第二章׳י:careless
「ルイ!!」
もう完全に陽は沈み、闇がたちこめている夜空に、ミシュリーヌの声が木霊す。
俺は呼ばれ、振り返る。
「ルイ。今の状況は?」
「足取りは全然無い。そっちは?」
同じ。
ミシュリーヌは悲しそうにそう言った。
他の仲間たち、アニーとクロティルデもそこに現われ、ミシュリーヌの従者……らしいグレゴワールまでもが出てきた。
そうか、グレゴワールもやっぱりこの世界にいたのか。
俺は初めて知る。
「そもそもロランちゃんが学校ちゃんから帰ったかというのも怪しいところちゃんよ。気がついたらいなくなっていた、ということらしいから」
アニーも大分慌てている。
というか……なぜロランが誘拐されたのだろう。
そもそもこれは誘拐なのだろうか。
こういう疑問が浮かんでくる。
――失踪。
そうであることは絶対なのだが。
「取り敢えずルイは次あっちで聞き込みを頼むよ。ボクはこっちの道、ミシュリーヌは……」
とマチルダが指す方向に俺たちは従う。
が、この方向は俺の家の近くだな。
ふと思う。
「あらあら、もう会わないと思っていましたのにあってしまいましたね、先輩」
そんな時に不審な人影、そして声が現われた。
ブロック塀の上にいる彼女も、まだ制服姿だった。
こんな時間に……どうしたんだ? シャルロット。
俺は彼女の名前を呼ぶと、彼女は奇妙な笑みをして、ブロック塀から飛び降り、道路に立った。
「そちらこそ、どうしたんですか? 先輩。もし何かあるようであったら、お手伝いしますよ」
奇妙。
ただそれしか感じない。
逆にそれ以外は彼女からは感じないのである。
「いや……大丈夫である」
まさかここで文語を使ってしまうとは……。
俺は自分で自分に呆れる。
するとシャルロットは笑わずに、ただ続きの言葉を喋った。
「お手伝いが嫌なんですか? それは困りました。お力になれると思ったのに……。まあいいです、今日は諦めますよ先輩。この私はとても寛大なのです」
色々意味ありげに喋ってはいるが、俺は無視することにする。
それより俺がやるのは聞き込み……聞き込み?
じゃあこいつに訊くっていうのもいいじゃないか。
俺はそう思い至り去ろうとする彼女を引き留める。
「何ですか?」
彼女の声。
「いや代わりと言っては何なんだが、お前ロランって知っているか?」
するとシャルロットは笑いながら答える。
分かりますよ。ロラン先輩ですよね?
そう、そうだ。
俺は続ける。
「そのロランを見かけなかったか?」
すると、シャルロットは待っていたかのような感じで、何も考えず答えた。
「ええ、見かけましたよ。それが何か?」
月が氷のように冴え返った真夜半。俺はその情報を聴いていた。
そして驚く。
こうも簡単に手がかりが見つかるとは。
「それはいつだ? どこで、どうやって見つけた!?」
俺は思わず少し大きく言う。
するとシャルロットはまた微笑んで答える。
「一人で眠って居られました。そうですね、大体一時間前くらいの、公園でしょうか」
それはどこの公園だ!
俺はそこまで聞き出し、そしてグループにSNSを通じて知らせる。
すると真っ先にミシュリーヌのメッセージが届いた。
『OK、取り敢えずすぐに向かいましょう。そしてロランを見つけ次第事情を聴取。どういう状況なのか、色々な情報をね』
OK。
俺はミシュリーヌのメッセージにそう返信したのだった。
ー ー ー ー ー
真夜中も真夜中。
その公園は、もはや違う県だった。
故に俺たちは電車内で夕食、そして仮眠を取り、そこまで行った。
そして遂に来たその公園。
そこにはベンチに眠っている、ロランがいた。
「取り敢えず……良かったわね。見つかって」
ミシュリーヌが言う。
うんそうだね、と次に答えたのはアニーだった。
俺は周りを見渡して、ふと言ってみる。
「何でこんな遠いところで一人ぼっちで倒れているんだろう?」
そうだ。
そうである。
これは誘拐でも、偶然でもない。
そう思えた。
――全員の背筋が凍る。
この状況が怖い。
皆がそう思った。
「……ね、ボク。思っちゃったんだけど」
ん?
皆が、マチルダの声を聴く。
「これって、罠とかではない? 何かそう見えちゃうんだけど」
……そうだ。
そう見えてしまう。
でも、俺達をはめて得する奴はいる訳がな……。
いや、いないとも限らない。
疾く疾く。
早くここを離れさせろ、皆に。
誰かが言った。
そんな気がした。
――風の音。
――林の音。
――鐘の音。
……足音。
「皆! 離れろ!!」
俺は叫ぶ。
周りの誰でも聞こえるように、そう叫ぶ。
「嫌だな~~、先輩。何で私が来たらそうなるんですか?」
その声、シャルロット。
その人影は、シャルロットであったのだ。
しかし油断はできない。こいつだけは、なぜかそんな感じがした。
逆にそれ以外の感覚は、無かった。
「それにしては今日はよく会いますね先輩。もう何回目ですか?」
知らん。というかこれに関しては偶然では無いだろ!
俺は戦きながら突っ込みを入れる。
するとシャルロットは一瞬不思議そうに首を傾げたが、すぐに分かったように態勢を戻した。
「なるほど、そういうことですか」
何が?
そんな疑問と裏腹に彼女は全てを知ったように俺を見る。
そして、また彼女が微笑んだかと思うと辺りは光り出す。
「え? あれ、ルイちゃん?? 何で光っているの」
アニーがそう言ったことで、光っているのが辺りではなく、俺であることが分かった。
分かんねえ。
そう言おうとするが、その前に光の大きさは加速して!
「それでは、今度こそさようなら」
シャルロットの声と共に俺はまた、意識を失っていた。
note
・現代世界?
・日本が戦争に勝つ。
・世界共通語が日本語
・アニー(彼女・喪失のにっちゃんと言い始める・抱きついてきた・速度が速い)
・ロラン(何かを知っている……?・夜、公園で倒れている)
・ミシュリーヌ(幼馴染み)
・シャルロット(なぜか色々知っている・図書委員)
・アンリ(担任教師・体育教師)
・マチルダ(皆の仲間のうち一人)
・クロティルデ(妹・兄、母、父の四人家族)
・ルイ(人物? 俺と入れ替わる・同サイズ・ミシュリーヌに秘密がある・意地っ張り・泣き虫・俺に少し似ている)
・グレゴワール
・夏だった
疑問
「なぜクロティルデが妹か?」
「入れ替わりか? また、なぜ今回は入れ替わりか?」
「ルイは『あの時』、何があったか?」
「シャルロットはどこまで知っているか? なぜ知っているか? 何を知っているか?」
「シャルロットは何者か?」
「白髪の女性の正体とは?」
「あたりめの本数?」
「5・6時間目……?」
「なぜロランはそんなところにいたのか?」
「なぜロランは倒れていたのか?」




