うぅぅっ……」
「うーん、人間を斬って返り血浴びてるし、なんかイイ感じに覚醒してるのかと思ってたんだけど……そうでもないねぇ。なんか普通に凹んでるだけだし。どうしようかな」
「……っ……人を斬ったの……なんで知って……っ……」
「だって僕のせいでしょ、それ。……ねえ、ちゃんとわかってる?僕のせいだよ?わかってるよね?メグちゃん?」
「……わからない……もう何もわからないんだ……私には……っ……」
「ええっと……。もしかして、本当にわかってない感じなのかな?普通に考えたらわかると思うんだけど……。メグちゃんが勇者なのに魔王との内通を疑われちゃったの、僕のせいだよ?」
「……内通……?」
「終わりの始まりは、やっぱり逆バニーかな?それまでも趣味のコスチューム着させて無傷でお城に転送してたから、お城の人から見たら、魔王に遊ばれてる頼りない勇者って感じだっただろうけれども。逆バニーはちょっとやりすぎだったね。アレはねぇ、なんかもう完全に方向性が違う意味で、魔王に遊ばれちゃった後の勇者って感じだったよね。うん。やりすぎた。ゴメンね?」
「……えっ?」
「よっぽど人目がキツかったのかな?お城に居辛かったのは理解できなくもないけど、だからって即行で魔王城に帰って来たのはマズかったねぇ。しかも、お城に戻す時は首に制約のチョーカー着けて転送だったし。目端の利く人なら、自分で自分に呪いをかけてる状態だってわかってくれたかもしれないけど。メグちゃんの周りにいる人達、目が節穴っぽいし、まあ気付かないよね。魔王に遊ばれちゃった挙句、隷属の呪いをかけられちゃって、光魔法で呪いに抗ってる勇者って感じになってたね。うん。やりすぎた。ゴメンね?」
「……えっ?」
「その後の尋問漬けの軟禁生活、お疲れ様でした」
「……そんな事まで……なんで知って……っ……」
「極め付けはアレだね。僕の事を『ショー君』って呼ぶように心身とも慣れさせちゃった事だね。メグちゃん、気付いてる?チョーカー外した後も、お城の人の前で呼んじゃってる時あるでしょ?それ、マズいよねぇ。お城の人から見たら、呪いを解かれたのに自ら喜んで魔王に隷属しちゃってる勇者だよ。もう完全にアウト判定だね。うん。やりすぎた。ゴメンね?」
「……っ……それでは……私が剣を向けられたのは……っ……」
「うん。僕のせいだね。徹頭徹尾、僕のせいだね。こうなったら、もう誤解を解く方法は一つしかないよ。わかるでしょ?」
「……無理だ……私はもう……人を斬ってしまった……っ……」
「無理じゃないって。僕の首を持って行けば、さすがに誤解は解けるよ」
「……えっ?」
「僕の首を持って行けば、これまでの悪評は逆転するよ?敵を欺くには、まず味方からってね。魔王に心酔し、人間の敵に回ったかのように演じていた勇者が、魔王の首を持って凱旋するんだよ。これで一発逆転だ。やったねメグちゃん」
勇者、呆然。
魔王、にっこり。
「さあ、メグちゃん。僕をよく見て。メグちゃんがここにいるのは、全部、全部、ぜーんぶ、僕のせいだ。憎き仇だ。わかる?これまでとは、もう違うんだよ。今まではさ、故郷の世界に帰りたければ首を持って来いって言われて、嫌々だったかもしれないけど、もう違うよね。僕の首を取りたい合理的理由と感情的理由が揃ってる。僕の首、本気で欲しくなったでしょ?」
「……っ……」
「だったら勝負して勝つしかないよね?負けたら罰ゲームだけど、まあ命までは取らないから、何度でもリトライできるよ?」
「……何を……言っているんだ……ショー君……?」
