第一章׳א:日の出
ああ、さぶっ。
寒さで目が覚めた。
辺りは暗く、入った時と違い本物の洞窟のように寒い。
考えてみれば俺は初夏の日本から飛ばされてきたから、半袖半ズボンなのである。
これで寒くないわけがない。
「何か……羽織るものはないのか?」
咄嗟に右手近くにあったレジ袋の中身を確認する。弁当空箱にクッキーシュー、そして財布にあたりめの食べかけしかない。
そりゃそうだ、俺はコンビニに行く以外何の目的も持たずに外に出たんだから。まさか洞窟に飛ばされたりすると思うか?
――あれ?
俺はここで疑問を抱いた。
さっきこんなに寒かったか? と。
風が吹いてくるかと思えば、急に止み、今度は水が流れてきて、すぐに蒸発する……。
そんな洞窟に入ったはず。そして寒さも普通で……その後寒い場所にこそ行ったが、精々5℃くらいだったはずだ。
俺は財布の中身を見た。
時計以外も色々ここに入れていたはずであるからだ。
俺は寒い空間に凍えながら、足を震わせる。
しかしそれは無視して、集中して探した。
探し探し探すと、それは思ったより早く見つかった。
見つかった時計の温度計には、こう出ていた。
-5℃
本当にそう表示されている。
涼しいというレベルじゃない。
寒い。
しかも心地良かったはずの水滴も、凄い体を凍えさせる原因となっているし、手も悴んでいる。
幸いにも足は動かせる。-5℃というものは、そこまでの寒さでは無かった。
さて、それでは次に俺は、一つの疑問について考えてみることにした。
なぜ温度が急激に変化したか。
考えられるのは単に今までの感覚がおかしかったのか、
それとも場所自体が変わったか、この二つである。
しかし思う。
二つともおかしくないか? と。
その瞬間、俺の頭の上に水滴が落ちた。
「うわ!」
情けない声と共に俺は自分の体が結構濡れていることに気付いた。
……何だ? 何かが変だ。
そう思った。
何か、水滴の質が変わっているような。
――その水滴は変形しながら、段々と指を伝って広がっていく。
いや気のせい、じゃない!
絶対、変わっている。
さっきはここまでヌメヌメしていなかった。確信をもってそう言えるのだ。
「じゃあ……ここは」
なぜその時、確信を持てたかの理由は、それ程の変化だったからであろう。
この時、俺はそうとしか考えられなかったのだ。
「違う場所……!」
辺りを見回すと、さっき意識を失った時には無かった自然光が差し込む道がある。恐らく外に繋がっているのであろう。
俺は取り敢えず外へ出ることにする。
ここは違う場所――つまり俺はまた異世界転移、もしくはワープをしてしまったのだ。
その証拠に洞窟の外と思われるここは昨日洞窟に入った市街地ではなく……明るい日の出に照らされた森だった。