第三章׳ח:レストランの裏側で
「いらっしゃいませーー」
歩を進めているとそこはもう、レストランだった。
冷房なのか、属性効果なのかはよく分からないが、とても冷たい空気である。
「こんな山中ちゃんにこんな店ちゃんがあったなんて知りませんでした」
店員に話し掛ける。
そう。ここはさっきのI-8ダンジョンから然程離れていない山中である。
そんな場所にレストランがあるなんて、少々私は驚いたのだ。
売れるのかな? そればかりが気になるが、まあその売れ行きもこの人の多さだったら心配する必要もないだろう。
「はい。ここは穴場の場所なんですよ」
そういえば今日のお昼。グレゴワールのご馳走だったっけ?
結局あのレストランの予約をキャンセル形になるな……。
そう思いながら時計を見る。
うん。今から山を下ったら、もうお八つの時間になるだろう。
そう見えたから、私は料理を取り始めた。
ここは言わば、ビュッフェ式の店らしい。
色んなものが皿に置かれ、それらを自分の皿に取っておく、そんな店だ。
そして種類も意外に豊富で、
魚、肉、パンに米、そして様々な野菜など、様々なものが置かれていた。
でもやっぱり私は、私が好きな百合の根のポタージュをよそるのだ。
いい香りだし、さっぱりした味。これ程ぐちゃぐちゃしてないものはそんな無い気がする。
まあ、バジルのパンも好きだけどね。
席に座る。
慣れているからか、ほぼ自動的によそったという感じになった。
肉に少々偏りがあるが、そこは無視しておこう。
ではまずは、ポタージュから食べよう。
そう思ったが……。
「……あれ?」
全然、こんなに食べられる気力がない。
なぜないか、それをつい瞼を閉じて考えてしまう。
そして瞼に浮かぶのは。
死体。
私が見たあの残酷な死体たち。
そして血。
生温いようなあの血。
……思い出してしまった。
思わず吐き気のような何かが出てしまう。
「あ、危ない」
吐き出しそうになるが、どうにかそれを止める。
だが私は、まさしく気分が悪くなっていた。
「お客様。いかがいたしましたでしょうか」
それが分かり易かったのか、店員が駆け寄ってくる。
「いや、その」
そう言いかけると、またあの光景を思い出し、そして。
またもや嘔吐をしそうになる。
……。
そして私は喋れなくなっていた。
「アンリさん! お客様がご気分を悪くされたようです!!」
「キシダ、どうした? 今行く!」
そんなこんなをしていると、どこかで会ったような男が出てきた。
確か……どっかの教員だったような?
そう思いながら私は、店の奥に運び込まれていた。
ー ー ー ー ー ー ー ー
それから暫くは、省略するとして、これから話す話は気分が悪いということも、それ以外についても、ちゃんと処置をしていただいた後の話だ。
「それで、今特に何でもないのか」
私は店裏で、食事をいただいていた。
まあ、先程の嘔吐云々の話が店の責任としてくれたのである。
「はいちゃん。特に何もないです」
私は落ち着きながらパンをむしって食べる。
なんかこれから一週間ばかり好きなポタージュが嫌いになりそうであることに、不安を感じながら。
というか、不安……。
それを考えるとそれより、ロランとのあのことを思い出すのだ。
「皆殺すしかないんだよ。じゃないと僕は……」
あのセリフの数々を。
いやいや。
もうこれからは考えないようにしよう。必死に首を振ってそう決心する。
そして、改めて食べながらアンリを見た。
アンリ――。確か職業は教員。
私が行かなかった、あの学校の教員であったはず。
でもだったらなぜここに?
そう訊くとこう答えてくる。
「いやね~~。暫く仕事を休んでレストランで働くのもいいなって思って」
そうか。そうなのか。
それはどうも私にはよく分からないことである。
「というか、何で教師ちゃんになられたんちゃんですか?」
今度はその質問をする。
頭の中の嫌なイメージを払拭するため、私は沢山の違うことに触れて頭にそのことを考えさせる余裕をなくさせたいのだ。
「何でかって……天才だから?」
するとアンリは答える。
私は思わずオレンジジュースを吹き出しそうになる。
いやそれ自分で言うの!? と、そう思ったのだ。
「昔から知識量、運動神経、属性数など、あらゆることに秀でていたからね~~。それを無駄にしたくなかったというか……」
まあ何というか。と、アンリはここで言葉を詰まらせる。
私はそんなアンリに抱き着く。
なんかそういえばこの人に抱き着いたことなかったな、と。
「うわ!! 何? 何だよ!?」
おお、この人はどうやら私の癖が抱き着く行為だと、知らないらしい。
そう思いながらもっと抱き着く。
「ちょっと待てーー! いやなんなんだ? なんなんだよ」
無論。説明するつもりは――ない!!
故に私はもっと抱き着く。
「ちょっと……アニーさん?」
抱き着く。
抱き着く。
抱き着く。
すると段々、私も不安は消えて行っていた。
だから私は体を放した。
「……ふう。どうしたんだ? アニーさん。何かあったのか?」
いやそれでもよく知らない人に抱き着くことはない気がするけど。
アンリは笑って、そして呟く。
ふう。
一方私は溜息をつく。
そして溜息をついた後、言った。
「いや、何ちゃんでもないです。それよりアンリちゃん、もうお腹ちゃんは一杯ちゃんです。なのでついでに、私の家まで送ってはくれませんか??」
……我ながら論理的でない文章だ。
でもまあ、このまま言っておこう。
するとアンリは飽きれながら言う。
「分かった」
時刻は14時。
とても暑い時間帯である。




