第三章׳אי:distinguish
またもや、目が覚めた。
どうやら私は二度寝のようなものをしてしまったようだ。
「こんな葉っぱちゃんの上で寝ちゃうなんて、どうしちゃったのかな、私ちゃん」
また立ち上がり歩を進める。
気が付けばそこは朝焼けに染まっている。
綺麗だな、と私は溜息をつく。
あれ? 溜息って綺麗と思いながらつくものじゃなかったっけ?
なんか違和感を覚えながら私は森を抜ける。
森を抜け、下山をして街に行く途中、私は考えてみた。
そういえば、何で本物のルイの言いつけを破ってしまったのだろう。
ふと思ってしまうことである。
夢を見て、思い出した。
私は、彼が大好きだったのだと。
そんな彼の言いつけを、破ってしまうなんて。
「ああ、もう頭ちゃんの中がぐちゃぐちゃちゃんだよ……」
そもそも私は、ルイという名前もその存在すらも忘れていた。
なぜだろう。
自分に嘘こそはついていたけど、あんなに好きだったのに。
私は……自分は。
自分はどうしてしまったのか。
それすら分からないなんて……私は私に飽きれてしまう。
小さい頃からお母さんに言われていたのに。
「大丈夫大丈夫。私ちゃんは私ちゃんだ。別ちゃんではない」
そう言い聞かせても私が私とすら思えなくなってきた。
何だろう。
なんでなんだろう。
もう、なぞばかりだ。
「……」
まだ朝焼けだろうか。
ふと空を見上げる。
さっき見てから数十秒しか経ってないのに、空を見上げて確認する。
今日の天気は……どうやら晴天の様だ。
雲一つない。
「……きゃ!」
そして落ちてくる水滴に、私は驚いてしまった。
あれ? 水滴??
ふと水滴を出した発射地点みたいなものを見る。
葉っぱだ。
葉っぱが濡れている。
「何でだろう。昨日ちゃんは雨ちゃんだったっけ?」
いいや違う。
昨日私は傘を差してた記憶もないし、合羽を着てた記憶もない。
じゃあ、夜に降ったのだろうか。
でも……それにしては。
「私ちゃんの体が、濡れてない」
そうである。
濡れてないのだ。
さっき落ちた水滴以外一滴も、服に染み込んでないのである。
「なんか……おかしいな」
段々おかしいことが分かってくる。
なんか変だ。
葉っぱが濡れているし雲が見当たらないし私は濡れてないしで、なんか変なのだ。
何か、胸騒ぎがする。
なぜだか知らないけど、胸騒ぎがするのだ。
疾く疾く。
誰かが私を急かしてる。
私は、街に急いだ。
「何かちゃんがおかしい。おかしい……」
悪い予感がする。
胸騒ぎがする。
虫の知らせが聞こえる。
なぜか。
そう、なぜかそれらを感じるのだ。
段々それが大きくなっているのを感じる。
段々私の足が急いでいくのを感じる。
段々不安になるのを感じる。
とにかくなぜか。
「意味が分からないよ。何か変。でもそれが何か分からない」
モヤモヤと私は感じる。
モヤモヤと晴天の時に浮かんでいる雲が見えてくる。
モヤモヤ。
モヤモヤ。
……!
次に目にしたのが、無残に倒された木が転がっている光景だった。
何で? どうして?
