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13.

子供に対して危害を加えるシーンがございます。

苦手な方はスキップしてください。纏めをチョチョイと次回前書きに加えます。


少々鬱展開ですので、お読みになる際はお気をつけくださると幸いです。


一方、王妃の執務室に向かったクリスティーナは、執務机に備えられている鍵付きの引き出しを開け放った。


そこには8角形に描かれた帯状の塗装の真ん中に特殊な陣と、真ん中が小さな空洞となっている手のひらサイズの石板がある。それを取り出して、小さな小箱から石を取り出し空洞へと埋めるとカチリと嵌まる。




「如何ですか王妃殿下」




ラケルはクリスティーナの手元を覗き込んでヒュッと息を呑む。



手元にある石板は、魔術研究所の努力の結晶とも言えるもので、クリスティーナが小型化を命じて作らせたものだった。


魔獣から採れる魔石は、心臓の数と同じく1つだけ。

手のひらより小さめの魔石が多く、それを使用用途に応じて砕いて使うことが多い。小指の爪ほどの魔石の欠片で、室内灯の灯を2、3ヶ月保たせるほどの力を持つ。


そして研究の途中で、砕いた魔石はお互いを元は一つと示すように共鳴する性質を持っている事がわかった。それを応用して詳しい位置までは分からなくとも、かけらを持つもの同士の方向が分かるような仕組みを作った。


……のを、とんでもマジックな鏡を探すべく研究室の粗探しをしたクリスティーナが見つけたものであった。


真ん中の円陣は魔石が嵌め込まれることによって動き出し、共鳴する石の場所を解析する。その結果を外側を囲う8角形の帯状の部分に受け渡し、方向に合わせてじわりと赤く色を変えるものだ。



ラケルはクリスティーナがスノウのためにアレコレと発注する物の管理と進捗確認も行なっていたので、魔導具の仕組みは理解していた。


その魔導具が示す方向が、一番外側で色が薄い。近ければ強く共鳴するため色が濃くなり、円陣に近い内側寄りの部分が赤く染まる。動作確認の時と反する動きを見せる石板が意味するところは──




「既に城外の可能性が高いわね」



同じ判断をしたクリスティーナに、キツく目を閉じたラケルは次の言葉をじっと待つ。



「先に着替えましょう。準備しなければ」

「畏まりました。数人呼びます」

「?貴女1人で良いわよ」

「私も準備いたします。お供させて下さいませ」

「……乗馬服は持ってるの?」

「勿論です」

「防寒はしっかり。遅れたら置いていくわ」

「ありがとうございます」



仕方なさそうに微笑んだクリスティーナに一礼してラケルは素早く下がり、侍女を数人呼び寄せて任せ、自身の着替えと準備に取り掛かった。


乗馬服に身を包むと、ミラとクロルが戻ってきた。


他の侍女を下がらせると、クリスティーナは状況を聞いた。



「スノウ様とアトリの行方は未だ分かっておりません。縛られた騎士は眠った状態でした。叩き起こしましたところ、急に眠気が襲い、その場で崩れ落ちたそうです。

最後に見たのは同じように倒れる同僚と、黒い外套を纏った2人組だそうです」


「2人組……?」


「外套の下から見えた靴から、男女ではないかと言っておりました」



クリスティーナは考えこむ。


スノウが目的なのは明らか。だけど男女2人と言うなら、連れ去られたのはスノウだけの可能性が出てくる。


幾ら幼女といえど、5歳の子供の体重はそれなりにある。大人のアトリを男性が、スノウを女性が抱えたとしても移動に難儀するだろうし、黒髪の美幼女を連れていれば色素の薄い者ばかりの王宮では目を引く。袋に入れてしまうか、頭を覆い隠す何かがなければ。


男の方なら抱えて外套の下にすっぽりと隠してしまえるだろう。けれどそうなるとアトリを運べなくなる。


部屋にアトリが居なければ……?


