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日の出で続く異世界流転  作者: 花見&蜥蜴
序章「蒔直し編」
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序章׳ה:貴方の名前は。

「ねえにっちゃん」


 光を見つめている俺に、アニーが急に話しかけてきた。

 っていうかにっちゃん??


「あんちゃんのことだよ」


 アニーは俺を指さす。

 ――そうだよな。俺のこと見てるんだし、そりゃそうか。

 俺は分かりきったことを理解する。


「それで、何ですかね?」


 俺の質問にアニーは当然のような顔をして、こう言った。


「にっちゃんの名前って何?」


 あ。

 言ってなかったことに気付く。


「まだ言ってなかったっすね。そうだ、俺の名前は…」


 名前は……

 名前は。

 ――頭痛!!


「え?」


 自分で驚く。

 名前が、俺の記憶には名前がないということを。

 思い出しそうで、思い出せないのだ。


「どうしたの? にっちゃん」


 …………。


「分からない…」


 俺は何も考えず、ありのままを言った。

 何も考えず、喋ってしまうのはやはり恐らく長い間の引き籠りの所為であろう。

 二人は驚いていた。が、すぐにアニーの方が笑う。


「――名前のみの記憶喪失者ちゃん、かなぁ? まあいいや、じゃあ喪失のにっちゃんって呼ぶよ。宜しくね」


 アニーのその台詞は何となく懐かしさを漂わせる。

 それにしては喪失のにっちゃん。――変なあだ名だな。と、俺は愛想笑いを浮かべた。


「取り敢えずルイ……はどうでしょうか? 名前が思い出すまでの間でいいので、それで名乗ってみては」


 次に放たれた言葉はミシュリーヌの言葉だった。

 やはり最初から分かっていたことだが、ミシュリーヌはアニーとは思考回路が大違いである。

 それを感じさせるネーミングセンスだった。

 ルイ――音の響きがとても好みだ。俺は暫くそれを使うことにした。

 まあ取り敢えず。


「ありがとう。しばらく使わさせてもらいますね」


 と、言っておこう。

 俺はまあ、今日はずっとこれを名乗ろう、そう思えた。

 そして暫く、何も音がしない時間が続き……。


「大変だ!」


 それをかき乱すようにドアが開く。

 急にその部屋にアホ毛を持った黄土色の髪の少年が入ってきた。

 年齢は大体同じくらい。

 その顔は整っていて、主人公っぽいのだが、そんな彼がらしからぬ慌てた顔になっていた。


「どうしたの? ロランちゃん」


 アニーが訊いた。

 ロラン、それが彼の名前らしい。

 そしてロランは叫ぶ。


「グレゴとマチが勝手にダンジョンに行っちゃったんだ!」


 それと同時に彼は転ぶ。

 おっちょこちょいらしい。

 にしては……グレゴとマチ?

 一瞬疑問に思うが、彼らの反応からして残りのメンバーであろう。


「嘘でしょう? 私は全員ちゃんと揃ってからって言ってましたよね?」


 ミシュリーヌは俺の隣で困惑した。

 それはそうだ。自分が言ったことを完全に無視して動いているのだから当たり前である。

 だが俺はというと、そんなことを忘れてただただロランを見ていた。

 面白そう。それが感想だ。

 その視線に気付いたのか、ロランはミシュリーヌを見るついでに俺を見た。

 そして口を開く。


「えっと、この人は誰かい?」


 明らかに俺を指した言葉。

 俺は後ずさる。

 この時本能がこいつを警戒しろ、となぜか告げていた。


「この人ちゃんはルイ(仮)ちゃん。記憶を失った冒険者ちゃんだよ」


 アニーが普通に答えた。

 まあ、冒険者ではないのだがここはスルーすることにしよう。

 それよりも(仮)と言っている部分がおかしい気がする。

 するとロランは苦笑し、こう呟く。


「流石ミシュだね」


 ――ミシュ、ミシュリーヌ。

 この一言からロランが全てのことを察したということを感じる。

 そう、ここでミニュリーヌを褒める自体、俺を助けたのがミシュリーヌだと分かったのだろう。

 やはりこいつ、警戒すべきかも知れない。

 するとロランは微笑み掛けながら、


「宜しく、ルイ君」


 そう言った。

 俺に手を差し伸べる。

 俺は一瞬躊躇するが、握手に応じようと考えた。

 その時、


「おいロランちゃん! 早くして!」


 その握手を遮るようにアニーは呼びかけた。

 そうだ、この三人はこれからその味方の元へと向かうのだ。

 二人の……である。


「ルイ君。君はどうする?」


 ロランは俺に訊いてきた。

 俺は次の瞬間の自分が言った言葉が馬鹿らしくて、冷笑する。


「ついて行く」


 ダンジョンに行く。

 それだけの言葉でも命は補償されていないことが分かる。

 俺は別にチート能力を持っていないだがそれでも俺はついて行く。

 その原動力は何だったか。そう訊かれるとそれは恐らく義理であろう。

 これで自分のことが笑えないものか。

 こんな愚かな自分を。

 そしてそれを聞いてロランは爽やかな口調で言った。


「分かったよ」


 と。

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