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日の出で続く異世界流転  作者: 花見&蜥蜴
第三章「見違い編」
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第三章׳ג:見知らぬ男との再会

「……アニー」


 気が付いたのは、ロランの声。

 あれからずっと私は、泣いていたのだろう。

 しんみりとした空気が、そこを漂った。

 右手の方には、手紙。

 前には、目をつぶったまま動かない母親。

 明らかに先程までのことが嘘ではないことを物語っていた。


「先生から聞いたよ。アニーのお母さん……」


 ここでロランも口籠ってしまう。

 また、泣きそうになる。

 だが私は十分泣いてしまったようだ。

 涙はもう、出なかった。


「何の用? ロランちゃん」


 私はだから、口を開いた。

 ただ見に来た……訳ではなさそうだったからだ。


「いや、あの、その。タイミングが悪いとは思うんだけど」


 ロランは言う。

 私はこの発言だけで、なぜか大体察しがついてしまった。

 そう、それはすなわち。


「皆が……勝手に調査に行ってしまった」


 そうなの?

 私は溜息を尽きながら立ち上がる。

 するとロランは答えた。


「そう、だよ」


 ……。

 その答え方は、ロランは私を察していることが伝わってくる。

 だから私は空気を切り替えねばと思った。

 じゃないと真面にロランは仲間を捜索しない気がする。

 ロランはこう見えて、他人の感情の影響を受けやすいのだ。

 なら。


「行くよ!!」


 私は声を大きくして、言う。

 出来るだけ辛く無さそうに、笑顔で。


「でも、気を付けた方が良いね」


 ロランは、まだしんみりと言う。

 何?

 私が訊くと、彼は答えた。


「今日は、厄日だ」


 今日は厄日。

 ロランもそれを信じるんだ。

 少しそれを不思議に思った。


「でもまあ、大丈夫だよ。気にしすぎ」


 私がそう言っても、ロランは表情を変えず、真剣に私を見つめてきた。

 どうしたんだろう。

 そんな疑問も浮かべたけど、私は一歩を踏み出した。


「全くもう……皆ちゃん揃って自分勝手ちゃんなんだから」


 独り言を呟きながら。そして母の形見である本を胸元に入れて、私は感じていた。

 悲しみの所為とは思うが、不吉な予感を。

 改めて言おう。

 今日は厄日なのだ。


 - - - - -


 ――森の中のダンジョン、I-8ダンジョン。

 恐らくミシュリーヌたちがいるのはそこである。

 私たちはそれ故、そこ周辺を探索した。


「ダメだ。いないよ」


 ロランが言う。

 入口付近には、いないか。

 それじゃあ入る?

 私が問うと、ロランは考えて答える。


「いや、ここから200m先の『裏口』からにしよう。マチルダがそこから入りたがってたし、僕がいないならきっとそこから入るはずだ」


 まあ確かにね。ロランちゃん、執拗にそこから入るの拒むよね。

 私が言う。

 そう。このI-8ダンジョンには、入口が三つあるのだ。

 この正面の入口、ここから100mくらい離れた小さな「謎の入口」と言われた口、そして200m離れた「裏口」と呼ばれる口。


「いや、流石に危険だからね。まあ今日は魔物がそこまでいない日だ。

 大丈夫だとは思うけど、急ごう!!」


 ロランの掛け声で、私たちは走り出す。

 10m、20m。どんどん先に抜けていく。

 森は奥に入り、虫や生き物が鳴きだした。

 目の前にある城のようなダンジョンは雷を召喚していた。

 ああ、もうここまで来ちゃったか。

 昔は行っちゃダメとか言われていたっけ?

 そう思いながらフードを被る。

 雷が召喚されているということは、ちょっとヤバいことになっているかもしれないからだ。

 あの「裏口」近くのI-8ダンジョンには、凶暴な雷の化け物がいるのである。


 ……ドスッ!


 あとちょっとで「裏口」だ、といったところだろうか。

 I-8ダンジョンの「裏口」から残り100mくらい。つまりI-8ダンジョンの「謎の入口」の近くで、一人の男とぶつかった。


「あ、御免なさい」


 思わず謝ってしまう。

 まあそりゃ、私の方が悪いから、当たり前だとは思うけど。


 ――私はその人の顔を見る。身体や、服装を見る。

 少し見慣れないな、貴族だろうか。見慣れない服を見ると、自然とそう思ってしまう。

 そう思いながらも頭を下げた。


「ちょっと急いでて……大丈夫?」


 あ、閒違って言い訳しちゃった、と後悔しながら、相手の顔を見た。

 相手は、迷惑そうな顔でもしているのだろうか。そう思ったのである。

 でも相手は、迷惑そうな顔をしないどころか驚いていたのだ。

 どうしたんだろ?

 首を傾げる。


「――アニー」


 ――え?

 声の主は、その相手。

 彼は、私の名前を呟いていた。


「どこかで、会った人ちゃんですか?」


 取り敢えず訊いてみる。

 私はというと、全く記憶にない。

 子供の時にでも会ったのだろうか。


「ってお前、本当にアニーか!?」


 私を揺さぶるほど勢いをつけて、彼は私に問う。

 どうやら、奇跡的な再会をしたようだ。

 まあ、私は知らないけど。


「え、あ、そうちゃんですけど……」


 私の言葉。

 思わず口から放たれる。

 それを聴いた彼の反応からも、彼が私の知人であることは証明された。

 いや、他の可能性もあるけど、でもやっぱり彼は私をよく知っているようだ。

 もう一回言おう。私は彼を知らない。

 でも彼は私を知っている。

 なんか奇妙だなぁ。そうは思っても、口には出さなかった。


「アニー、早く行くよ!」


 後ろからロランの声。

 いつの間にかロランと距離が離れていたなとは思ったけど、案外近かったみたいだ。

 でもその声は、さっき聞いたロランの声と違っていた。

 敵意に満ち溢れたようなそんな声。

 そりゃそうだ。親友が見知らぬ男と話していたら、まず詐欺かなんかに騙されているのではないかと彼は案ずるんだから。

 でも大丈夫だよ、彼はまだ私を騙してない。

 それを伝えようと思いながらも、私は彼を見た。

 彼はまたもや、動揺していた。

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