第四章׳ג:アンリとの戦闘
――暗雲。
星も全くない、漆黒の空。
そして茶色の岩、砂などでできた土地に、端にある紫色の池……。
正に、ここが最終決戦の場のようである。
そんな中、中心に立ち、周りのメンバーを攻撃する男が一人、アンリである。
彼は変わった服装をしており、正しく魔王のような恰好をしている。いや魔王であった。
アンリは次に、天に剣を振り上げて挑発する。
「莫迦が。そんな感じでこの俺に勝てると思っているのか、雑魚ども」
「ふふ、そう粋がっていられるのも今のうちですね」
その挑発を挑発で返したのは、ミシュリーヌだった。
「カカカカカ! ならばお前はどんなことができる? 残念なことに剣術は俺の近くに行かない限り攻撃は当てられんぞ? そして弓矢やその他攻撃などは効く訳がない。だったら俺を倒せる可能性など無きに等しいのではないか?」
「それはどうですかね? 貴方はまだ私たちが本気の攻撃をしていないことをひょっとしたら知らないんですかね。だったらもう少し警戒した方がいいということを忠告しておきます」
「流石にそんな莫迦ではないさ。だがな、緑髪よ。ミシュリーヌと言ったか? なぜお前らは本気を未だに出さないのかと訊いている。戦闘を開始してからもう数時間が経過。このままではお前らは、本気を出さないまま疲れ切って死ぬぞ?」
「まだそんなこと言えるんですね。よいダイエットになっていることも知らずに」
ミシュリーヌは更に挑発する。
ハッ! とそれを笑い飛ばすアンリ、二人の間には火花が飛び、睨み合って互いの動きを待った。
「なら!」
そこで動き出したのはロランだった。
彼は弓矢を用いてアンリの後ろから数本の矢を連射する。
だが、それはどうやら無駄の様だ。アンリはミシュリーヌと睨み合ったまま、銀白色の壁を一瞬で発生させる。
「チッ」
ロランは少し後退する。
と思った瞬間、ロランは急速にアンリへ進みだす。
アンリは振り返り、どこから出したか分からない剣を構える。
刹那、ロランは剣の攻撃を繰り出した!
斬撃!!
音が響くが、ロランはすぐに押され始める。
だが次はミシュリーヌが剣に炎を纏わせながら、後ろから攻撃を始めていた。
下からアンリの股の間へ蹴り上げながら頭部目がけて斬りかかったのである。
っていうかそれって地味に……あれ狙ってるよな!?
「……ふっ!」
だが、アンリはその攻撃全てを、ロランの攻撃を受け止めながら避ける。
ロランは自分がミシュリーヌの邪魔になると考えたのか、一旦その場を退いた。
「マチルダ、まだ!?」
「そろそろ分かるよ」
その間に飛び交うマチルダとミシュリーヌの会話。
マチルダは必死に電子機器を用いて何かを入力、思考していた。
「どうなされた? 冒険者の方ならここはもう大丈夫とお考え下さい」
そんな中、それを見ていた俺の前にグレゴワールが立つ。
「その、電子機器をいじっているあの子を守るような役目をしていたんじゃなかったんですか?」
俺はグレゴワールに推論を述べる。
「よく観察なされてますな~~。でもまあご安心あれ、あの電子機器をいじってるマチルダの指示ですので。傍観なさっている方を指示するようにと」
いや敬語で「傍観」って使っていいの!?
俺は突っ込む。
「さあ? 特に決まりは御座いませんと思うしのう。まあ、『大丈夫だ、問題ない』って感じですな」
いややめなさいそれ駄目な奴や。
俺は二日ぶりの謎のグレゴパロに懐かしさを覚えながら、飽きれる。
というかそれをする場合ではないと思うんだが……と俺はアンリを見る。
でも、ん? アンリ、魔王の癖に強くなくないか??
ここで疑問に思ってしまう。
ミシュリーヌとロラン以外の、アニー、グレゴワール、マチルダが戦闘以外のことをしている。
それつまり二人で十分ということだ。
ってことは。
という風に一瞬思ったが、それはどうやらフラグらしい。
「アニー、マチルダを守れ!!」
行動より先に、俺の言葉が出る。
丁度見ていた時であった。
アンリは二人を振り払い、マチルダに向かって氷の塊を放ったのである。
「あ、うん!」
残り少しで、マチルダに届いてしまう。
アニーは俺の言葉を受けてすぐに行動を開始した。
まあその行動というものは至って単純であった。
超高速でマチルダ目がけて自分を突進させたのである。
そしてマチルダ共々、放たれた氷の塊から避けさせたのだ。
「くっ」
アンリは地団駄を踏む。そこをロランが剣で突く。
「やったか!?」
アンリの体に剣が突き刺さり、ロランは声を出した。
だが……何か変である。
その……アンリに剣が突き刺さってる様に見えないというか、その、何というか。
「グレゴワール!!」
ロランは叫ぶ。
その瞬間、俺は後ろに何か気配を感じた。
そうだ、この気配は……。
「ご機嫌よう、さようなら」
剣で俺を斬ろうとする、アンリの気配だった。
――殺される。
俺は後ろを振り向くだけで精一杯、他の人の救援も恐らく間に合わない。
だから俺は確信したのである。
一昨日や一昨昨日は、これで助かったんだが……これはどうやら間に合わないらしい。
見ると、刃先は俺の手前にある。
……目を瞑った。
俺はまた気付く。
俺には、力が無いことを。
俺は無力だということを、また感じたのであった。
かくして俺は、胸元を斬られたのである。




