第一章׳אי:クロティルデたちの家
「着きましたよ」
母親が言う。
どうやらここが、彼女らの家らしい。
どこか懐かしい雰囲気が懐かしかった。
ちょっと、現代風だからだろうか。
「お兄さん、どうしたんですか??」
女の子が言う。
いつの間にか二人とも、中に入っている。
……というかまだ二人とも名前訊いてなかったな。
「あの、君名前何て言うの?」
彼女はその俺の声に反応して答える。
「あ、クロティルデだよ。そっちは??」
まさか質問が返されるとは。台本を用意していない時の俺はそこまでコミュ力がない……少し危ういところである。
っていうかグレゴワール、彼女に俺の名前を教えてくれなかったのかよ!!
「え、えっと、ルイ……でよ」
いや「でよ」って何だよ!
俺は自分に突っ込む。
そしてクロティルデは笑い出す。
「で……でよって……いや本当に笑えるんだけど~~」
いや笑えないでくれ。頼む。
彼女は唯々大笑いをし、俺は困るしか無い。
「ま、まあ? これからも宜しくね、ルイお兄さん」
……お兄さんは取らないのか。
まあ、取り敢えず返すとしよう。
「よ、宜しく」
クロティルデ……か。
少し頭の中を整理する。
俺が昨日と今日会った人物は「ミシュリーヌ」「アニー」「ロラン」「グレゴワール」「アンリ」「クロティルデ」。
皆片仮名の名前、つまりは外国人なのに日本語で会話が出来る。
何か……変だな。
ふと思ってしまう。
普通なら、日本語で意思疎通など出来ないのではないか?
『ここは、日本』
ここで一つの情報が過ぎる。
そういえばそうだ。
なら……納得か。
いや納得か?
「おーーい!! まさか入らないつもり?」
クロティルデの声で気がつく。
そうだ、まずはこの家に入ろう。
入ってからも、何か情報があるはずだ。
俺は適当にそう思いながら入る。
――ガラガラガラ。玄関の扉はとても個人的であった。
引き戸である。再認識した。
内装は、というとこれまた綺麗で、そして懐かしく感じた。
玄関先の分かれ道。それからお洒落な時計、八畳など、意外に日本っぽい家である。
「じゃじゃじゃじゃーーん!! ここが君が今日泊まる部屋だよ~~」
そうクロティルデが紹介した部屋は、二階の小さな部屋だった。
が、そこもまた綺麗で、持ち運び可能な机、大きな窓が二つ、そしてどっさり置かれた参考書、パジャマなどの服のボックスなど、とても生活観のある場所だ。
少なくとも、一昨日まで俺がいたあの、ノートやらものやらなんやらが適当に置かれたところよりは絶対快適である。
「気に入って……くれたかな」
クロティルデが言う。
――そうだ、な。
「勿論気に入ったよ」
ホント? クロティルデは嬉しそうな顔をしながら飛び跳ねる。
ただ、俺には疑問があった。
「ただ、ここに誰かいつも暮らしているのか? 男物の服もあるし、机も大分年季が入ってる。しかもとても生活感あるし」
「いや、そんなことないよ」
即答だった。
急に口調が冷たくなって、俺は思わず逃げ足を踏んでしまう。
警戒とかそれよりも、恐怖を感じる。
「ここには普段誰も居ないし、客間でもない。ここはこの家が出来てから、ずっと空き部屋だよ」
冷たいその声は、何かこれ以上入るなと伝えてくるようで、俺はその温度差に冷や汗を流す。
その声には、どこか怒りも入っているように聞こえたのだ。それからもこれは俺が訊いていてはいけないということが伝わってくる。
「あ、ああ。まあいいな、空き部屋を……もってぶxtてさ」
かんだ。それと同時にクロティルデの真顔が崩れる。
……。
その次の瞬間、彼女は急に大笑いをし始めた。
ツボが浅いのだろうか。
「いや何??『もってぶxtる』って!! 超受けるんですけど~~」
地味にウザい。俺はそう感じた。
『持ってるってさ』が『もってぶxtてさ』になっただけだろ。
俺は早速この女の笑いが嫌いになりそうだ。
でもまあ……懐かしい。
初対面のはずなのに、そう思ってしまう。
前も誰かと、こうやって苛つきながら笑い合ったっけ?
そこら辺は思い出そうとすると頭が痛くなるのである。
「クロティルデ~~、お友達が来てますよ~~」
一階からクロティルデの母親の声がする。
は~~い! とクロティルデは返事をし、階段を降りる。
俺はというと、この部屋に残り少し周りを見回してみた。
……この茶色い壁は、土であろうか。そして天井は……木。
何か本物の和風みたいな雰囲気に、俺は感嘆する。
窓から外を見渡す。
よく見てみると、この家だけ異質なのが分かった。
街の人々が、まだ外をうろついている。
そんな中から俺にとっては一際目立つ人物が一人。
グレゴワールである。
どうやら見に来たらしいのだ。
彼は微笑みながら手を振った。
「何しに来たんですか!」
俺は叫ぶ。
するとグレゴワールは返してきた。
「お主が心配なのでな!! 仕方なく来てやったんじゃ。でも、良かった」
何でそんなお前が心配するんだよ、親か。
ちょっとここで突っ込むとしよう。
しかし。現に俺は心配されなければいけないのかもしれない。
「気を付けろ」
あのアンリとかいう奴の言葉が頭にちらつく。
分かってる。そう言いながらも警戒はそんなしてなかった。
よ~~し、それがいつかは分からんが、明日からでも行動するか。
夕飯を食べ、そこにあるベットで寝て、そして明日になったらあの天井で目が覚めて、もう少し謎の究明のために走るのだ。
――現在時刻18:00丁度。
茜色の夕日が、段々と堕ちていった。