私は色々考えるが、それだけが分からない。
水、晴天、木が倒れる。
何かの後の光景であることは分かっても、それが何かが分からない。
「……急がなきゃ」
なぜか、そう思った。
なぜか。
そう、今日の私は気持ちが悪いほど理由が分からない行動をしているのだ。
なぜか。
私はそれを怖く感じた。
なぜか。
私はそれよりも街が気になった。
なぜか。
でも、私は後ろを向いてしまう。
なぜか。
そう、なぜか。
サァ、と風が吹く。
気持ちのいい風だ。
草木は揺れ、私の心は癒される。
そんな風のはずだった。
だが。
「……え?」
ついに街に辿り着いた私は、声を上げて驚いていた。
その声は意外に響き、空気を揺らした。
そして私は、頭を抱え込んで絶望した。
そう、私が見たその光景は……
崩壊した、街だった。
家は殆どが倒壊などして、赤ん坊の泣き声が聞こえる、そんな街。
普通の人なら、どうするだろう。
赤ん坊を助けて、状況を整理するだろうか。
それとも私のようにするだろうか。
分からないが私は膝を曲げて頭を抱え込み、絶望したのである。
ただただ絶望した。
様々な思い出があるこの場所が、崩壊している。
一生見たくなかった光景だと、そう思った。
……どうにか、立ち上がる。
取り敢えず偉い人は、まずこの状況の整理をするはずだ。
そう思っての行動である。
無理やりそうしたからか、体から涙の代わりに笑いがこみ上げる。
何で笑いか、そこまでは分からなかった。
一歩、二歩、三歩、四歩、五歩。
どんどん進むと、そこには見覚えのある人物が倒れている。
グレゴワールだ。
そう思って近づき、そして出来るだけ優しく彼の体を起こす。
生きていても、いなくてもよかった。
「大丈夫? グレゴワールちゃん」
誰の声だろう。とても無感情だ。
そう思って周りを見る。
誰もいない、自分だ。
私はまた絶望した。
「……アニーか」
驚いた。
まさかグレゴワールが生きているとは、私は少し嬉しくして、ここで何があったかを訊く。
グレゴワールは最後の言葉のような感じで、今まで起きたことを話した。
「儂がとある人ととある人を守るために闘っておってな、そうしたら急に耳鳴りがなって、いつの間にかこのざまじゃ。恐らく、起きたのは……」
竜巻か台風。しかも突発的な。
グレゴワールはそう言った。
「じゃが突発的にここで台風や竜巻が起こることはありえん。恐らくこれは人為的。でも……それにしては大規模すぎる。これ程の魔法の使い手いるはずがない。それはつまり……恐らく……ほう……」
ここでグレゴワールの言葉は終わった。そしてグレゴワールの全身は脱力していた。
息を確かめる。
駄目だ。していない。
どうやら私の目の前でグレゴワールは、こと切れてしまったようである。
「……ははは」
自然とまた笑いがこみ上げてくる。そして今度は、涙も出てきた。
クラッ
あれ? バランスが取れない。
私は気付いた。私の体も、思うように動かないことを。
「あ、これは」
ヤバい。
そう思った時、私もその場で後ろ向きに倒れていた。
意識が、段々と失われる。
そして。
「え……アニー、ですか?」
マチルダみたいな声がして、空もちゃんとした青空になって、
私の意識は、途絶えたのである。
色々な映像が走馬灯のように走る。
ごめんね、お母さん。あと五十年生きられなくて。
最後にそれを謝罪して、私はその短い一生を終えた。
そうか。
今日は厄日なのだ。
note
・これは鵺殺し編の別視点である。
・アニーたちは冒険者。
・アニーは何かを忘れていた。
・ロランはミシュリーヌにあの感情を向けている。
・アニーの母は朝に死んだ。
・今日は厄日。
・母は謎の病に伏せていた。
・ぼうしさんに母は死期が迫っていることを教えてもらった。
・ミシュリーヌは三回家族の死を目の当たりにしている。
・ロラン(厄日を信じる、優しい)
・ルイは本物と偽物が存在する。
・仲間を追ってアニーたちはルイ(偽物)と会った。
・ルイとはI-8ダンジョンで会った。
・I-8ダンジョンは三つの出入口がある。
・雷の正体は凶悪な化け物の魔法。
・アニーたち冒険者を恨む(?)人たちは多い
・ロランはアニーの母やルイ(偽物)を殺した。
・黒い竜巻
・炎属性=発火
・光属性=物質生成
・風属性=風力調節
・本物のルイ曰く「アニーは耐えなければならない。そして、壊してはいけない」
・アンリ(店員・ロランが死ぬのを見ていた)
・キシダ(店員)
・次の日、街が崩壊していた。
疑問
「なぜ今日が厄日なのか?」
「ぼうしさんとは何者か?」
「ルイと会ってからのロランはなぜ執拗にルイに警戒をするような行動をとったか?」
「ルイが使った氷の魔法は?」
「『ミシュやグレゴ、マチは大丈夫だが、俺たちが死んだらそれも意味が無いから』とはどういう意味か?」
「アニーの流派・風転翔流などは何か?」
「ロランの膝枕からロランの様子は急におかしくなる。なぜか?」
「黒い竜巻の正体は?」
「本物のルイとは?」
「何か変とは思わないかい?」
「夢は何だったのか?」
「なぜアニーは濡れていなくて、葉は濡れているのだろう?」
「街は何によって崩壊したのだろう?」
「最後のマチルダの声は?」




