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日の出で続く異世界流転  作者: 花見&蜥蜴
第二章「劾無し編」
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第二章׳ז:知っている

 筆は……しなやかに曲がり、見事曲線を描いていく。

 今は三校時目の美術の時間。絵の具を使った絵を描く授業である。

 まあなぜそんな単純な授業かというと、今日は先生がお休みらしい。

 季節外れのインフルでも流行っているのだろうか。他にも沢山の先生、生徒がお休みだという。

 さて、そして現在俺はロランの隣で花を描いている。

 またロランはというと、窓だろうか? 彼は隣で板を境に映し出す光と影を、それはもう綺麗に描いていた。


「そういえばさ、ロラン」


 俺はここで話を切り出す。

 まあそりゃ切り出したくもなる。

 一昨日の初対面の空気とも、昨日の険悪な空気とも違うロランを、俺は不思議になぜか思ってしまったのだ。

 それに『俺』と『ルイ』の違いも気になる。会う人全てが俺に違和感をもつというのは、それだけの違いがあるということであろう。

 いや、正確に言うと数名が違和感を持っただけだが。


「ん? 何だ??」


 ロランはそんな俺に訊いてくる。

 俺はだからこう答えた。


「昨日の俺と、違うって言ってたよな」


「うん」


「どう違うんだ?」


 やはり単刀直入にこう訊けばいいであろう。

 この、一昨日ミシュリーヌによって名付けられた『ルイ』という名前。

 昨日なぜか俺がそう名乗ってしまった『ルイ』という名前。

 昨日グレゴワールが知っていた『ルイ』という名前。

 そして今日の俺と入れ替わった『ルイ』という人物。

 やっぱり同じだと思う。ということはこの『ルイ』という人物が分かることによって俺のことも幾つか分かるのではないか。

 そう思ったのだ。


「いや、具体的に言われると分からないんだけど……」


 まあ何か違うんだよね。何か。

 ロランは答える。

 何か――とてもaboutで来たな。

 俺はどうしようかと悩む。


「というか、アニーが一番それを感じているんじゃないかな?」


 ロランは続ける。

 アニー? 俺は彼女を見る。

 そうだろうか、そんな言動は見られなかったが。

 そう思っているとロランはこう言った。


「だって、『喪失のにっちゃん』なんて昨日ルイのこと呼ばなかったじゃないか」


 …………。

 …………。

 そう、なのか?

 俺は驚いていた。


「何かが『喪失』しているんだよ。ルイは昨日と違って」


 それは記憶だろうか。

 それともまた別だろうか。

 俺は疑問にもつ。

 が、分かるわけが無い。


 でも……記憶なのかな?


 俺はふとそう思えた。

 アニーと初めて会った時を思い出したからだ。

 確かあの時、アニーは俺の名前を訊いて、そして記憶が喪失していることを知ってこう呼んだのだ。


『喪失のにっちゃん』


 ――あれ?

 ここで疑問にもつ。

 俺って、記憶がないこと言ったっけ?


 いいや言ってない!

 ならばなぜ。

 なぜアニーは知っているのだろうか。

 やっぱり、言動か? いやあの朝の時アニーはその情報を得るだけの時間を持っていただろうか。


 ……ならば記憶ではないのであろう。

 『俺』と『ルイ』の違いは、記憶だけではないのだ。

 他に、何かある。

 俺は自己完結した。


「ついでに僕は、ルイのこと変だと思わないよ」


 ここで変な事を言うものである、ロランは。

 さっきまでは何か違うとか言っていたのに。

 でもロランは次にこう言った。


「だって君と僕は、親友だろう?」


 ――親友、か。

 何か変なものだ。親友とは。

 俺には違和感しか感じない。

 そして俺は、その違和感を引き摺ったまま作品制作を再開した。

 マーガレット。白に黄色の単調な花。

 だがそれが妙に、綺麗に見えたのだ。

 それと同時に、醜く見えた。


「うわあ!!」


 妙に間抜けな声が隣から聞こえる。

 その次の瞬間、俺はこう思っていた。


 うん、やると思った。


 ロランが転んでいたのだ。

 制服を絵の具で染めて。


「うわっ。最悪だよこれは」


 ロランは自分を見ながらそう笑う。

 俺も苦笑いをしていた。

 するとロランは手を出してきた。


「ルイ。ちょっと制服洗うの一緒に手伝ってくれないかな?」


 そう言いながら。

 俺は仕方なくその手を取り、「しょうが無いな」と了承する。

 するとロランは微笑み、俺を連れて美術教室を出た。

 普通このシチュエーションなら俺がロランを連れて行くところではあるが、まあそれは仕方ない。俺はどこで洗えばいいか分からないのだ。

 まあロランはそれをどこまで知っていたか。少し気になる。

 俺の記憶のこと、俺の転移のこと。何か知らないはずなのに、知っているように見えてしまった。


 ああ、今俺は疑心暗鬼になってしまっているのだ。


 自分に呆れて俺は思う。

 いやなもんだ。

 そうだ、彼が知っているはずがない。

 知っているのは俺だ。

 そこまで思って、俺は彼女らを思い出した。


 シャルロットとグレゴワール。


 彼女らは知っている。なぜかは知らないが知っている。

 どこまで知っているかは分からないが、知っているのだ。

 俺のこと、俺の知らないこと。

 つい、苦笑してしまいたくなる程に。


「ねえ、ところでルイさ」


 ここでロランは俺に話しかけてきた。

 何?

 俺が質問すると、ロランは答える。


「昨日。何していた?」


 ……狙っているのだろうか。

 狙って質問しているのだろうか。

 それとも、偶然だろうか。

 俺の疑心暗鬼は、残念なことに大きくなってしまいそうだった。

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