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14.

<前回をスキップした方向け>

スノウの持っている魔石と共鳴する魔石の反応から、既に城外、それも裏の森に連れて行かれた可能性があると判断したクリスティーナは捜索するために準備を始める。


一方時は夜会が始まって暫くまで遡る。


アトリが居ないお部屋で大人しくお留守番をしていたスノウに見知らぬ二人組がやって来てスノウはあえなく袋に入れられ拉致。


あっという間に森の奥深くまで連れ去られ、解放されたけれど、銃をぶっ放し始めるイカれヤローから逃げ出すべく真っ暗な森を逃走中!

 

 夜の森を闇雲に走り続けるスノウ。


 もう背後から銃声は聞こえなくなっても、パニックに陥った子供に判断はできない。何度か転けたが、抱き締めているぬいぐるみがクッションがわりになってちょっと擦りむく以外の大きな怪我をしなかったのが幸いか。


 何処をどう走ったか、体力が尽きかけスノウは大きな木の根元にある窪みに隠れる様に蹲った。



 上がる息を落ち着け、冷たい空気を肺いっぱいに吸い込む。


 シンと静まり返る中にホーホーと鳴き声が何処からか響く。もうあの恐ろしい音は聞こえない。土で汚れたぬいぐるみの汚れを払ってぎゅっと抱きしめると、ジンワリと熱が伝わった。



(ハァ……ハァ……ティナさ…ま。怖い……なんで……怖い…よぉ…!)



 土で汚れていてもスノウはぬいぐるみに顔を埋めて、声を上げずに震えて泣く。

 声を上げたら見つかるかもしれないから。また怖い目を向けられるから。

 いつもそう、スノウはどんな時だって1人で、声を殺すことを強いられ、その環境に順応するしかなかった。


 人は側に居た。けれどスノウは、今森にたった1人でいる様にずっと孤独だった。


 初めて嫌な顔をしなかったのはクリスティーナ。手を取ったのもクリスティーナ。

 抱き締められる事を知ったスノウは、記憶の中の温もりに縋るように、強く腕の中のぬいぐるみ抱きしめ、疲れからかそのまま眠りについてしまった。



 いつの間に眠ってしまったのか、スノウはガサリという音に反応して辺りを見回した。


 だけど目が暗闇に慣れてきても、真っ暗な森では居るのかどうかも分からない。


 肌が縮む様な寒さの中、ぼんやりとした月明かりで輪郭だけが薄らと浮かび上がる木々。

 何かの息遣いが迫る様な暗闇に、スノウが身を震わせた時、声が聞こえた気がした。


 スノウはそっと立ち上がり、身を低くしながら木の根元から周囲を窺った。やはり微かに聞こえてくる音に耳を澄ませ、一歩一歩警戒しながら近づいていく。


 すると緩やかな傾斜の先に、小さな灯りがゆらゆらと動き連れ立って木々の間を動いている。


 よく見るとそれは灯りを持った人で、そのまま何処かへ向かっている様だった。


 真っ暗な森の中で見えた光に、スノウは無意識に引き寄せられてふらりと近づいていく。

 見失わない様に足取りは段々と早まり、音も気にせず追っていく。


 光がだんだん大きくなり、ランタンの形がはっきりと見えた時、持っている人たちもはっきり見えた。




「……っ、野生の動物じゃないみたいだな。誰だ?」



 ランタンを持った人物はよく照らして見える様に高く掲げてスノウを見遣る。

 手にはナイフや斧を持った人達は、光に照らされはっきりと浮かび上がるスノウを目に入れて構えていた武器を下げた。



「…………ぁ、スノ、ウ」

「ちっこいな。こんな夜に何してんだ?」

「ぅお、なんかボロボロだなお前。大丈夫か?」

「ぅわー、迷子じゃないのか〜?」




 ランタンを持った人達は声をかけながらスノウに近づいていく。勢いに押されて一歩後ずさったが、目に嫌悪の色がない事を見て取り逃げ出したい気持ちをぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて耐えた。



「迷子は保護しないとな。ちょうどこれから戻るとこだったんだよ」

「お前上着は?寒いし風邪引く前に行くぞ」



 初対面で怖くなかったのは、嫌悪の色がなかったこともあるが



「家に小ちゃくなった上着あったから貸してやるよ」



 気安く声をかける人達が、スノウと身長がそこまで大きく離れない、子供であったからでもある。



「あり……がと」













「ほらよ、スープ飲んであったまれ」



 コクンと頷くスノウは、あれからしばらく歩いたところにあるログハウスに連れてこられた。暖炉の薪に火を入れられ、ラグの上のクッションに座らされた。


 濡れたタオルを手渡され、汚れを自分で拭き取りおわると、木のカップに入った温められたスープを渡された。


 彼らは皆スノウを気遣い、親切に接してくれる。クリスティーナに次いで嫌な顔をしない人たちに会ったという事もあるが、子供に会ったことがなかったスノウは、目を丸くしたままキョロキョロと視線を動かす。



