序章׳ו:I-8ダンジョン
着いたのは、俺が最初にいた洞窟とはまた別の洞窟だった。
「ここだよ。例の場所は……。I-8ダンジョンだ」
ロランはその場所に到達し、俺にそう告げた。
どんな洞窟だったか、それは言ってしまえばグチャグチャな洞窟だった。
風が吹いてくるかと思えば、急に止み、今度は水が流れてきて、すぐに蒸発する……。
まず、何が起きているかが理解不能である。
「えっと……どういう原理でこうなってるんですかね?」
俺が訊くとミシュリーヌが微笑み、こう答える。
「分かりません」
――そうですか。
いや、面倒くさくなってきた。
つまりは、とにかく原理はどうでもいいから洞窟に入れと、そういうことだな。
「じゃあ入ろうよ」
日が完全に落ちたと共に、ロランが言う。
俺は「この時間にか……」と思いながら中に入った。
俺は外の夜が苦手である。
ー ー ー ー ー ー ー ー
そんな洞窟の中は涼しく、たまに落ちてくる水滴が何とも心地良い場所である。
ポチャンポチャンと水滴は垂れては落ちる。
そしてその水滴は我々に降るか、地面に落ちるかすることによって終わりを迎える。
雨みたいなものである。
今俺は恥ずかしいポエマーでもいいから、詩を書きながらのんびりと水滴を浴びたくなっていた。
それ程風流で、綺麗な水滴なのだ。
ポチャン
「ひっ!」
ただし水に当たるたびに悲鳴を出すアニーにとっては恐らく嫌な空間なのだろう。
俺は周りを見渡す。
なるほど、化け物っぽい気配を沢山感じる。まさにダンジョンのようだ。
よく伝わってきた。
――コウモリらしき奇声
――虎のような咆吼。
様々な声が鳴り響く。
「きゃっ!」
先程までは平静としていたミシュリーヌもその声に驚き悲鳴をあげる。
ロランはそんなミシュリーヌを落ち着かせようと緑茶を差し出す。
いや何で緑茶? 確かに落ち着くかもしれんが。
「取り敢えず落ち着きましょう。ロラン、仲間の居場所は分かるのか?」
一方、流石話慣れてない引き籠りという訳か、俺は安定しない謎の敬語を使ってロランに話しかける。
「残念だけど別れた場所しか分からないなぁ。ルイ君はそれだけで皆の場所が特定できたりするかい?」
ロラン……お前は無計画に皆を誘ったんだな。
呆れてしまう。
「済まない。何も考えずに駆け込んじゃったから」
そう言ってロランは転ぶ。
お前、本当にドジなんだな。
またもや呆れながら、俺は周りを見渡した。
現在、周りにいる化け物は……十匹くらいか。
「と、取り敢えずその、ロランが皆と別れた場所に……い、きまっしょう?」
ミシュリーヌは化け物の鳴き声の恐怖で声が揺れていた。
今朝俺を助けてくれた時のあの透き通った声は何だったのだろう? と思える程である。
当たり前だが、ここはレベルが違うと言うことか。ってことはやはり俺は戦力外。
他の奴らはそれぞれ役目があるが、俺だけ何も出来ない。誰も救えない。
せめて足手纏いにならなければ良いのだが。
しかし、なぜか付いてきてしまった。
全く、何を考え着いてきたのだろう。また俺は後悔する。
また知らぬうちに思い上がってしまったのだろうか。だったらもうそれがないよう注意しないと。
いや。俺はただの莫迦なのだ。
「そろそろ着くよ?」
ロランが皆に呼びかける。
皆はここで心を一つにして、その場所に着いた。
「さて。皆はどこに行ったのか……?」
他に色々考えるべきことはある。
だが取り敢えず俺は、今はそれについてのみ考えることにした。