第三章׳ז:あの人は、本物のルイではなかったようだ。
私は走っていた。
なぜ? なぜ走っているのだろう。
何から逃げているのだろう。
必死に私は私に問う。
分からない。
でもひょっとしたら、私は私から逃げているのかもしれない。
私という名の罪から逃げているのかもしれない。
風が吹いてくる。
そろそろ、出口だ。
私はそう思い、疲労に身を任せた。
すると足は段々歩き出し、体は段々猫背になっていった。
初夏の虫の音が響く。
遂に私は、外に出た。
木々の間の木漏れ日が、私の体に差す。
私はすっかり落ち着いてしまって、座り込んでしまった。
何を間違えたのだろう。
また考えてしまう。
というか、何が起こったのかさえも実は自分には分かっていない。
「ルイちゃん……」
ふとした時、呟いているのは彼の名。
亡くなってしまったのか分からない、彼の名。
私の肩に残っているこの血の持ち主……。
「いや、違う」
声が、出ていた。
違う。
それは心の奥底から出ていたのだ。
「違う、彼はルイちゃんじゃない」
彼はルイじゃない。彼は……ルイじゃない。
体中全てが、そう言っていた。
「そうだよ。ルイちゃんは……」
初夏の虫が、また鳴く。
ふとその方向を見ると、そこには一人の男がいた。
「ルイ……ちゃん」
私は無意識の中で、彼に名前をつける。
彼はすると、微笑んでこう返してきた。
「やっと見つけてくれたね」
ルイ。
本物のルイ。
夢か幻か、彼が私の目の前にいる。
黒い髪の、短髪の、私と同じ年の男の子。
彼は私に歩み寄ってくる。
私はそう思うと、涙を出しながら笑ってしまった。
本日何回目の涙だろうか。
私って、こんなにも泣く子だっけ?
いや違う。
理由は、何回も言っているが一つしかない。
「でもアニー。お前はここで、耐えなければいけない。ここで、これ以上壊してはならない」
ルイは言う。
「何で、そう言うの!? 何でそんなこと言うの!?」
私ちゃんは、もう十分耐えたよ。だからもう壊していいよ。
そう言ってよ。
私はそれを言う。
でも、ルイはそれを拒んだ。
「いや違う、アニー。今、そうはいかないんだ。そうじゃないと壊れてしまう」
それは何が、であろうか?
何が壊れてしまうのだろうか。
その疑問もよそに、ルイは続ける。
「いいか? これから暫くアニーは身勝手な行動をしてはいけない。大体、三週間程度だ。周りからの挑発にも乗らず、戦闘行為を避けてくれ。頼む」
そう言って、ルイは頭を下げた。
分かった。頼まれる。
その時、私はそう言った。
「よかった……」
ルイは、本物のルイは幸せそうな顔を浮かべる。
私はそんな彼に抱き付きたくなる。
本能なのだろうか。それとも……。
「ルイちゃん!」
よし抱き付こう。
そう思いながら抱き付く。
が、抱き付けなかった。
そこには何も無かったのだ。
……。
今のは夢幻……?
一瞬、そう疑ってしまう。
だがすぐに首を振り、訂正する。
「違う。今のは幻なんかじゃない」
そうだ。今のは、本物のルイだ。
日差しが強く差す。
そろそろ、お昼かな?
なら私はまた、歩を進めるつもりだ。




