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日の出で続く異世界流転  作者: 花見&蜥蜴
第一章「鵺殺し編」
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第一章׳ח:元の場所

 何でお前は知っている?


 俺はその時、彼に対して不気味さを感じていた。

 これは、どう答えるべきだろうか。

 正直に答えるべきだろうか。

 冷や汗をかきながら俺は答えるのを躊躇する。


「……そうか」


 グレゴワールは何かを察したように微笑む。

 俺はその笑いが恐ろしく思えた。

 体が、緊張した。

 その間に、俺が食べ終わった皿は片付けられる。

 新しい料理が来るのだろうか。

 窓を見る。

 木漏れ日が眩しい。


「逃げるな」


 次にグレゴワールはなぜかそう言った。

 俺はその言葉にまた恐怖を覚え、グレゴワールを見る。

 彼は肘をついてほくそ笑んでいた。


「なぜ、隠そうとする?」


 グレゴワールは訊いてくる。

 知らない。

 そう言いたかったが、その前にこの言葉が出た。


「なぜそう思うんですかね」


 ……。

 無言の時間が続く。

 が、グレゴワールは戸惑っていなかった。

 ただただ、微笑んでいた。


 ――ここで次の料理が届く。

 これは……なんと言おうか。

 野菜と蝦、そしてアボカドがシューに挟まれている。

 そしてその傍らには蝦の足が横たわっているのだ。

 グレゴワールはナイフとフォークを持って、それを食べながらこう言った。


「さあな。ひょっとしたら儂は、お主を知っていたのかもしれない」


 ひょっとして、俺の知人だったってことは?

 俺はふとそんな疑問を浮かべる。

 俺が異世界から来たことを知っている。ということは……と思ったのである。

 先程のあのグレゴワールの俺への質問も俺を知っていたからではないか。あの、「お主は儂と会ったことがあるかの?」という質問は。

 だが、そんな疑問も奴はすぐに無くした。


「言っとくが儂はお主と先程、初めて会ったぞ」


 それならば本当に何で俺を知っている、いや知っているような口ぶりなのだろうか。

 彼の眼光は眩しいほど強く、彼の笑みは恐ろしい程不気味だ。

 それだけで何かが分かりそうだが、分からない。

 その笑み……。

 ――少しその時考えてしまった。

 誰かのことを。

 そして回想するのである。

 グレゴワールと会ったあの瞬間を、もう一度。


『ルイ……』


 最初グレゴワールは、こう呟いた。

 そして名前を名乗っていないのに、ルイと俺を呼んできた。


『お前、まさか』


 グレゴワールと木漏れ日が、その時見事な絵を作っていた気がする。

 あと、その台詞も……何かを感じさせてきた。


『お主は、そうか』


 今まで話した時間の中で、グレゴワールは俺の意見を参考にして考えていただろうか? 否、いつも自己完結していた。

 そこがまた恐ろしい。彼は俺のことを知っていたようだった。

 それから最後に俺は、今のグレゴワールの一言を再度脳内で繰り返してみた。


『言っとくが儂はお主と今、初めて会ったぞ』


 ここで分かった。グレゴワールという人物を、恐らく。

 奴は様々なことを知っているのだ。

 俺のことも、それ以外のことも。少なくとも、俺以上は。

 さあ、ここまで分かればその一言は俺に全てを察させた。


「……何でも知ってるんですね、アンタは」


 俺もフォークとナイフをとり、上に乗せられたシューにかぶりついた。

 ここまでくると、笑えてくる。

 何か、惹かれる部分があった。


「何でもは知らないわよ。知ってることだけ」


 似合わぬ女言葉に、下手な声真似。とある名言の真似だ。

 彼はオタクっぽい。俺の昔に話し方がそっくりだ。

 なぜかそう感じてきた。

 では俺はなぜ、今の俺になったのだろう。

 ……うむ、どうやら分からないようだ。

 まだぼやけている。名前を思い出す時のように頭痛が走る。

 蝦料理に目を落とす。良い香りが伝わってくる。

 それを感じていると、涎が出てきそうになった。


「ん? 何じゃ?? まだ食べないのか?」


 グレゴワールは早速カットされた蝦をフォークで食べながら訊いてくる。

 ……それもそうだ。取り敢えず全てを忘れて食べてしまおう。

 そう思えると俺も、カットされた蝦を口に運んだ。

 するとその味は、予想以上の美味しさであった。


「うめええええええ!!」


 思わず声を出してしまう。

 グレゴワールは相変わらず微笑みながらエビを食べていた。

 さて、俺はここで回想する。

 あれは、いつの時であろうか。


「ところで……」


 そう俺が回想を始める前に、グレゴワールはまた口を開いた。本日二回目の「ところで」である。

 流石に、これ以上変な話はしないだろう。またもやフラグを立てる。

 だが今度、それは回収されなかった。


「この本、読めるか?」


 本が差し出される。

 ……日本語だ。どう考えても。


「グレゴワールはこれ、読めるのでか?」


 色々混ざってまた噛む。俺の言葉を聞いて、グレゴワールは笑いながら答える。


「ああ、読める。だがお主は読めないかもしれない。内容も知らんかもしれない。そう思ってな」


 遠回りに「この世界を知れ」、とグレゴワールが言っている。そこまでは察せた。

 だがこの本は……何なんだろうか。


 題名『教科用図書 基礎 -1節-』


 これ……。


「教科書やないかーーーーーーーい!!」


 変なツッコミにグレゴワールはまた笑う。

 ちょっとお前、笑いすぎだ。


「まあでも、復習は大切じゃぞ? どうじゃ、してみんか」


 それ程教科書を読むことは大切なのだろうか? この世界の情勢などの把握になるのだろうか。「基礎」と付いたこの教科書で。

 俺はそう思いながら食べ進める。

 ついでにここでその食事の話に戻りたくなったので戻そうと思う。

 野菜とエビが見事にマッチング、そしてこの味の無いシュガーが良いアジを出している。

 そして何よりこのエビ!! 高級だろ……めっちゃ美味しい。この弾けるようなプニプニした食感。蝦らしい味が口いっぱいに広がる。そしてその下に敷かれたアボカドもエビととても合っている。周りに飾られた野菜もさっぱりしていて、これがまた良いなぁ。また足の部分はとても香ばしくおいしい。

 俺はどんどん食べ進める。そして教科書を開いた。

 ページ1。

 それを開いたと共に俺の目は最初の一文に釘付けになった。


『本書は我が地方、愛称フラシィーホン、正式名称La région de Japon appartenant à la Franceにおいての、一般教養を記した書である』


 最初に愛称(?)から名前が書かれるのもまた、おかしいと思うが、それ以上に、正式名称の欄が気になった。

 La région de Japon appartenant à la France。

 ……Japon?

 英語ではない。それは分かった。

 しかしこれはヨーロッパの言語だ。

 そして、ヨーロッパの言語でJaponといえば?

 当たり前だ。日本である。

 ――つまりここは、日本……?

 辺りを見回す。

 日本……とは明らかに言えない風景がそこを取り巻いた。

 そしてつい俺の視線がゆくのは、いつの間にかテーブルの真ん中に置かれたパン。

 ホカホカで、美味そうなパン。

 そして窓には、白菊の花が飾ってある。

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