序章׳ז:戦闘開始!
水滴が水に落ちる音が鳴り響く。
俺はそれに怯え始めたミシュリーヌを見ながら苦笑をしていた。
「ああ。――化け物の声かと思っちゃいましたよ」
彼女は興奮状態になっているらしく、ちょっとの音でも反応しているのである。
……怖がりなのだろうか? いや違う。
彼女も気付いているのだ。いつ襲いかかってくるか分からない化け物の群れに。
つまり彼女はその動く音をいち早く反応しようと感覚を敏感にしていると思われる。
「はくしょん!」
一方アニーは、くしゃみをしている。
恐らく一人だけ濡れすぎたのだろう、これに関してはただただ不幸だ。
どうしてそこまでびしょ濡れかは知らないが、まあ哀れにでも想っておこう。
ロランと俺はと言うと、そんな二人を見てほくそ笑む。少し不気味に思えるのは気のせいだ。
現在、俺が必死になって考えた恐らくこういうルートを通るであろうルートをたどっていっているルートを進んでいる。
どうやって作ったかというと普通に勝手に動いている二人の性格と残された足跡、そしてロランの目撃情報を参考にしたんだが、大丈夫だろうか。
いや、大丈夫だ。
大丈夫だとしたら現状はとても良いと言える。
「皆さん!!」
ここでミシュリーヌが叫ぶ。と同時に化け物は一斉に動き出した。
いや、ミシュリーヌが化け物に反応して叫んだ、という方が正しいのだが、ミシュリーヌの反応はそれ程早かったのだ。
「え?」
迫る怪物ら、急な展開に俺はただ唖然とする。
化け物はその隙を狙ったのだろうか。
全く、対応が出来なかった。
そして俺は……自分に失望した。
――死ぬ。
そう思った瞬間、化け物は俺に襲いかかった!
シュパッ
しかしその俺の目の前の化け物は、光の矢に打ち抜かれた。
発射元は、ロランである。
「僕には光の加護がついているからね、心配しないで。ルイ君」
凄え……
俺がそう思うと共にロランは転び、俺に襲いかかった化け物は血以外を残して消滅する。
彼は再び起き上がろうと行動を起こすが、また尻餅をつく。
俺はそんな彼を苦笑いしながら見つめる。
「ロランちゃん、喪失のにっちゃん!! 後ろにもいるよ?」
――なぜ気付かなかったのだろう?
その時にはその鳥型の怪物は、まあまあの距離を残してここまで迫っていた。
そう思いながら俺は緊急回避を試みる。
大丈夫だ、さっきより早く反応できた。
しかしロランは転んでいたため、回避が出来なさそうにない!
「くそ!」
俺は思わずロランの手を掴み、ロランを思いっきり背負い投げのような動きで飛ばしながら、見事回避をした。
火事場の馬鹿力、そして対応できなかった後悔からであろう。
どうにかロランを救い出すことに成功したのだ。
「有り難う。ルイ君」
成功した。
だが乱暴に飛ばしたからか、ロランの体中はあざのようになって、痛そうである。
一方鳥形の化け物は俺達に避けられたため、取り敢えず距離をとった。
「大丈夫か?」
俺がそう心配しながら駆け寄るが、ロランは苦笑いだけして、俺を突き飛ばす。
「駄目だよ、油断しては」
その言葉と共に、ロランは怪物に食われようとした。
嘘だろ? 折角助けたのに……。
そうだ、俺は一つの危機を回避して思い上がっていたのだ。
俺の不注意で、彼は死ぬのだろうか?
っていうか、目まぐるし過ぎるだろ……この展開!
「だから、死なないで下さい!」
ミシュリーヌが一喝し、怪物らを一撃で即死させる。
この時のミシュリーヌはもう完全に落ち着き、最初会った時のあのオーラを身に纏っていた。
彼女はそのまま次々と出てくる怪物に狙いを定めた。
「早く起き上がって下さい! ロラン。このまま貴方が守りを疎かにすると、いつか私も倒され、全滅します!」
ロランはゆっくりと起き上がっていく。
ミシュリーヌがリーダーであるというのも、分かる気がした。
「すまない」
ロランのその言葉を聞いて、ミシュリーヌとアニーも安心したようにロランに集まっていく。
俺も集まらないといけないみたいだったので、一緒に集まった。
そして落ち着く暇も無く、次々と化け物が現われる。
しかしそれらはアニー、ミシュリーヌ、ロランによって次々と倒されていった。
良かった。これでしばらく安心らしい。
そう俺がホッとしたのも束の間、俺たちの目の前に、巨体のドラゴンが現われた。