考えたくないが、アトリが引き離されていた場合……その生死は……。



「……アトリの捜索を。おそらく城内の何処かにいるはずです。そちらはミラに任せるわ」

「王妃殿下は」

「私はスノウを迎えに行くわ。外に連れ出されているみたいなの」


「しかし、危のうございます」


「子供を迎えに行くのは、保護者の役目でしょう?近衛も連れていくから大丈夫。ここはミラしか任せられないから頼んだわよ」


「〜っ、畏まり、ました。ですが無茶はしない、必ずお戻り下さいますよう」


「さ、色々煩いのに止められる前に、さっさと行きましょっ。何か言われたらいい感じに誤魔化しといてね〜」


「ふふ、畏まりました」



話しながらまた王妃の執務室まで戻ると、クロルに命じて近衛騎士を3人呼び寄せた。

お忍びで外に出るための、最低護衛人数である。アシェリードに言われた通り「詳しい者」も混ぜた。




「もう夜明けも近い時間にも関わらず、ごめんなさいね。報酬は別途用意するからよろしく頼むわ」

「王妃殿下、この事は陛下は」

「勿論ご存知(だと思うわ)よ」

「あの、私は近衛に入ってまだ日が浅いのですが……宜しいのでしょうか?」

「ええ、貴方森に詳しいのでしょう?」

「え?えぇ、はい。子供の頃から慣れ親しんでおりました」




クリスティーナは近衛騎士の言葉に微笑んで頷くと、魔導具を取り出して見えるように示した。



「これはあの子に持たせている魔石と同じ欠片。共鳴するこの石が指し示す方向が──」




近衛騎士達はそれを食い入るように見つめ、それの指し示す方角を見た。



「まさか王城の裏手の森……?」

「あの森ですか?!」

「ええ、恐らく。共鳴探査具が有るのですぐ見つかると思うのですが……」

「奥深くは魔獣も出るはずですが……」

「魔獣と獣避けもつけさせているの。そこは問題ないはず。森に入るので準備はしっかりとしてちょうだい。出来次第出発します」


「「「はっ」」」



一体スノウにどこまでの魔導具を持たせているのか?と近衛騎士達は首を傾げたが、指示に従って準備に走る。



入れ違いにラケルが準備を整えて部屋に入ってきた。騎士が遠征の時に使う肩掛けのカバンを背負っている。どう見ても限界まで詰め込んだらしい鞄に少々面食らったが、あえて突っ込むことをせずに早い準備を労って、騎士の準備が整うまで仮眠させた。



