第二章׳א:朝日
――見事な美しさを持つ日差し。
ふかふかのベッド。
コンクリートの壁、天井。
そして……。
「お兄ちゃん!!」
俺の安眠を妨害してくる妹。
何だろう。ここはどこだろう。
そして俺は……誰だろう。
「朝だよ。ごみぃちゃん、早く起きろ!!」
口が悪いな、こいつ。
っていうか
「誰がごみぃちゃんじゃい!!」
俺は思わず飛び起きる。
気がついたらそこは俺が暮らしていた世界に似た世界。
俺はまた、異世界転移をしたらしい。
というかこいつ……誰だ?
俺がそう思いながら見つめるのはさっきから「お兄ちゃん」だの「ごみぃちゃん」だの俺のことを言ってくる妹らしき人物。
はっきり言って、知らん!!
初めて見る顔だ。
ってあれ? 初めて見るっけ??
「ねえ、お兄ちゃん。朝だよ、そしてご飯だよ」
彼女……もしや。
俺はここで気付いてしまったのだ。
「お前クロティルデじゃねえか!」
「え? 何を今更」
そう。彼女は昨日俺を困らせた要因の一つ、クロティルデだったのだ。
その意味分からなさ、その他諸々は俺が会った史上最大である、あのクロティルデだったのだ。
昨日そういえば沢山俺のこと「お兄ちゃん」って呼んでたな。ひょっとしてその所為で俺は奴が妹である夢でも見ているので無いか?
俺は頬を抓ってみる。
痛い。
ぴーちくぱーちく小鳥のさえずりが聞こえてくる。
そして元気な子供の声。
これらはこれは夢ではないことをこれらは物語っていた。
「ん? どうしたの?? もしかしてこ~~んなに美人で可愛くて最高級に美女な私に起こされて夢だと思ってる??」
いや重複しているぞーー、最後。
俺はクロティルデの台詞に更に突っ込みを入れる。
そう思いながら思考はこの状況について考えていた。
それならば……あれではないか。
これはまたしてもの異世界転移、そしてそれと同時に……。
入れ替わり。
俺は誰かと異世界転移をする際、入れ替わったのではないか。youの名はみたいに。(大分違うが)
その時俺は、すでにそのような結論に辿り着いていた。
となると、クロティルデには兄がいたということになり、俺が異世界転移をすることは当然になってしまうのだが。
まあそのことについては、取り敢えず保留にしておこう。
さて、これで分かったことがある。
一昨日、昨日今日とここまで共通するのであるから、それは半分の確率くらいで正しい。
そう。それは――俺が行く世界は全て同じ人物で構成されているということだ。
まあ? ひょっとしたらこれは明日には消えている規則性かもしれないが、一先ず今の結果からはそう分析出来る。
「ルイ~~、クロティルデ~~。ご飯ですよ~~」
クロティルデの母親の声がする。
そうだな、取り敢えず食事をしよう。
俺は自分が「ルイ」という名前であることは無視して、クロティルデと共に部屋を出た。
真っ先に見える階段、それを降りて扉を開けると見える台所。
構造も、昨日と同じである。
「おお、ルイ。おはよう」
クロティルデの父親だろうか?
身長は俺よりも高く、優雅に彼は茶を嗜んでいた。
「おはよう」
俺はそういうと自分の席と思った席に座る。
お母さんの方はというと、まだ料理をしていた。
用意されたこの白米はまだジャーから取り出されたばかりらしく、湯気が立ってる。
その他の料理も、綺麗に盛り付けられていた。
「いただきます」
俺はそう言って食べ始める。
クロティルデもそれに合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。
まさに、四人家族の朝の食卓だ。
俺も……昔はこんな風に食べていたな。
ふと思い出すのは落ち葉のような家族との記憶。
四人家族の、俺が別居し、引き籠りになる前のあの風景……。
――頭痛!
そうか、俺はそれすらも見られないのか。
溜息をついてしまう。
それを心配したか否か、父親の方が訊いてくる。
「大丈夫か? 何か学校で辛いことでもあったか?」
学校。
そうか、学校か。
この世界には学校があるのか。
「いいや、別に」
俺は答える。
そして、目玉焼きに手が出た。
昨日の高級っぽいフランス料理には及ばないけど、その味はとても感慨深い味だった。
一方クロティルデはというと、それが当たり前のようでがっついて食べている。
ある意味、羨ましい。
俺はコンビニだったからな。
ここ三年。
まあそれもこれも、自業自得か。
「どう? 味は」
母親が訊いてくる。
「美味しいよ~~!」
クロティルデは米を頬に付けながら即答する。
俺はというと、どう答えればいいか分からなかった。
まあ取り敢えず
「美味しい」
と答えておこう。
ふと、目線の方向にあった置き時計を俺は見た。
6:30。
俺にしては早起きだなと思ってしまう。
他の人は分からんが。
「そろそろ食べ終わりなさいよ。学校に遅れるから」
母親が言ってくる。
そうか、俺が起こされたのはそれが理由か。
今日は、平日なのだ。
ー ー ー ー ー
食べ終わって、そして俺は部屋にあった制服を着始めた。
サイズは丁度。まさに入れ替わりっぽいのだが、入れ替わりでは完全に無かった。
俺の姿は、そのままだったのだ。
まあ声が同じなのだから当然だ。
つまり彼女らは俺が、その「ルイ」だと思い込まされていることになる。
もしくは……。
俺がこの世界の住人か、のうちどちらかだ。




