第二章׳ו:幸せかもしれない。
次起きたのは、一校時目と二校時目の間の時間。いや、授業終わり残り数分であった。
なぜか寝ていた俺は起こされなかった。それ程甘い学校なのだろうか、それとも……。
――授業が終わる。
その瞬間にアニーは動き出した。
そして一言目はこれである。
「ねえねえ、何するの?ダーそールイちゃん!!」
もう意味分からん。原型が予想できない。
まあ「ダー」がダーリン、「そー」が「喪失のにっちゃん」であろう。
俺は取り敢えず俺のことだと認識して、行く場所を考えた。
いや、考えるまでもない。
考える前に俺は言っていた。
「ちょっと図書室行かせてくれ」
ー ー ー ー ー
――図書室。
学校の端の教室で、利用者はそんな多くもなく、少なくもなく、丁度良い感じである。
そしてその図書室にほぼAlwaysでいる図書委員が、彼女。シャルロットである。
「こんにちは~~、ルイ君。アニーちゃん」
そしてその女は、朝の眼鏡女であった。まさかまた会うとは……俺は目を大きく見開いて見てしまう。
しかもどうやら俺と親しいらしい。そう俺は察して返す。
「ああ、こんにちは」
アニーはというと、急に元気を無くして適当な本の元に行く。
挨拶を返すこともなく、である。
何でだろう。そう思っている俺をシャルロットは少量の声で話しかけてきた。
「また会いましたね、ニセルイ君。奇遇もまた奇遇。本当にまた会ってしまうとは」
ニセルイ……。恐らくもう俺が偽物であることは分かっているのだろう。
ならば、と俺は彼女を見つめる。
「今朝は有り難う。とても助かったよ」
取り敢えずさっき俺は、敬語で彼女と話していたのだろうか。
少しの疑問はあったが、まあ敬語で話してみることにした。
「はい~~。そう言って貰うと助かります、先輩。私もわざわざ話しかけた甲斐があるものです」
それを聞きながら少し感じるのは口数の多さである。
そしてまた彼女はそれを察したのかこう答える。
「あ、ちょっと喋りすぎましたね。御免なさいね~~」
そんな彼女は、色んな意味で気味が悪い。
なので俺は話すのをやめて、世界史のコーナーに足を運びことにした。
世界史、世界史、世界史。
俺は頭の中でそう唱えながら見に行く。そして適当に本を選んで近世のページを開いた。
……う~~む。
基本は、やはり俺が知っているものだった。
だが、やはり大事なところが。日本にとって大事なところがおかしかったのである。
『日本は勝利した』
敗戦……していない。
そこが大事なのである。
まあ勿論、勝利しただけではこんなことにはならない。
他に色々あるのであろう。
「ルにダーリン!!」
……。
アニーが誰かをここで呼ぶ。
俺はそんなアニーを見ることは無く、見続ける。
「ルイちゃん!」
ここで初めて俺は呼ばれていることに気付いた。
というか普通にそう呼べば良いのに……
呆れながら俺はアニーに返事をする。
「何だ?」
「次そういえば体育!! 早く行くよ!! 急がなきゃ」
アニーは慌てたように、いや実際慌てて俺にそう叫んだ。
お~~い。図書室は静かにしろ~~。
俺はそう言うがアニーは無視する。
そう。
次は体育。その技術はそれ程大変なのである。
ー ー ー ー ー
「てめえら!! この間遅れてきて反省したって言ったよなぁああああ?」
アンリのその大きな声は、俺たちを震えさせる。
――ここは校庭。地面は土、遊具はほぼないその校庭である。
そう。俺とアニーは遅れてきたのだ。
済まん。完全に俺の所為だと俺は落胆する。
まさかアンリが体育教師とは。
そしてこんなに怖いとは。
俺はただ声が出なくなっていた。
「とにかく分かったか!! あとの片付けを任せたぞ」
え~~。
俺は不満の意を示して口に出す。
アンリはそんな俺たちを「おい!」と叱り、
というかその片付けの所為でまた次の授業に遅れるのでは……俺はそう口に出そうとするが出せない。やはりこのアンリが恐ろしいからであろう。
「それでは、今回は体力テストを行う。皆、真面目に受けるように」
……体力テスト。
小学校高学年、中学校の時によくやったものである。
まあ中学後半に至っては学校に行っていないため、それからもあったか分からないが。
とにかく、俺は昔の学校生活に少し懐かしさを募らせたのであった。
「どうかした? ルイ」
ミシュリーヌが訊いてくる。
いや、何でも無いよ。
俺は笑って答える。
するとミシュリーヌは、安心したように笑い返してくれる。
正直、本当に安心してくれているか気になるが、ここは考えないことにした。
「今日は100m走、ハンドボール投げってところかな。まあグループAとBは分かれるから、私はあっちでルイはそっちだけど。お互い頑張ろうね」
あ、ああ。
そうか、そうだよな。
俺はミシュリーヌの言われるまま、右方向へ急ぐ。100m走のエリアである。
「よーーい」
こちらのグループの開始の合図役は、また別の女の先生である。
一方クラウチングスタートで用意しているのはアニー達である。
そしてその先生は上にピストルを放つと思ったら、一瞬にしてアニーはゴールする。
そう。断トツであった。
「凄えな、アニー」
走り終わったアニーに俺は呼びかける。
するとアニーは嬉しそうに飛び跳ねて喜ぶ。
俺はそんな笑顔の彼女を見てながら、思った。
ここの世界は、幸せかもしれない。




