第四章׳ז:俺は強くなり考える
――炎属性の魔法。
風属性を使用するためには、なぜかそれに加え光属性、炎属性を使えるようにならなければいけなかった。
まだなぜかは分からないが俺は取り敢えず、一回試してみることになった。
想像としては、有機物を高温で熱するような感じらしい。
「取り敢えず、この木の棒ちゃんを燃やしてみて」
アニーの指示から、俺はその木の棒を見てみる。
だが、本当にできるだろうか。
俺の頭の中に不安が浮かぶ。
そしてアニーに訊いてみた。
「でもアニー、俺はさっき風属性全く使えなかったんだぞ? そんな俺がまだ原理しか考えてない炎属性を出来るかな?」
アニーはそんな俺を見て笑う。
そして、こう言った。
「出来るよ。風属性ちゃんより簡単ちゃんだもん」
そう、そうなのか。
なら。と、俺は木を見た。
見つめる。
うん、何も起こらない。
だったらと次に、一部だけを見つめてみた。
なぜなら、全体を燃やすより一部を燃やして広げた方が簡単だと思ったからだ。
……。
沈黙が走る。
やっぱり無理なのだろうか。いやいや、それでも何か出来ない時と違う気が……。
そう感じた時すぐ後。
――パチッ!
木に含まれる水分が小さな水蒸気爆発を起こす音がした。
「え? あれ?」
アニーが声をあげて驚く。
俺も少し驚いたが、まだ集中し、一点を見つめた。
すると……。
赤い炎が木を燃やした。
「お、おーー」
パチパチと、気持ちの良い音が鳴り、木には大きな炎が宿った。
凄い、大成功だ。
俺は直感でそれを理解する。
「アニー。これは、どうだ?」
恐らく、上出来ではないかと俺は思う。
ひょっとしたら、才能あるのでは? そう思いあがる程の迫力なのである。
「凄いよ。さっきとは大違い、やっと一般高校生並みちゃんの魔法が出来るようになったんだ……」
そうだろ~~。って、え?
まさか今まで俺は……一般高校生以下だったというのか!?
「そりゃそうちゃんだよ。もう本当に才能ないって感じちゃんだったし」
それにしては凄い成長ちゃんだね。これ位普通の魔法ちゃんが出来るんだったら、早く言って欲しかったのに。
アニーの言葉は、地味に俺を傷つける。
だってそうだ。まだ何の授業も受けずにここまでやったんだぞ? これのどこが凄くないと言えるんだろう。
だがそんな俺にアニーは答えるのである。
「いやね~~。普通、あんな風にイメージを解説ちゃんされたら出来るもんだよ? こんな風に」
そう……なのか。
俺が喜んだのも一時、すぐに俺は落ち込んだのであった。
「でも、何で今まで出来なかったちゃんだったの? 赤ちゃんじゃないと出来ない成長ちゃんだよ、これは」
そんなこと言われても、俺には分からない。
言っておくが、俺は赤ちゃんではないぞ?
取り敢えずそう答えることしか出来ないのだ。
「知ってるよ。だから不思議ちゃんなんだよ。……まさか今まで隠してたり?」
いや、そんなことはない。
俺は「ちゃん」が文章中で一回しか出てこなかった奇跡を無視して、素直に答える。
「でもちゃんね~~」
まあそう考えても分からないものは分からない。
故に俺らはまた、修業を続けるのであった。
ー - - - - - -
「はい~~。今日ちゃんはもう終わりちゃんだよ~~」
あれから約四五時間。炎属性を暫く慣れ、そしてまた風属性、光属性の復習をしている内に時間は経過していた。俺の時計は時刻を五時三十分と示し、太陽は落ちかけていた。夕暮れである。
アニーの合図により、俺はイメージを中断する。
「いや~~、どうやら炎属性の練習に入ってから、随分使えるように俺はなったんだな。めっちゃ気持良かったぜ? アニー」
もうすっかり練習が楽しくなっていた俺。時間の流れがとても早く感じていた。
でもそれでもそんな早く時間は経過しないものである。
……? そういえばただ笑い声に追われているってことしかやってないのに六時間がすぐ過ぎ去った時があったような気がする。あの時は何でそんな早く時間が経過したと感じたのだろうか。特に楽しかった訳でもないのに。
――分からない。全く分からない。
「確かに、一般人レベルちゃんまで進化してたね。第二次魔法成長期ちゃんかな? でもそれって18歳くらいって聞いた気ちゃんがするんだけどね~~」
一方アニーは、俺の魔法の急激な成長の理由が分からないらしい。まあそれも分からないが……俺にはその知識がないので、考えようとするのをやめようと思う。
というか、時間が早く感じる原理もそんな詳しくないので考えるのをやめよう。
「まあ、明日は風属性ちゃんと炎属性ちゃん、光属性ちゃんの組み合わせちゃんについて説明するよ。ルイちゃんの学習能力だったら、簡単に分かると思うから心配ちゃんはしないでね。――ひょっとしたら明後日には私ちゃんを超しているかもしれないね……えへへ」
明日、か。
アニーの言葉で俺は考える。
今までの、この三日間の傾向を見れば俺は明日にはまた別の世界にいるだろう。
そして、別のアニーと会っているんだ。
「神は、もっと言うと地球は、大きな流転がまた始まるのを望んでいます」
ふと朝のオンナと名乗る人物の言葉を思い出す。
流転を望んでいる、それは人類の衰退だと彼女は言った。しかもそれは、毎日俺が来たことを切っ掛けにして……。
あーーーー!! 何で思い出した!?
俺はそうだよ、あの時ちゃんと言ったじゃないか。
全てはお前らの推論。全ては根拠がない考えだ。
確かに俺は一日目、ケルベロスに襲われた。確かに俺は二日目、謎の男に襲われた。三日目はロランが遠い公園のベンチになぜか居て、俺は最後光っていた。でもそれは根拠にならない。
そうだ、そうなんだ。そうでしかないんだ。
ってあれ?
俺、何で今自分が去る時のみを例にあげた?
彼女は決して、俺が去る時に起こるとは言ってない気が……。
――――――――――――。
………………。
俺はどうやら、気が付かぬ内に信じて、そしてそれについて考えていたらしい。
まあそれは間違っているだろう。俺はいつも間違える。
そう思って俺は、「墮」ちていく日を眺めるのだ。




