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9.

 そんな一幕もありつつ、多忙な時間はあっという間に過ぎていき、王城に仕える皆が一丸となって頑張って用意した夜会が開催される当日の朝。



 クリスティーナはあまりの力の入れように、チェックの最中あんぐりと口を開けた。



 たしかに好きな花を聞かれて、「薬草じゃなくて?」と渋々考えたが、思い付かず「ポインセチアとか、白のプリムラ?はどうかしら」と呟いた気がする。


 そこまで気に入りの花が無かったが、前世の年末といえばクリスマス。クリスマスといえばポインセチアだよねっ♪くらいの能天気なノリと、よく冬に街中で見かける花の名を口にしただけだったのだが。


 しかし、国中から掻き集めたのかと思うほどの量が翌日のためにと会場近くの庭に集められ、庭師がその間を世話を焼きながら右往左往している。




 クリスティーナは「問題なし」と頷いて、そっと背を向け会場に向かった。

 しかし、そこでも口はパカーンと開くこととなった。



「何か目立つ飾りを」と言われ、会場にあっても邪魔にならないものをと考えて、「飴細工で立体的にお菓子を飾るのはどうかしら?」と答えたら、力強い樹木の形をした飴細工がスイーツコーナーに飾られている。

 かと思えば、動き出しそうに羽ばたく小さな白鳥や、美しい花も。そこだけでも力の入れようが分かろうと言うものだった。



 しかしクリスティーナが危惧するほど費用がかかっていなかった。お砂糖の素であるてん菜を原料とする砂糖は、国の南に位置する領地から結婚祝いの献上品としていつもの倍の量が収められており、あまり注目されていなかった花をつけないポインセチアは元から値段が安く仕入れることができた。


 元々の伝統に倣った夜会なので、衣装もアシェリードの亡き母も着たと言う上半身が総レースのハイネックタイプ、腰についた大きな絹のリボンがボリュームを引き立たせる様な仕上がりで、リボンのテールがスカートのトレーンに沿って優美に流れていく美しく伝統的な逸品を手直しして着ることにした。



 朝から磨かれて揉まれ、髪を複雑に結われ、会場の最終チェックをミラから聞いてからコルセットで締め上げてドレスに袖を通す。


 王妃が身につけるティアラを最後に飾ると、鏡の中には高貴な1人の女性が映っていた。「ぅわぁ、王妃っぽーい」と心の中で呟きながらマジマジと見つめるクリスティーナの控室に控えめなノック音が響く。アシェリードの侍従が彼の到着を告げた。



「はーい、今行きま」

「美しいな……クリスティーナ。皆に見せるのが本当に惜しい」



 到着と同時に遠慮なく入ってきたアシェリードに、クリスティーナの言葉が途中で詰まる。あっという間にクリスティーナの腰を抱いた男は、キラキラしい顔をうっとりとさせながら止める間も無く口付ける。



「ん、ぅ…… 陛下、もう時間です」

「すまない、早くゆっくりしたいものだ」

「私は陛下にゆっくりの定義について話し合いたいものですわ」



 壁際に下がっていたミラを呼び寄せ化粧直しをしてもらうと、クリスティーナはまだクツクツと笑うアシェリードの腕に手を絡ませて、王妃の披露目でもある夜会へと足を進めたのだった。





 夜会はとても盛大で。


 会場内はひしめき合う貴族達の熱気で、外は雪が降っているにもかかわらず壇上にいると逆上せそうなくらいだった。


 挨拶の後、壇上に備えられた席へと座り高位貴族から順に挨拶を受ける。面白いのは皆一様に2度見する事だろうか。

 遠くで見るよりも断然美しい容貌に惚けて挨拶の言葉が抜ける者までいた程だった。


 そりゃ国一番の美貌が物語上の設定だから仕方ないのよねぇと、頬に手を当てて困った様に微笑んでみせた。



 そうこうしているうちに侯爵家の番になり、ユイマール家当主夫妻である両親と兄、そして兄が礼をする。いつもならもう少し後なのだが、今回はクリスティーナの事もあって先へと譲られたのだろう。



「変な噂が流れてましたから心配でしたが、大丈夫そうで安心しましたよ」



 そう言ったのは、クリスティーナの父。敬語を使われる事に少しの寂しさを感じたが、要するに「何かやらかしたと思ったんだけど問題なさそうで安心した」と言いたいのだろうと察する。



「ユイマール侯爵家の皆様、ご安心くださいませ。腰を据えて取り組もうと鋭意努力中ですの。少しのやっかみを頂いてしまいましたが、可愛いものですわ」



 声を抑えてそう答えれば、「程々に」とだけ返事が返り、丁寧な礼をしてから早々に次の家へと場所を明け渡した。



 次に挨拶に現れたのはローズアイル侯爵家。

 本日のお客様中でクリスティーナがチェックしておきたい相手でもある。何故なら



「ローズアイル侯爵、見事な祝いの品感謝する。詳しく話を聞きたいものだ」

「お喜びいただき恐悦至極でございます。あれの開発には息子ロマーノが」

「そうか、ロマーノ後で詳しく話を。……次期侯爵夫人も息災そうで何よりだ」


「お久しぶりでございますわ。ご結婚、心よりお喜び申し上げます」



 ローズアイル侯爵家嫡男ロマーノと結婚した女性、エリザベスは元サンザイト公爵令嬢であり、話し合いの末に解消された元祖アシェリードの婚約者エリザベートであるからだ。



「私も後ほど、次期侯爵夫人とお話ししたいですわ」



 クリスティーナは王妃の立場から、サンザイト公爵家とローズアイル侯爵家の気持ちを探っていきたいところである。表情には出さずにやや緊張しながら答えを待つと、彼女はにっこりと微笑みクリスティーナを真っ直ぐに見て了承の返事を返す。


 一瞬キラリと瞳が光った気がしたのは気のせいかしら?と内心で首を傾げはしたが。

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