第二章׳ט:疑心
それから理科、国語と俺は授業を受けながら考えたが、結局何も分からないままであった。
そしてこうして放課後、俺は部活がないアニーと二人で帰っているのである。
ついでに補足として、俺は朝のうちに道を憶えていた。だから一人でも帰られるのである。
だから俺はアニーに、気になった例のことについて訊いてみた。
「なあ、アニー。喪失のにっちゃんって、何だ?」
そう、今思いつく最大の謎。
ルイは俺と入れ替わるにあたって、何を『喪失』したのだろうか。
それが気になっての質問であった。
「それは……」
だが、アニーは答えないのである。
そう。アニーは悩むようにして、口ごもったのだ。
……。
俺はそれを見て、何か彼女にはあると確信してしまう。
勿論、知る必要ない。
あるのは好奇心だけだ。
だが俺はそれだけでも言ってしまうのだ。
「それは……何だ?」
全てを知っていたい。
それが相変わらずあるのである。
だから俺は、強く問いただす。
するとアニーは……。
「いや……えっと」
予測していなかったのだろうか。
全くもって答えられない様子である。
日は、どんどん落ちていく。
……そう言っている間にも、道は曲がり角に差し掛かる。
「そ、それじゃあ、じゃあね」
ここでアニーは去ろうとする。
そうか、俺はここで左に行くのに対して、アニーは右に行くのだ。
ならば。と、俺はアニーを手を捕まえようとする。
が、捕まえられなかった。
やはり、そんな勇気などないのだ。
「う、うん。じゃあね」
俺はつい、そう言ってしまった。
アニーの体はどんどん離れている。
それと同時に、家の前まで来た。
「……こんにちは。どうしました?」
ここで一つの、声が聞こえる。
声の主を見ると、彼女はシャルロットであった。
「まあ、今日はどうでしたか? 何も無かったですよね。まさに調べること無し。劾無しってとこですね、悲しいですか」
相変わらず口数が多い。俺はそう思った。
というか正直、調べることなんて探してない。それに、悲しくなんて無い。そもそも劾無しって言葉あるのか?
そう言うとシャルロットは笑って返す。
「まず、そんな言葉があるかは知りません。が、使ってもいいじゃないですか」
ついでに先輩はいつも何かを探している、そう。先輩は記憶を少し失っているから。それが何かを探して。
それが続いた彼女の言葉である。
……。
そうだろうか、いやそうではない俺はそう言おうとする。だが言えなかった。
俺は、黙ってしまっているのである。
そんな俺に、更に彼女は言う。
「でもまあ、これでお別れですね、先輩。この後は私に任せて頑張ってください。健闘を祈ります。でも、夜は頼みますよ」
俺はその言葉を、謎に思いながら、「じゃあな」と言って家に入ろうとする。
逆に、謎にしか思わなかった。それ以上は考えようとしなかったのである。
って。
そういえばお前は何者なんだ? そして、夜の事って……。
俺がそう言おうと振り返った時、彼女はもういなくなっていた。
本当に、奇妙な人物である。
いや、それ以上だ。
俺はそう思いながら、家に入った。
「ただいまーー」
「あ、お帰りなさい」
母親の声が真っ先に聞こえ、その後クロティルデの声が聞こえる。
俺は溜息をつき、足を俺の部屋に向けた。
「ふう」
さて、今日の出来事を俺は頭で纏める。
と、言っても本当に彼女の言う通りだ。
今日は調べることがないどころか、そんな何にもない気がした。
でもまあ、それが良いのだ。
俺は思う。
まあ、心の片隅で俺はこれに不満を持っていたのかもしれないが。
ー ー ー ー ー
「ご飯だよ~~」
数分後、クロティルデが食堂から叫んでいる声が聞こえる。
まさか一日三食食べる日がまた来るとは、少々変に思う。
でも……そんなに腹減ってないな。
そう思っていると、机の上にあったスマホがブルブルと震えた――。
「え?」
この世界にスマホがあることもまだ知らなかったが、それ以上に気になるのはこれが誰のものかだ。
銘柄その他諸々を確認する。
うん、どうやら俺の物らしい。
名前を書く欄に『ルイ』と書いてあるからだ。
スマホを開く。
幸いパスワードロックが掛かっていない。
そして震えた理由はどうやら、メッセージが来たからである。
さて、そのメッセージの内容は……。
内容は……。
『ルイ早く!』
ミシュリーヌの、メッセージだった。
『ルイ、早く』と点が入ってないことからまあまあ急いでそうだな。
そう俺はそれを見て思う。
次のメッセージを見るまで、それだけで落ち着いて見ていた。
が、次のメッセージを見た瞬間、俺の体は凍り付いた。
『ロランが、消えたんだよ。』
いや、ミシュリーヌそれは勘違いかもしれないだろう?
そんな考えなど、微塵も起こらなかった。
俺はすぐに階段を降り、玄関に急ぐ。
「お、今日は随分早いね~~」
クロティルデの声がその途中で聞こえる。
「いや今日は夕飯抜きにしてくれ!! 今から出掛ける」
私服に着替える暇はなかった。
俺は運動靴を履き、そして玄関の引き戸を開ける。
「いやどうしたんだよ、莫迦兄貴」
クロティルデのその質問に、俺は今こうとしか答えられない。
それ程、頭が一杯なのである。
「友達を……探しに行く!!」
そう、その時俺はロランの身に何かあったんじゃないか。それしか考えてなかった。
あるいはそれを望んでいたのだろうか。
だからこれしか信じられないのだろうか。
一瞬そういう疑問が浮かぶ。
いいや違う。そうではない。
俺は頭を振ってその考えを否定する。
それは――どんだけ酷いんだよ。
「まあ、取り敢えずそれはおいといてミシュリーヌと合流しよう」
そうヒトリゴトを呟く。
もうこの時、日は出ていなかった。