「ぶっちゃけ、真っ当な勝負でメグちゃんが勝てるとは思えないけどねー。何と言っても、僕は闇を統べる魔王だからね。ポッと出の光の勇者なんかに負けるつもりはこれっぽっちも無いけどね。でも、もうメグちゃんには他に手が無いんじゃないかなー?」
「……なんで……ショー君……」
「ここまで来るの、本当に大変だったんだよー?途中でメグちゃんの気が変わってたら、その時点で終了だったからね。特に大変だったのは、やっぱりあの時かなー。メグちゃんの記念すべき初勝利の時のアレだよね。何しろ誓約があったからね。負けたら何でも一つだけ言う事を聞く。もしもあの時、首よこせって言われたら終わってたよ。うん。僕も命懸けって言うか、マジで首を賭けてたって言うか、そこまでして、ようやくここまで来たんだ」
「……どうして……そこまで……」
「勝負事って言うのは真剣でなければ面白くないからねー。甘ちゃんのメグちゃんを本気にさせるために、僕も本気でここまで御膳立てしたんだよ?さあ、メグちゃんの本気を見せて?それを僕は返り討ちにするから、楽しい楽しい罰ゲームを楽しもうね?」
「何を……本当に何を言っているんだ……ショー君……っ……」
「この世界の外より来たりし勇者、姉ヶ崎メグミ。この世界の内なる最強の魔王ショウ=タッカー。わかる?この世界にとって、僕達は言わば正反対の存在だ。この世界の尺度の極限にいる僕にとって、他の有象無象は割とどうでもいい。まあ嫌いじゃあないけど、特に気に留めるほどでもないねぇ。でも、この世界の尺度では計り知れない可能性を秘めた規格外であるメグちゃんは別だよ。うん。特別だね。わかる?わからない?ああ、わからなくてもいいよ。だからさ、メグちゃん。勝負しよう?ね?」
「やめてくれっ……なんなんだっ……ショー君が何を言ってるのか……わからない……っ……」
「そう?本当にわからないの?まあそれでもいいよ。そんなメグちゃんも可愛いし、それもメグちゃんの魅力の一つだからね。比喩抜きで、首を賭られるくらいメグちゃんが魅力的だからこそ、ここまでしたんだからね」
「……っ……」
「本気の本気を見せて?今なら本気の本気で僕を斬る気になるでしょ?メグちゃんは、子供は斬りにくいみたいだけど、まあ僕は例外中の例外だよ。何しろ僕は魔王だからね。ちゃんと実年齢は子供だけれども。でもまあ、子供がどうとか、あんまり気にしなくていいよ。さあ、剣を向けて?」
「……っ……嫌だ……ショー君を斬るなんて、絶対、嫌だ……っ……」
「……なんで?」
「本当は、ずっとずっと嫌だったんだ……嫌だったけど、家に帰るためには必要だから、覚悟を決めて、決めようとして、決めきれなくて……ここまで来てしまっただけなんだ……」
「うん。知ってる。でも今ならイケるでしょ?」
「……無理だよ……」
「ええっと……。本当になんで?僕を斬ろうとする理由こそあれ、斬ろうとしない理由ある?」
「……ははっ……はははっ……まさか本気で言ってるのか……わからないのか、本当に……?」
「うん。わからないかな?」
「……おにぎりを一緒に食べてしまっただろう……?」
「うん。食べたね」
「……名を呼び合う仲にまでなってしまっただろう……?」
「うん。呼び合ってるね」
「……そんな相手を斬るなんて……普通は無理だよ、ショー君……」
「そりゃあ普通はそうかもね?でも僕、普通じゃないよ?メグちゃんも普通じゃないし?」
「……無理だよ……すまない、ショー君……」
勇者、落涙。
魔王、困惑。
