はくち
彼女と出会ってから半年だった。
「私には何もないから」
それが彼女の最後の言葉だった。
僕と彼女の関係は言ってしまえばただの同級生だった。
僕が一年間浪人しては言った大学はそこまで賢くもなく、そして馬鹿でもなかった。
彼女と出会ったのは僕が3年生のときだった。
彼女は彼氏がいるタイプでもなく、いてもおかしくはないというタイプだった。
彼女と仲良くなったのは同じゼミだったからで、そして決定的だったのはその合宿だった。
「手を握っててほしい」
慣れない合宿で体調を崩した彼女の言葉だった。
彼女は不思議な人だった。
真面目なのに就活は芳しくなく、
単位を取るのは上手い癖にコミュニケーションを取るのは苦手だった。
僕は彼女と何か近いものを感じていた。
それは僕も彼女も死ぬことに躊躇が無いからだったかもしれない。
「富士の樹海に行くなら抜け駆けしちゃダメだよ」
と彼女はよく言った。
彼女は僕ととよく似ていたんだろう。
そのくせに彼女は先に逝ってしまった。
飛び降り自殺だった。
僕は誰を憎めばいいのかわからない。
彼女だろうか。
彼女を苦しめていた何かだろうか。
はたまた僕や彼女を苦しめた環境だろうか。
僕にはわからない。
でも彼女の言った言葉。
「私には何もないから」
この言葉だけが僕を捉えて離さない。
だってそれは僕にも言えたから。
でもだからこそ、僕は君に言いたかった。
「僕には君しかいなかった」って。