第一章׳ט:警告
――教科用図書。
俺はその一ページ一ページを順々に捲っていく。
その間にも料理は魚料理、肉料理と次々送られてきた。
どうやらフルコースのようだ。
そして全ての食べ物が美味しく、全ての情報が驚くべきものばかりであったのである。
情報の例としてあげられるのは、
・フランスは大航海時代、なぜか瞬く間に成長。その後なんやかんやあって世界の大部分を支配した。ここも元日本のフランスである。
・魔法は2005年、突如として発生した現象が元。そしてそれを科学者が確立した方法・脳干渉型の魔法現象を現在、魔法という。
・基本の現象、決まりはこの地域では俺が知っているものである。
基礎の教科書だからか、詳しい情報が全く載っていない。
そして何より、時間が足りなかった。
全て読み切れなかったのだ。
なぜなら……。
「え……これ」
思わず声を出してしまった。
全意識がその料理に奪われる。
他の料理も勿論美味かった。だが、これはその料理らを遙かに上回る美味しさを秘めていたのだ。
その料理を見る。
デザートの、ケーキだ。
いや、出された時確か店員は、モンブランって言ったっけ??
勿論、モン・ブラン・オ・マロンの方のモンブランとは味が違うし、素材も違う。
こっちは苺だ。苺と生クリームのモンブラン(山型のケーキ)である。
そんなモンブランの周りには雪のように砂糖がまぶされ、まさに雪山、白い山(モンブランの和訳)の雰囲気を醸し出していた。
また一口、また一口とスプーンでモンブランを食べる。
感動、そして感激だ……!
なぜ美味しいか。それは絶対この絶妙なハーモニーを奏でているこの食材らの御蔭であろう。
上に乗せられた苺、カリコリしたパンのようなもの、そしてその外側の生クリーム、内側の苺アイスクリーム、土台。全てが見事にマッチングしている。
やはり柔らかさの中の堅さ、堅さの中の柔らかさというのは大事な美味しさの食感なんだろうか。
俺は改めて実感した。
グレゴワールはというと、これまたまるで子供のように美味しそうに食べている。まあ俺もだが、妙にそんなグレゴワールが懐かしく感じた。またもやデジャビュである。
まあそんなことより! と俺はまた変な形のスプーンですくい上げる。
いや~~、超うめえ!!
まあ勿論そんな幸せの一時は、いつの間にか食べ終わるという結末で終了するのであった。
ー ー ー ー ー ー ー ー
さあさて、結構美味しかった所為か否か、たったこの食事一時間だけで三章も使ってしまうという出来事が発生したが、それももう終わりである。
残りはちっちゃなデザート、そしてコーヒーのみである。
コーヒー。普通のコーヒーと思ったが何かが違っていた。そうだな、普通より酸味が多い……みたいな感じだろうか。そして酸味がよく残る。
ちっちゃなデザートはパンケーキ、ゼリー、チョコ、と言ったところである。
どれもこれも美味しかった。以下、省略する。
そしてグレゴワールと同時に食べ終わると、グレゴワールは会計席へと向かった。俺も見失わないよう、付いていく。
色々な人を通り過ぎる。賑やかな店。俺のお気に入りになりそうだ。
まあそんな風に店内を眺めると、心は自然と落ち着く。
「気を付けろ」
眺めている途中、誰かの声が俺の耳に届いた。
その言葉は俺に向けて発せられたようで、妙にはっきり聞こえた。
声の主を探す。誰もいない。誰も見つからない。
……気のせい?
そうは思えなかった。それ程はっきりだったのだ。
だが、現に今俺の方向を見ている人物はいない。となると、すれ違った時に言ったということか?
前を見て、後ろを見る。
もう今となっては誰の言葉か分からなくなっていた。
ところで、「気を付けろ」とは何だろうか。
不意にそんな疑問が思い浮かんだ。
こういう話の場合、お決まりでそれは的中する。俺は何となくそう感じているのだ。
ならばどうか的中しないでくれ。
……冷や汗を浮かべながら、俺は祈る。
その時
「ルイ」
グレゴワールは俺を呼ぶ。
会計が終わったのであろうか。
俺は足を運ばせると、グレゴワールは俺に向けてこう言う。
「外で待ってろ。すぐに向かう」
命令形……か。
俺はそれに戸惑いつつもドアを開け、外に出る。
そして景色を眺め、ホッと息をついた。
「ここが、日本なのか?」
勿論前の世界も日本だったかは分からない。だが、前の世界に似たここが日本であるのなら前の世界も日本だった気がしてしまう。
白人、黒人、黄色人種、その他色んな人が店前の大通りを歩いている。ここはアメリカではないかとも思ってしまう。
そういえば、俺ってこの店に担がれて来たんだっけ?
だったら超恥ずかしい。こんな人通りの多い道を通ったなんて恥ずかしいぞ。
――鈴の音。
俺は振り向く。
しかしその先にはグレゴワールではなく、俺より数センチ高い二十歳くらいの男がいた。
「あ、どうぞ」
俺が邪魔だと察し、俺は出入り口の端にいく。
だが、その男は動かずこう言う。
「さっきの言葉、聞こえたか?」
え?
……その声は先程の「気を付けろ」という声であった。
「あ、はい」
そしてその眼光は俺を怯ませる。
俺は何も考えず正直に言ってしまった。
すると彼はホッとしたように、歩を進め始めた。
「まあ精々、殺されないよう注意するんだな」
彼の大通りを渡る後ろ姿が、そう叫んだ。
何となく。そう何となく、彼がその時恐ろしかった。
トンッ
次にドアの鈴を鳴らし俺の肩を叩く者、それはグレゴワールである。
俺はやっとその緊張感から解放され、また溜息をつく。
勿論彼も完全に信用できるわけではないが、もう一回言う。俺は莫迦なのだ。
グレゴワールはそんな俺を見て、また笑う。
まあでも俺が信じてしまう理由は、どこか昔の俺と重ねて、仲間だと思ってしまうからかもしれない。
同じつまらんオタクとして。
――周りを見る。
つい花が目に入った。
「アキノキリンソウ」そう書かれた札の後ろに、黄色い花が飾られている。
綺麗だ。
俺はそんなことを思いながら、アキノキリンソウから目を逸らした。




