第四章׳בי:援軍
俺は、俺達はアンリの元へと歩を進めていた。
出来れば、アンリを倒したい。最終目標はそれであった。
だが、それは出来ないだろう。俺達の実力を考えれば、多分。
「ふふ、来たか」
目の前に見えてきたアンリが呟く。そして、俺達に話し掛け始めた。
「アニー、そして少年。素直にこちらに来てよかったのか? 悪いが、交換条件などには応じないぞ」
応じない、か。
俺達が負けたら、アンリはそれから何をするのか。それは分からない。
それを縛ることが出来る交換条件――。一応これが使えないのはまあまあの痛手だった。
だが、まあ予想通りである。
「いや、俺達は別に交換条件など必要としていない。ただ俺達は……」
お前を倒しに来た。
そこまで言うと、アンリは笑いだした。
「カッカッカ!! 笑止。そんなこと出来ると思っているのか?」
思う……そうは言えなかった。
本当に、そうではなかったのだ。
そう、はっきり言って死にに来たからだ。
死をなぜか慣れてしまっている、俺を殺すために。
「思う!!」
そんな俺に代わって、言ったのはアニーだった。
アニーはただ、真剣な眼でアンリを見つめる。
俺は、少し意外に思う。
なぜならこいつに立ち向かおうと言い始めたのは、アニーだったから。
「そうか、ならもう交える言葉はあるまい……闘いを始めようじゃないか?」
互いで殺し合って、勝敗を決めるだけだ。
未知数のお前とアニー、そして俺。どちらが強いかを、な!
アニーの言葉が放たれた次の瞬間、空気の流れが変わったように感じる。
何だ、これ?
俺は不思議な感覚に襲われる。
「ルイちゃん! 右から」
え? 右から?
そう思って右を見た時はもう遅い。
アンリが、右にいた。
「……はやっ!」
そう言う時間が、あっただろうか。
瞬間、俺はどこから取り出したのかアンリの剣に斬られそうになる。
が、瞬時に俺は風属性を使い、避けた。
まだ風力の調整は完全にできないが、運よく今は丁度良い風圧にできた。
「チッ、前より少し強くなったな」
アンリはそう言いながら態勢が崩れた俺に追い打ちのビーム的なものを飛ばす。
まずい、今度は死ぬ!
そう思ったが、アニーがそれを守った。
……光属性のバリアだろうか。
「早く起き上がって。アンリちゃんは強い」
そう言いながらアニーは次の攻撃を伺う。
ヤバい、今のところ俺は何の役にも立ってない……。
だけど……それにしては耐えているような?
「アンリちゃんは強がってはいるけど、ルイちゃんを警戒している。それだけ目障りになって、無闇に動けない状況なんだよ」
アニーは俺の疑問を察したように小声で説明する。
なるほど、そういうことか。
「ルイちゃんは喪失しているからね。それに未知数だし。それだけ恐ろしいと感じているんじゃないかな」
喪失……? 何だそりゃ。
思ったが、それを考える暇は無いようである。
アンリは次にまたどこから取り出したのか銃を出し、俺達に向かって撃つ。
――銃声!
――銃声!
――銃声!
――銃声!
――銃声!
ざっと五発の銃弾に対し、アニーはバリアを張らず避けるように指示をした。
アニーは右へ、俺は左へ避ける。
そしてそのまま円を描くようにアニーに接近した。
「何で今度は避けるんだ!?」
俺は訊く。アニーは答える。
「私ちゃんはそんな光属性得意ちゃんじゃないんだよ。さっきちゃんみたいに守れるとは思わない」
アニーは次に速度を上げ、アンリに近付く。
が、すぐにそれをやめて、下がった。
そうか、アニーの速度より師匠であるアンリの方が速いのだ。
「どうした? アニー」
その動きを見て面白がるように微笑むアンリ。
クロスボウを取り出し矢を何本もアニーに射出する。
全くもって、奴は武器が多い。
そう他人事のように見れないのがこの状況である。
「ぐはっ!!」
いつの間に俺を狙っていたのだろうか。
俺はアンリに頭突きされていた。
これが、風属性。
全くもって見えなかった。
「やっぱり奇襲は風属性に限るなぁ! ルイとやら」
俺に、訊いているのか?
だったら俺は答えられないぞ。
そう冗談みたいな何かを言う暇はない。次にアンリは手での攻撃をしようとする。
手を見る。
ヤバい、手甲をつけてやがる。
ホント何でこんな武器持ってるんだ。さっきまでは無かったはず。
この時気付いた。これが光属性、物質生成だと。
いや、チートだろ!!
こんな使いこなせる奴なんていていいのか? おかしくねえか!
俺は抗議を申し立てながら、アンリに仕留められそうになる。
が。
「チッ!」
幸いなことにアンリは後ろに下がって避けた。
と思うと、アンリに向かって空から銃弾が浴びせられる。
「え?」
俺は空を見上げる。
何だろう、ドローンか?
ドローンのようなものが俺達を援護していた。
「ルイ……だっけ? あとアニー。援護しにきたですよ」
まだ聞き慣れないが、どっかで聞いたことのある声がする。
この声、まさか。
「マチルダちゃん!?」
アニーは嬉しそうに叫んだ。
アンリはその隙を攻撃しようとするが、出来無さそうだ。
流石に、俺達をまだ把握できてないようである。
そして……!
「アニー、ルイよ。ちと下がっておれ」
聞き覚えのある老人の声。
そう、これは。
「全く、探すのが大変じゃったよ」
彼こそは、グレゴワールであった。