「うーん、本当にどうしよう。なーんか、違うなぁ。本気でショボくれちゃってるメグちゃんも、まあこれはこれでビターテイストって感じで味わい深いけど、今僕が見たいメグちゃんとは違うね。うん」
「……ショー君……っ……」
「今のメグちゃんを無理矢理勝負の舞台に上げるのは、僕の趣味じゃないかな。僕はね、弱い者イジメは嫌いじゃあないんだよ。でもね、弱ってる者を虐めるのは大嫌いなんだよ。この感じ、わかるかなー?」
「……わからない……何を言っているんだ、ショー君……」
「うーん、しょうがない。予定より大分早いけど、もうここで切り札を出しちゃおうかなー。山場を通り越して急転直下で最終局面に突入する打ち切りマンガみたいになっちゃうけど、まあしょうがないね。なんか出し惜しみしてると、メグちゃん本格的にダメになりそうだし」
じゃじゃーん。血に濡れた古文書。
「これなーんだ?」
「……古い本……?」
「はい。王国にとって最重要の稀覯本でーす。魔王との内通を疑われてヤバイ目に遭いそうになったメグちゃんが大暴れして大混乱中の王国から、どさくさ紛れに無断拝借してきちゃいましたー。王国の真髄とも言える術式がバッチリ載ってる貴重な本ですねー」
「……まさか……まさか、まさか、まさか、それは……っ……」
「端的に言うと、異世界から勇者を召喚する方法が書いてある本だね」
「……っ……」
「ついでに言うと、異世界人が故郷の世界に還るための情報も載ってたよー」
「よこせっ!」
勇者、手を伸ばす。
魔王、手を避ける。
「よこせっ!よこせぇっ!」
「おお、さすがにリアクションいいね。ほらほらー、こっちだよ、こっちー」
「ふ、ふざ、ふざけるなああああああああっ!」
「うんうん。活きが良くなったね」
魔王から勇者へ。手渡し。
「はい。プレゼント」
「……えっ?」
「メグちゃん、それ欲しいんでしょ?あげる」
「い、いいのか!?」
「うん、いいよ。僕もう読んだし。覚えたし。内容も理解したし。もういらないかなー」
勇者、古文書を開く。
「これで、ついに、あぁっ、ついに帰れる……帰れる……帰れ……ぐぅ~……」
「寝たーっ!?」
勇者、すやすや。
「この場面で寝ますか普通!?いくら何でも規格外すぎですよ姉ヶ崎さん!ああもうさすがです姉ヶ崎さん!」
「……ぐぅ~……」
「でもまあ、それはそれとして。ほら起きて、メグちゃん。起きないとイタズラしちゃうかもしれないよー?」
「……はっ!?わ、私は一体……。私を眠らせて何をするつもりだったんだ、ショー君!」
「いや冤罪それ」
「……そ、そうだった。思い出した。眠ってしまったのは、我が家の血の呪いをうっかり忘れて本を開いてしまったからか」
「えっ?血の呪い?そんな厄介なのにかかってるんですか?」
「そうなんだ。我が家は先祖代々、本を開くと5秒で眠ってしまうという恐ろしい血の呪いにかかっているんだ」
「あ、はい。大変ですね」
魔王、スルー。
「まあでもアレだね。ぶっちゃけた話、メグちゃんが普通に本を読めてたとしても、あんまり結果は変わってなかったと思うけどねー」
「うん?それはどういう意味だ?」
「ほとんどの人には難しすぎて、内容を理解できないんだよ、それ。ちなみに、お城にいた人は誰一人、内容を理解してなかったみたいだよ。メグちゃんを召喚した白髪ジジイも内容を理解してなくて、召喚の実行方法だけ継承してたみたいだね。技術的に肝心な事、なーんにも知らなかった」
「……えっ?」
「まあ要するに、悪い大人に騙されてたって事だね。メグちゃんを故郷の世界に帰す方法なんて知らなかったんだから」
