第三章׳א:旭光
「何か……思い出しちゃったんだよね」
彼女は俺に、告げた。
何を?
俺が訊くと、彼女はこう言った。
「竜巻で……ロランちゃんがルイを鵺って疑って……そして、あとは……」
ロランが、俺を疑う? 鵺って??
……分かる。
彼女にとっては何も分からないだろうが、俺には分かる。
「詳しく、訊かせてくれ」
彼女にそう言う。彼女はいきなりのその言葉に驚いたようだった。
そして、別に訊いても意味ないよ。と言って答えなかった。
「そうか……じゃあ話したくなったら言ってくれ」
そう言う。
それで、会話は終了した。
さて今から話すのは、その時に彼女が思い出した一つの事件――。
「始」ではなく「異」。
鵺殺しの間に行われた、違う視点の物語である。
旭光が差す。
私の眼は、覚めた。
もうちょっとだけ眠っていたい。
その想いも押しとどめ、起き上がる。
そうだ、私のお母さんの様子を見に行かなきゃ。
私は一階に降りた。
「おはよう、アニー」
ミシュリーヌの声。
そう、私はアニーだ。
グループ、自称、最強の六人中の回復魔法、風魔法を掌る戦士だ。
「おはようちゃん。今日の朝ご飯は何?」
私はミシュリーヌに訊く。
そう、この家の炊飯や調理は彼女がやっているのだ。
つまり彼女が料理を持っている。
それにしては……。
何かを忘れている。
「ミシュリーヌちゃん、何か忘れている気がしない?」
私は訊く。が、ミシュリーヌは特に何にも無いらしい。
私の気のせいだろうか。
「ま、まあ食べるね!!」
出されたのはバジルが付いたフランスパン。
私の大好物である。
何というか、この硬さ。
甘さ。
そしてバジルとの調和。
たまらない。
「美味しいよ!!」
そう言うとミシュリーヌが笑う。
微笑ましい……とでも思っているのか。
まあ、気になるけどここは考えないでおこうと私は思った。
「今日はグレゴワールが持ってきたんですよ? あとでグレゴワールに感謝ですね」
ミシュリーヌが説明する。
そうだね、グレゴワールちゃんに感謝ちゃんしなきゃ。
そう私は答えながら、更にフランスパンを取り、がっついた。
「それで、今日アニーは何をするの?」
ミシュリーヌが言った。
敬語を外すなんて……私には珍しいな。
そう思いながら私は答える。
「えっと……まずは私ちゃんのお母さんのお見舞いちゃんでしょ? それで後は、まあ魔王城ちゃんの探索ちゃんかな……?」
私たちは冒険者、言ってしまえばまだ調査が終わってない古代遺跡などの探索を主な仕事としている。
だから学校も行かなくていいし、宿題も無い。
私はそれだから入ったんだけど……。思ったよりその生活は厳しかった。
最初の方は訓練ばかり。逆に訓練以外をやったかというと、やってない。
サボったらフランス政府のお偉いさんがわざわざ来て怒るし、もう本当にやってられなかった。
が、そんな私の心の支えになったのが、ミシュリーヌ達グループのメンバーである。
リーダーのミシュリーヌ、リーダー補佐のロラン、攻撃担当のグレゴワール、後方担当のマチルダ。
このメンバーに囲まれてグループ補佐をやれたのはとても幸運だったと、今も思う。
って……何の話だっけ?
「そう。それじゃあ今日は探検……全部アニーに任せちゃおうかな~~」
ミシュリーヌが意地悪を言ってくる。
まあこれが本気だとしたらとても嫌だが、私は敢えてのった。
「別に良いよ? でもその代わりこれから三日ちゃんミシュリーヌちゃんに任せるからね!」
勿論私にその権限はないのだが……まあここはおふざけとして言っても悪くはないだろう。
「う……冗談でもそれを言われると少し気がひけるよ~~。潰れちゃいそう」
ミシュリーヌは弱音を吐く。
うん、そうだね。
私もそう思った。
「おはよう。アニー、ミシュリーヌ」
ここで家に入ってきたのはロランである。
ミシュリーヌの表情を見る。
少し嬉しそうになっていた。
ふふん?
私は思わず微笑んでしまう。
今の私の顔は……悪ガキの顔なのかな?
「おっはよちゃんーー! ロランちゃん」
だから、と言ってもいいと思う。
私が真っ先にロランに挨拶して、そして抱きついたのは。
う~~ん、なるほどなるほど。
そう思いながら私はロランを見る。
「あ、ああ。うん、おはよう」
一方ロランは……戸惑っているのかな?
妙な反応だ。
と、思うとロランは後ろに転んだ!
「あ、だ、大丈夫ですか?」
ミシュリーヌが駆け寄る。
うん、大丈夫だよ。おはよう、ミシュリーヌ。
ロランは起き上がる前に、こう言った。
大分痛そうだ。
「あ、はい。おはようございます……」
やっぱりさっきのタメ口は嘘のようだ、と私はまた微笑んでしまう。
そりゃそうだ。ミシュリーヌは絶対、ロランにあの感情を抱いているに違いないんだから。
ここは、敢えて言わないでおく。
でもまあ、ロランを助けるためにロランの手を触り、引き上げているミシュリーヌを見ると、誰でもそう見えてしまうであろう。
頬を紅く染め、ぎこちない動作で動く。
それに、どこか周りからの視線を意識しているあの感じ……うん違いない。
また言うが、ミシュリーヌはロランにあの感情を抱いている。
ついでに私はもう、ま、二人の世界(?)を邪魔しちゃ悪いし? とロランの上からどいている。
そう、こう見えて私は紳士なのだ!!
……。
…………。
あれ? 紳士って男の人のことを指すんだっけ?
あ、それじゃ
そう、こう見えて私は淑女なのだ!!
って言った方が正しいって事だよね?
うん、そうに違いない。
私はそう考える。
その間にも二人の時間は終わっていた。
「アニー。それで今日のそっちの予定は?」
ロランがミシュリーヌに訊いた後、私に訊いてきた。
え? また言うのか……。
私はそう苦笑いをしながらもさっきと同じようなことを言う。
そういえば、聞き逃したけどミシュリーヌの予定は?
私は気になりはしたが、結局それは言葉に出来なかった。
まあ、こうして今日という爽やかな日は始まった。
作者からのコメント
ついでに一応読者の方で、思っている人もいると思いますが、ネタ切れでは御座いません。
これからを見越すと、このエピソードはここにおいた方が面白いと思ったのでおいただけです。
言いたいだけですが、地の文もアニーらしさを多少出しています。が、一々「ちゃん」が付くのはウザったいと思ったので、地の文の「ちゃん」は消しました。
ついでにこれは、鵺殺し編の別視点です。




