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日の出で続く異世界流転  作者: 花見&蜥蜴
序章「蒔直し編」
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序章׳א:始まり

 赤い液体が、路上を広がっていく。

 これは何だろう? ワインだろうか、絵の具だろうか。

 俺は触れた。

 そして感じたのだ。

 ――温かさを。


 日常なんて、こんな簡単に壊されてしまう。

 俺は自分を、嘲笑するしか無かった。


 ああ、もっと良いENDがあったはずだ。

 こんなんじゃなかった。

 なら、どうすれば良かったのだろう。


「……知らねえよ」


 そもそも俺の所為なのか?

 いいや、違う。

 違う。

 こんなの……誰の所為でもない。

 これは、立場が違えば起きなかった!


「こんなの望まない。こんなのあっちゃいけない」


 俺は狂ったように事実を否定する。

 いや、狂っていたのかもしれない。


「嫌か? この未来は」


 誰か、少女のような声が俺に話しかけた。

 ああ。

 俺は答えた。


「なら、どんな未来が欲しい」


 ……。

 そう訊かれても、分からない。

 だけど……。


「こんな世界なんて嫌だ。もう一回、そうだ、もう一回だ。もう一回」


 やり直させて欲しい。

 違う条件で、違う配置で、そして違う物語で。


「ならば、そうすればよいではないか。それも一回だけでなく、何回も。ただ嫌なことを壊し、自分の思い通りの結末に行くと良い」


 よく聞くとその声は、聞き慣れた声だった。

 だが、体が思うように動かず、それを確かめられない。


「そして、無実のうちに死ね」


 …………。

 そう言われた瞬間、俺は意識を失っていた。


 ー ー ー ー ー ー ー


 少年はとぼとぼと、夜道を歩いていた。

 何かを忘れたような、そんな感覚と共に彼は腹を鳴らす。

 そうか、昨日一日何も食べていないのだ。

 彼がそれに気付くと、体は食べ物を要求し始めた。

 歩を進める度、その欲求が高まる。

 ふと車道に目をやると、一台の車が通り過ぎていく。

 彼の体は震えた。まあこの音に驚いたのも仕方ない。

 なぜなら今の時間帯は、何も通りかからないからである。

 車もせいぜい数十秒に一台程度。エンジン音も小さいものが多く、本当にここは静かなのだ。


 甲高い、日の出の虫が鳴り響く。

 さて、そんな少年の片手に持つのは何であろう? 財布だ。

 彼の目的場所はコンビニ。朝食を買いに行くのである。


「いらっしゃいませ」


 彼が入ると同時に、入店音が鳴る。

 自動ドアは閉まり、彼は真っ先に弁当コーナーに向かう。

 そしていつものようにタルタル唐揚げ弁当に梅と蓮根のサラダ、ゲーム中に食うあたりめを持っている物籠に投げ入れた。

 さて、デザートはと。

 彼は迷いながらも、クッキーシューに手を出す。

 クッキーシュー……?

 彼の手が止まった。そして彼は考えた。

 なぜ自分が苦手なクッキーシューを食べようとしたのかを。


「……さっぱりわからねえな。まあいいや、たまには食べてみようか」


 彼はクッキーシューも物籠に投げ入れ、そしてレジに足を急がせた。

 溜息をつきながら、籠を置く。

 するとそれに気付いたのか、商品の手入れをしていた男がレジに入ってきた。


「ポイントカードをお持ちでしょうか?」


「あ……いいえ」


 彼は財布を取り出し、所持金を把握する。

 店員は値段を口に出し、彼は財布から1000円札を取り出した。


「1000円でお願いします」


「かしこまりました」


 レジの店員は手慣れたような動きで商品を袋に入れ、お釣りとレシートも出す。

 彼はそれを受け取ると財布をその中に投げ入れ、外へ出た。


「ありがとうございました! またのご来店をお待ちしています」


 店員の声が聞こえた。

 少し違和感を持ちながらも、彼はレジ袋を抱える。

 美味しそう。

 いつものことではあるが、とてつもなくそう思う。

 そして彼はふと周りを見渡した。影は蒼く、まさに日の出の時刻。

 しかし……。

 妙に明るいな。

 そう思った。


「まあずっと引き籠もってりゃ……そうなるよな」


 そうだ、この四時辺りの妙な明るさに慣れていないのだ。それ以外無い。

 そう思いたかった。だが思えなかった。

 なぜならどう見たってこの時間帯の明るさではない。明るすぎるのだ。

 ――彼はこの時初めて気付いたのかもしれない。

 自らが……光に包まれていることを……!


ー ー ー ー ー ー ー


 ――多量の松明。

 天井から落ちてくる水滴。

 そして岩。

 気がついたらそこは、洞窟だった。

 辺りを見回しても何の気配もない。

 何の、動きもない。


 頬を抓る。


 痛い。


 夢でも無い、ということか?


 俺は妙に落ち着いて、状況を整理していた。

 動揺も一周まわるとこうなるものなのだろうか。


「……って、待てよ」


 待て待て待て。俺よ、ちゃんと動揺をしろ。

 この状況だぞ? この変な感じに動揺しないのか??

 俺は落ち着くのが気持ち悪くなり、自分自身に動揺することを呼びかける。


 急な場所変更。

 謎にちょっと柔らかい岩。

 そして松明!!


「……って、ええええええええええええええええ!?」


 そうだ、変なのだ。

 俺はやっと驚けたことを安心する。


 さて、状況を整理してみよう。

 俺はつい先程までコンビニにいた。

 普通の、家の近くのコンビニだ。

 だが、今いるここは、コンビニではなく洞窟だ。明らかにおかしい。

 待てよ、そもそもこんな場所、日本にあるのか?

 いや、世界にもこんな変な洞窟あるか??

 特に不思議なのは、松明がある点である。

 ここ現代になって、そんな洞窟があるのだろうか。


「もしかして……これって」


 異世界転移、なのか!?

 いやいやまてまて。

 俺が知らない洞窟だからかも知れないだろ?

 だってそうじゃないか。この世に異世界転移なんて事があってたまるか。

 とにかくいきなり断定がしてはいけない。俺は俺にそう伝える。

 それではまずは、この洞窟から脱出するか。

 俺は胡座から立ち上がる。

 その時、


 力が抜けた。


 そうだ、自分はまだ何も食べてないんだ。

 俺はすぐにレジ袋から、先程買ったものを取り出した。

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