「帰す方法を知らなかった!?ば、馬鹿な!あり得ん!」
「どうしてそう言い切れるの?メグちゃん、あの人達の事、全然信用してなかったでしょ?」
「だ、だって、あいつら確かに言ったんだ!帰してくれるって言ったんだ!あの時、光魔法で確かめたし、嘘も言ってなかった!」
「ねえ、メグちゃん。その時、正確には『帰れるように便宜を図ります』とか言われたんじゃない?」
「……えっ?」
「帰せないのに帰せるって言ったら、嘘になるけど。帰せないなりに帰れるよう便宜を図るだけなら、まあ嘘にはならないね、一応」
「何だそれ!?」
「己の無知無能っぷりを逆手に取る手法だね。無知無能も突き抜ければ一芸って事かな。まあ、無知無能かつ無責任で厚顔無恥じゃないと使えない手法だけど」
「そ、そんな……そんなぁ……っ……」
「それにしても、本当に酷かったねぇ、アレは。なんか宮廷魔術師長とか自称してたけどさ、あんなの魔術師じゃないよ。ただの召喚陣の生体スイッチでしょ、アレ」
「そ、それじゃあ……私は帰れない……のか……?」
「メグちゃん、そんなに帰りたいの?」
「当たり前だ……っ……」
「ふぅん、そう。……それじゃあ、やっぱり僕と勝負した方がいいんじゃないかなー?」
「……えっ?」
「さっき僕が言った事、聞いてなかったの?ねえ、メグちゃん?僕はその本を、何て言ったかなー?」
「……ショー君は、この本に書いてある事を理解できるのか?」
「もちろん。僕はその本の内容を覚えているし、理解しているよ。ああ、もちろん嘘じゃあないよ。僕は正直者の魔王だからね」
「……っ……」
「ねえ、メグちゃん。僕とメグちゃんとの誓約、まさか、もう忘れちゃった?たった1ヶ月、顔を合せなかっただけで?」
「……負けたら何でも一つだけ言う事を聞く……」
「無理な望みを叶えるのは無理だけど、無理じゃないなら望みは叶えなくっちゃいけないねぇ」
「……っ……」
「その本を読んだ今、僕には知識がある。もしもメグちゃんが勝負に勝って『故郷の世界に帰る方法を教えろ』と言ったら、僕は僕の知ってる事を教えざるを得ないね。だって誓約があるからね」
「……勝ったら……帰れる……っ……」
「まあ当然だけど、僕はそう簡単に負けるつもり無いよ?だってメグちゃんがいなくなったら僕すっごくすっごく寂しいからね。ずっとずっとメグちゃんと一緒にいたいから、メグちゃんを故郷の世界に還さないためにも全力を尽くすよ?」
「なっ、何をっ!?は、恥ずかし気も無く何を言っているんだっ!?」
「真剣勝負に挑む時のメグちゃんのキリッとした表情、いいよねぇ。綺麗で、美しくて、何度だって見たくなっちゃう。僕、メグちゃんが本気になっている姿をもっともっと見たいんだよ」
「なっ、なっ、なぁっ!?本当に何を言ってるんだショー君!?」
「ああ、もちろん、それだけじゃあないよ?勝負に負けて本気で悔しがってるメグちゃんもいいよねぇ。そんなメグちゃんを罰ゲームで可愛く飾り立てる時間は至福だね。実はあのコスチュームね、僕のお手製なの。僕こう見えて結構器用だからね。僕が丹精込めて製作したコスチュームがメグちゃんの全身を包んでいる感じ、いいよねぇ」
「なんでそんな変態みたいな言い方するんだ!?」
「でもでもやっぱり何より忘れちゃいけないのが、本気で嫌がってるメグちゃんに『くっ、殺せ』って言わせる事だね。コース料理の締めにデザートは外せないって感じかな?まあとにかく外せないね。うん。メグちゃんのくっころ、本っ当に最っ高なんだよねぇ。あれ聞くと僕ぞくぞくしちゃうの。うん。最高」
