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日の出で続く異世界流転  作者: 花見&蜥蜴
序章「蒔直し編」
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序章׳ב:迫る笑い声

 今俺は、とてつもない食欲に襲われ、無我夢中で食べ物にがっついている。

 それは味が分からないほどで、総額の大部分を一瞬で溶かしている……と言っても過言ではない。


「ふう」


 空腹を紛らわせ、改めて自分が洞窟の中に居ることを実感する。

 自分から発せられた音など、様々な音が普通とは違う聞こえ方になる。まさに洞窟だ。

 しかも少し響いているな。だったら洞窟内の生き物の居場所は把握できる。

 これでも五感には自信があり、特にどこら辺の音なのかを認知するのは特技であるのだ。

 うん、大体三十メートルくらいは把握できた。

 ではあたりめを食おう。


「にしてはこんな場所に一瞬で移動するなんて……本当に異世界召喚か謎のワープでも使わない限り出来ないだろうな」


 あたりめを咥えながら呟いてみた。

 急に環境変化に対応しきってない所為か急に食欲が落ちたが、あたりめだけは別ということを改めて感じられるな。食べられるどころかリラックス効果もある。

 それでは「何でここにいるのか」という疑問は取り敢えず置いとくとして「どこに行けば人間と合流できるか」を考え始めるとしよう。


 まずは落ち着いて見てみる。

 左には少し狭いしゃがまないと入れない程小さい通り穴、右には大きな道がある。

 左の方は、人一人分ギリギリ入るくらいの高さで動きづらいことまでは分かる。

 一方右の方は、広くて動きやすいようだが少し崖のように大きな段差があった。

 どちらにするか。

 その疑問は暫く頭を悩ませた。


 タンッ


 あれ?

 音が、木霊した。

 俺の音では無い。

 そう、それの発信源は選択肢にいれてなかった後ろの道。最初から選択肢から除外していた道だ。

 妙な気配を感じていたからだ。

 そして今分かった。

 この後ろの道から発せられる気配は本物だ。足下も。

 つまりは……。


 タンッ


 そうだ。後ろの道に何かが、何者かがいる。

 そう、全身が震えてきた。

 それなら取り敢えず瞬時に、二つの道の内一つを選択せねばなるまい。

 そして勿論選ぶのは、広い方である。

 なぜなら、これから俺は逃げるのだ。俺の勘だと後ろの奴は敵。捕まったらGAME OVERだ。

 だったら逃げやすい広い方を選ぶ。その理由からの選択であった。


 タンッ


 タンッ


 タンッ


 タンッ


 タンッ


 段々と速くなる謎の足音につられ、俺の足も速まった。

 心拍数が上昇する。

 体は完全に緊張感と恐怖心に支配されていた。

 しかし辺りは、段々と暗くなり、動きづらくなっていく。


「ふふ」


 そんな中……声が聞こえた。

 俺の背筋は更に凍る。

 恐らく足音の主、声からして十代後半くらいの女性であろう。そこまで筋力などもないはずだ。つまり普通に戦っても勝てる可能性がある。

 それを理解しても恐怖はおさまるはずがなかった。


「ふふふふ」


 俺は逃げながら自分が過呼吸になっていくことを感じる。

 走ったからだろうか? いや違う。

 実態が分からず、笑い声しか聞こえない。その上独りぼっち。

 怖くない要素がどこにあろう。

 そうだ、その所為である。

 あたりめが食べ終わると、辺りは開けた場所に出た。


 タンッ


 ここなら隠れる場所も逃げるルートも沢山ありそうだ。

 待てよ?

 そういえば俺を追いかけているって決まったわけじゃないのではないか。

 ひょっとしたら偶然かもしれない!


 タンッタンッタンッ


 ――それは現実逃避であった。

 どんどん近くなっていってる。

 そしてあの笑い声も……確信した。追ってきてる!

 俺は取り敢えず周りを見た。


「つーか、特典とかないのか? 異世界転移無理矢理させたお詫びだとか、そういう理由で!」


 少し考え、今一番欲しい魔法を考える。


「そうだ、天井に張り付けば何とかなるんじゃないか!?」


 いや何言っているかよく分からん! などの突っ込みは無しにして頂きたい。今必死な状況なのだ。

 そして上に俺は手を伸ばしたが、何も起きなかった。


 …………。


「スティック! ハロブヌン! プルーチカ! バーン! バットン! ええと、あとは……バストーヌ! パウ!」


 どうやらよくありそうな英・韓・露・中・仏・伊・ポルトガル語での呪文も有効ではないようだ。

 俺はあたりめをまた咥え、改めて辺りを見回した。

 もう、唯々逃げるしか無い。

 俺は斜め右の道に逃げ込んだ。


「ふふふふ」


 そしてそれと共に、笑い声の主の影が空洞に差し掛かった。

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