「王妃殿下も眠らずとも目を瞑って少しでも休憩をお取りください」



ミラの一言でクリスティーナもソファーへ身を沈ませて、少しの間休憩を取ることとなった。



準備が整ったのはそれから1時間後の事。

気は急くが森に入る準備と馬の手配、警備への伝達を考えると物凄く早いと言えるだろう。


厚手の外套を身に纏い、クリスティーナは近衛騎士の先導の元、スノウ探索に出発した。






時は少し遡る。



アトリが出て行った後、スノウは言われた通りに大人しくアトリの戻りを待っていた。

ぎゅっと抱きしめるとジンワリと暖かくなるウサギを抱きしめて、窓の外を見た。



今日は夜会。



大人は皆忙しく動き回っている。その中にクリスティーナも一緒にいるのだろう。


今日が終われば、明日には顔を見せてくれるかもしれない。初めて書いたお手紙を見せてみようかな?と、想像するだけで胸が温かく満たされていく。



「スノウ様、専属侍女の戻りが遅いようですので、代わりの侍女が来るか確認して参ります」



スノウは顔を上げてコクリと頷いた。

それから暫く絵本を読んでいると、扉の外からドサリという音が聞こえたかと思うと、黒い外套を纏った男女が現れた。



「へぇ、コレが……勿体ねぇ」

「何言ってるの、あのお方のためにさっさと始末してしまった方が良いのだから、勿体ないも何も無いわ」

「へぇへぇ。あっしや構わないですが……」



嫌な笑みを浮かべて近づいてくる2人に、スノウは絵本を置いてうさぎのぬいぐるみを抱きしめた。



長椅子から降りて後ろに回って距離を取ろうとするが、リーチの長い大人に敵うはずもなかった。



「コラ、ちょこまかするんじゃない。くそ、余計な物を…離せ」



スノウの抱き締めているぬいぐるみが邪魔に思ったのか、引き剥がそうとする手に抵抗して一層強く抱きかかえた。



「良いわよ、面倒だから一緒に持っていきましょう。早くしないと誰か来るわ」

「ッチ、しゃーねぇ」



女の一言で男は引き剥がすのを諦め、代わりに外套の中から大きい袋を取り出した。



「騒ぐんじゃねーぞ」



鋭く睨み据えると、男は袋をスノウにすっぽりと被せて乱暴に引き上げ肩に担ぐ。

小さな悲鳴を上げたが、スノウは恐怖でそれ以上言葉を出せず。


暗い袋の中、ぬいぐるみを抱き締めて震え続けた。




ガラガラという車輪の回る音。

途中から馬の蹄の音に変わってどれくらい経ったのだろう。



振動が止まり、地面の上に降ろされた事だけは分かった。

袋の口が広げられ、出されたそこは緑の匂い濃くが立ち込める、真っ暗な木々に囲まれた森だった。


女は途中で分かれたのか、男だけが立って、嗜虐的な色を滲ませた目でスノウを見下ろしていた。



「さて……コレも仕事だ。恨むなよ」



そう言って男は猟銃を取り出しゆっくりと構えてガチャリと音を鳴らし、その先端をスノウに向けた。



「……!」



震えるスノウは只管男を凝視する。純粋な恐怖が伝わるその瞳に男はチッと舌打ちすると、引き金を引き「ズドンッッ」と音を立てさせた。



「きゃーー!」



しかし、土埃を巻き上げただけでスノウはこれといった怪我をしていなかった。

一層染まった恐怖の目を恐る恐る挙げると、男はつまらなそうにスノウを眺めていた。



「そら、ぼやぼやしているとすぐに当たっちまうぞ?」



片頬を釣り上げて笑った男に、スノウはぬいぐるみを抱きしめて震える足で立ち上がった。



「ぃや……!」

「ほら撃つぞっ!!」



恐怖に襲われながら足を動かし始めたが、ぼんやりとした月明かりの中ではうまく進めない。



「ハハッ、ほらほらどうしたっ」



ズドンッという重々しい音が聞こえるが、振り向いて確かめる勇気はない。必死に足を動かしてスノウは暗闇の中夢中で逃げ出した。



時折銃声が響く中スノウは必死に走る。その姿を面白そうに眺める男は、銃を撃つが足元は一歩も動いていない。追いかける気がない様だ。



「ちっこいと、すーぐ見つかんなくなるなぁ。まぁ“子供は殺さず”だからコレくらいにするか」



一仕事終えたと、銃にロックをかけて背中に担ぐと、男は懐からタバコを取り出して火種をつけて紫煙を燻らせる。

スハーっと勢いよく吐き出した息は、白く宙を染めた。



「……魔獣に食い殺されるかもだがな」




ぼんやりと浮かぶ月を眺めて、男はタバコを吸い終わると馬に跨り走り去った。

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[良い点] 面白いなー。 とノンキに読み進めていたら事件ですよ、奥さん。 強制力的に無事だろうけどはらはらドキドキ展開! [一言] 幼き頃の隣家がなさぬ仲の親子で歳の近い幼なじみ姉妹とその継母にもて…
[一言] はっはっは、 魔獣より怖い王妃様にお前が殺される心配するんだな! その前にそんな危険な森に突っ込ませた罪でチョロリードが何するかわからんがな!! しかし原作履修済みとはいえ元の性格的にもクリ…
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