「へ、変態だーッ!?」
「今の僕にとっては、くっころノルマを達成するのが生き甲斐と言ってもいいくらいだよ。うん。これ本当の話ね。凄いねメグちゃん。魔王の生き甲斐になっちゃってるなんて凄いね。さすがは光の勇者だね。よっ、さっすがー、光の勇者ー。すごーい」
「最低最悪の賛辞だっ!?断固拒否したいっ!」
「あらー、そんな謙虚で照れ屋さんなメグちゃんも可愛いねぇ」
「謙虚な訳でも照れてる訳でも無いぞ!?」
「まあそれはそれとして。それじゃあ久々に、本日の勝負といこうか。内容はどうしようかな。今のメグちゃん、ちょっと元気を取り戻したけど、まだヨワヨワな感じだし、対等な勝負だと勝算が無さすぎて、つまんないかなー。どれくらいメグちゃんに有利なヌルいルールを設定すれば、面白い感じになるかなー?」
「……っ……」
勇者、剣を構える。
「あまり私を舐めるなよ、ショー君!勝負をする以上、条件は対等で無ければ意味が無い!」
「おー、なんかカッコいいねー。台詞だけは凄くカッコいいよ、メグちゃん。さっきまでの様子と合わせて考えると最高にカッコ悪いけど」
「くっ……。ええい、何とでも言え!どのような境遇であろうとも、人には決して捨ててはならない誇りというものがある!いかにショー君がそれを良しと言おうとも、お情けで勝ちを譲られて堪るか!」
「あらー、ここでそれ言っちゃう?ついさっきまで、よこせーよこせーって可愛い声で鳴いてたのに?あの後で今の台詞を言っちゃうの、さすがに本気で恥ずかしすぎないかな?ねえメグちゃん?」
「うぐぅっ……。ええい、何とでも言えと言ったら言え!私は何と言われようと考えを変えん!対等の条件で勝負して勝つ!必ずや相応しい勝利の果てに、私の世界へと凱旋してやるっ!覚悟しろよ、ショー君!」
「うんうん。イイねイイね、イイ感じだね。それでこそメグちゃん。じゃあさ、じゃあさ、初心に返ってガチンコいっちゃう?剣も魔法もアリアリ。禁止事項無し。まさに真剣勝負の殺し合いってヤツ、いっちゃう?」
「……いや、あの、それだとショー君が死んだら帰れなくなるから、もう少し穏便なルールで頼む」
「あははははははははっ!」
「わ、笑うな!私にとっては死活問題なんだぞ!ショー君に死なれたら本気で困るんだ!」
「いやー、凄い凄い。本当に本気で僕に勝つ気でいる人、他にいないよ。うん。本当にね。メグちゃん以外、いないんだよ。何度も何度も戦って、何度も何度も負けさせて、実力差をこれでもかって言うくらい思い知らせてあげたはずなのに、それでもやっぱり本当に本気で勝つのを諦めていないだなんて……。ああ、やっぱりいいなぁ、メグちゃんは」
魔王、満面の笑み。
「それじゃあ、今日の勝負だけど、こんなのはどうかな――……?」
そして今日もまた、光と闇の宿命の戦いが始まる。
そして今日の決着。
「はい。と言う訳で、今日も今日とて負けてしまったメグちゃんには、いつも通り罰ゲームを受けてもらおうと思いまーす」
「あっさり負けた、だと……!?」
光と闇の宿命の戦いは続く。
古文書、ぺらり、ぺらり。
「……『肉の檻が朽ち果てる刻、異界の魂は在るべき輪廻の環に還るであろう』ですか……教えてあげたら、どんな顔をしてくれるのでしょうか……ああ、今から負けるのが楽しみになってしまいますねぇ……」
古文書、ぱたんっ。
年下の男の子から正直な想いをぶつけられて、年上のお姉さんがアタフタしつつも絆されていく。
これは、そういう恋物語。
ちなみに、本作の略称はショーメグです。更に略すとSMです。