第二章׳ח:あたりめ
さて、俺は今数学の授業を受けながら考え事をしているのだが、何を考えているか分かるだろうか。
あれ? あの意味ありそうなロランの呼び出しは?
今そう思った人、手を挙げなさい。
少なくとも俺はそう思ったので小さく手を挙げるのだが、あれは何にもなく終わったので問題無い。
本当に、何にも無かったのである。
まあ、あの質問に俺はどう答えたか、ということだけでも答えておこう。
「いや……特に何もないけど」である!
するとロランは普通に訊くのをやめた。
何だったんだろうと俺は思ったが、特に何にも無かったと取り敢えず考えることにしようと思う。
それより、今俺が考えていることである。
やはり一つは、先程から考えている、日本が戦争で勝利し、しかも数々の国を植民地にしたこの世界である。
「色々突っ込みどころ満載なんだよな~~」
そう呟くとクロティルデが反応する。
俺は「いや、何でも無いよ」と言って誤魔化す。
まあ次。と考えたのは昨日、一昨日の世界との差である、これであろう。
――魔法。
そう、ここには魔法がないのだ。
先程の体育の時間を見て確信した。
まあ少し不思議な点はあったよ? ロランが筋肉そんなないにしては頑丈だったり、アニーがウサイン・ボルト並と言って良いほど早かったり。
でもそれも魔法とは関係ないと思う。あくまで凄いトレーニングをしてそういう肉体を手に入れたのだろう。
さあでは次である。それは全く関係ないことなのだが。
この授業。やっていることが遅くないか?
いや何か、高二というより、高一である。
一応俺も元の世界では高二で、不登校だったが不登校なりに、自宅でその学習をしていた訳だが。
……うん。これは高一の範囲だ。そう感じる。
「さて、ということで今日の授業を終わろうと思うんだが、何か俺様に質問などはあるか?」
俺様という癖の強い一人称。結構面白くなってしまったが、それより授業が終わるらしい。
やっぱり高校は退屈だ。友達でも居なきゃこんなのくる必要ない。
俺は改めてそれを実感し、伸びをする。
礼。
これで午前中の授業は終わりだ。
「そうにダールイちゃん。一緒にガッショク行こう」
行き成りのアニーの呼びかけである。
おいアニーよ。細かいところを指摘するようで悪いがガッショクではない、学食だぞ。
と思いながら俺は立ち上がって「うん」と答える。
そうにダールイちゃん。もう呼び方はどうでもいいのである。
「おお、久しぶりにだね。いいよ!」
最初に話に入るのはマチルダだ。
そしてそれに続きロラン、ミシュリーヌ、と入ってくる。
俺たちは、食堂を目指した。
ー ー ー ー ー
食堂。
昨日のフレンチレストランとは全くもって違う雰囲気を持っていて、とても広い場であった。
「おお、凄いな~~」
思わず声を出してしまう。
「え? 何かこないだ言った時と違うとこあったっけ?」
ここでアニーが言う。
あ、と俺は口を塞ぐ。
ここでは俺は、何も返す言葉を思いつかなかった。
「いや~~前回より人が多いじゃん? アニー。それ程盛況してきたってことに喜んでいたんだよ、ルイは」
ここでロランが答える。
偶然だろうか、まあナイスフォローだ!!
「まあ、そうだよね~~」
アニーは納得し、周りを見渡した。
さて、俺はというとその時、もうすでに学食を取る道に並んでいた。
そう。どうやら学食はバイキング、つまりはビュッフェなのである。
俺はその感激が主に「凄いな~~」と言ってしまったのである。
「こんにちは。ルイさん」
そんな俺に話しかける少々年上の女性。老いても無いのに白髪で、長髪である。
また新たな人物であろうか。
だったらルイは熟々友達に恵まれていたらしい。
「あ、こんにちは」
取り敢えず彼女に返す。
すると彼女はこう言ってきた。
「この世界は、どうですか?」
……は?
俺は声を漏らす。
何だよ、あのシャルロットって奴だけでなく、他の人にも俺はバレているのか?
俺はそう思いながら、惚けることを決める。
「ど、どういうことでしゅか?? この世界って」
あ、昨日ぶりの噛みだ。
俺は少し恥ずかしくなりそうになるが、今はそれどころでは無かった。
すると彼女は、他の人とは違い笑わずに、こう答えた。
「明日、明日会いましょう。そうしましたら教えて差し上げますよ」
その声は単調で、しかしどこか感情が籠もっていた。
それが妙に奇妙で、俺は不思議に思っていたのである。
というか……あの声、どっかで聞いたような。
そう思って彼女を見たら、もう彼女はいなかったのであった。
「どうしたの? ルイ」
ミシュリーヌの声。
ああ、いや何でも無いよ。
俺はグラタンを取りながら、そう答える。
本当に何でも無い。俺の心にそう何回も告げながら。
「そう。それならいいんだけど」
その他唐揚げ、コロッケ、サラダ、しらすのご飯、味噌汁をよそると、俺はマチルダに呼ばれた席に座り、食べながら考え始めた。
う~~ん。
俺は無意識的にポケットに手を突っ込む。
あたりめの袋が……あった。
それについて不思議な気がしながらも、俺はそれを開け、そして食べる。
「あれ? そのあたりめどうしたの??」
ミシュリーヌが訊いてくる。
いや、何でも無い。
なぜか俺はいつものようにはぐらかしてしまう。
袋に入ったあたりめの数は……十つであった。