「お前何歳だ?一番下のコイツより下だよな?」

「わー、何歳?僕より下?妹ってやつだね?」

「違うわボケ」


「あ……5歳」

「あれー?一緒だー。……双子?」

「お前もう黙れ。とりあえず着替えだな。1人で着替えられるか?」


「大丈、夫です」


「そか。ナット、小ちゃくなってた服あったろ。貸してやんな」

「あーい」




 着替え終わると、スノウは長いテーブルに呼ばれて空いてる席へと勧められて遠慮がちに座る。


 借りた服は簡素だが厚手の生地の上下と毛糸でざっくり編まれたセーター。スノウには少々長かったが、裾や袖を折って対処したので問題ない。初めて履く木靴は慣れるには時間がかかりそうだった。



「さて。まずは自己紹介だな。俺はサロ。この家の臨時リーダーをやってる。そして俺の右のこいつがシュロ。でその横がゴード、スノウの横のがナットでその横がロブ。俺ら兄弟なんだ。

 上にはイーサン兄と二ドル兄が居て、帰ってくるのはもうちょっと先になる。

 近くに住んでる大人に、朝になったら相談しに行くから今日は兄さんのベッドで寝てくれ」


「あ、ありがとう。よろしくお願いします」



 ペコリと頭を深く下げると、スノウの隣のナットが頭を撫でた。



「お礼ちゃんと言えたら“いい子いい子”なんだよー」

「おいナット、女の子は優しくだって兄さんが言ってたぞ」

「え、そなの?ロブ。んじゃそぉーっとそぉーっと?……こう?」

「え?こうだよゆーっくりゆーっくり」



 急に触れられてびっくりしたが、スノウは頭を撫でられる感覚に不快感はなかった。むしろ戸惑いはしたが何処かくすぐったくて、どうしたら良いか分からなくて撫でられながらアワアワとしてしまう。



「おい、ちび2人、スノウで遊ぶな。困ってんだろ」


「えー?イヤイヤだった?」



 ナットに尋ねられ、ロブに首を傾げて覗き込まれるとスノウは慌てて首を振って否定した。



「まぁ困ってないなら良いけど。顔は真っ赤だな。そうだゴード、毛布出してやれ」

「あいよ〜ぉ」


「シュロ、明日スティラさんとこ行くから準備するぞ」

「だな。ついでに持っていくもの纏めとくか」

「だな。あー、色々増えそ〜」

「うげーぇ。仕方ないけど〜」



 サロ達年長組はぶつぶつ言いながら奥へと引っ込み、ナット達年少組はスノウを連れて暖炉の近くへと移動した。



「スノウ、可愛いブレスレットだね。最近街で流行り出したやつに似てるねー」

「貰った、の」


「そうかー。あれ?これの中に入ってるのって…魔石?」

「うん。お守りだって…言ってた」


「お守り?へーぇ、迷子防止もできたら良かったのにな〜」



 スノウは銀色に光る華奢なプラチナのチェーンの先で、コロコロと鳴る“お守り“を撫でながら曖昧に微笑んだ。



 迷子じゃなく誘拐だった……とは思う。スノウは嫌われているから、外に連れて行っていなくなって欲しかったのかもしれない。


 クリスティーナは知っているのだろうか?

 スノウを探してくれているだろうか?

 戻っても良いのだろうか?


 ……クリスティーナの元に戻れるのだろうか?


「居ないなら別に要らない」と思われたりしているのでは無いかと、スノウは不安に襲われる。無意識に両手はチャームから離れて膝の上に置いたぬいぐるみへと向かう。



「あ、それ気になってたんだ。汚れちゃったね?洗わなきゃだね。今日はもう遅いし明日洗おう」



 ロブにそう言われて、スノウは改めてぬいぐるみを見た。手で払ったとは言え、あちこち土汚れが付いていて白ウサギがすっかりマダラ模様だ。


 これでは流石に一緒に寝れないかと、暗くなっていた気持ちが一層沈み、涙が滲み始める。



「スノウ悲しいー?え、どうしようロブ!」

「明日はダメ?でも今洗ったら凍っちゃう……」



 2人の言葉にスノウはプルプルと頭を振って、「明日にする」と短く返した。


 氷漬けになった方がもっと悲しいと思ったから。



 少ししてからサロが「そろそろ寝るぞ」と号令を出して、寝ることになった。


 いつもより硬くて違う香りの掛け布の中でゴードが出してくれた毛布に包まった。


 いつでも崩れ去りそうな不安な足元よりも一層不安な今、スノウにできたのはチャームを握りしめて祈ることだけだった。


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[一言] 君らが七人の小人ポジションか
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