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光は見えない、けれどそこにある。

作者: 横山裕奈

七夕に投稿ということで、七夕を入れてみました。

 真っ暗なセカイ。

 真っ黒なセカイ。

 怖くはない。だって、これが私のセカイだから。

 産まれた時から目の前にある、私だけのセカイ。



 おはよう風花ふうか。調子はどう?


 いつもの声。お母さんだ。ちょっと疲れたアルト。昔から、まったく変わらない声。

「おはよう、元気だよ」

「そう、よかった」

 前に言われたっけ。『お前ん家ってなんか冷たい気がする』って。他の家……普通の家が分からないから、イマイチ理解できてない。でも、あいつが言うなら、私の家は冷たいんだろう。


「今日は、お昼からソラくんと遊びに行くんだった?」

 お母さんが「あいつ」の名前を呼んだ。性格と声しか分からない、だけど家族よりも大切な幼なじみだ。

「うん、お買いもの」

「いいものがあったらいいわね」

 起き上がって、お母さんが用意した服に着替える。服は全部選んでもらってるけど、着るのは自分でできる。

 お母さんが言うには、私の目は一応開いているらしい。ただ、なにも見えないだけ。光すら感じられない。どうせ光なんて一切見たことないから、哀しくもなんともないけど。むしろ見えたら、嫌なものも見えそう。そう、今お母さんがうとんでいる顔をしてるのも、ハッキリと見ないで済む。


「よぉ、フゥ」

 聞き慣れた声がする。2年くらい前にすっかり低くなった、芯のある綺麗な声。

「そーくん」

 そーくんはたぶん、にっこりと笑った。雰囲気でなんとなく分かる。分かりたくないこともあるけど、そーくんの表情は分かりたい。

「じゃ、行こーぜ」

 いつも通り、私の左手がとられる。ふわっと優しく。家の中なら自由に動けるけど、外じゃ無理。そーくんは昔から、私の手を引いて色んなところに連れて行ってくれる。


「着いたよ、フゥ。デパート」

「ありがとう。今日ね、カバン買おうかと思って。ここ、ほつれてるから」

 手でカバンを示す。持ち手のところがほつれちゃった。まぁ、5年前から使ってるから。

「分かった、選ぼう。えっと……4階かな」

 動くぞと言って、そーくんは私の手を引く。今私の目は、なにを見ているのかな。なにを見ているように見えるのかな。


「な、これがいいと思う。ちょっと触ってみて」

「えっと……しっかりしてる。どう? 似合いそう?」

「今の服にすげぇ似合ってる。あとは、ちょっと柔らかい色だからお前にぴったり」

「そうなんだ? じゃあ、これにする」

「じゃ、レジ行こう」


「行きたいとこあるんだけど、いいか?」

「うん、いいよ」

 珍しいな、と思いつつうなずく。そーくんはホッとしたように笑った。

「ここ。どこか分かる?」

 周りの音を聞く。石の上を歩くたくさんの足音。活気のある声。あとはなんだか、葉っぱがれる音。

「……お祭り?」

「正解。七夕祭り。今日、七夕だぞ? あとなんの日か分かるか?」

「七夕? なんだろ」

 忘れてるような。なんだっけ。……あ。

「私の、誕生日」

「そう。覚えてなかったのか、やっぱ」

「親にも言われなかったし」

「……じゃ、俺が最初な? 誕生日おめでとう、フゥ」

 その言葉に、とても嬉しくなった。心のこもった言葉って、こういうものなんだ。やっぱり、私の家はとても冷たいのかもしれない。

「ありがとう、そーくん」


「なぁ、願いごと書くか?」

「短冊に?」

「そう。今、目の前にあるから」

「じゃあ、今から言うこと書いてもらえる?」

「ああ」


「ずっとそーくんといられますように」


 家族なんかより、大事。私の、大切な幼なじみ。ずっと、そーくんと一緒にいたい。

「え、それ俺が書くの?」

「あ、じゃあ変えようか……?」

「いやっ、いいよ。書く書く」

 妙に慌てた様子。変かな、私。だって、大事だから。それだけなのに。

 ペンを走らせる音が止んで、すぐに再開する。自分の願いごとかな。

「なんて書いてるの? そーくん」

「え。……サッカー上手くなりますように?」

 あ、嘘いてる。分かりやすいなぁ、そーくん。

「ホントは?」

「えー」

 少しだけ悩んで、そーくんは願いごとを口にする。


「ずっとフゥを支えられますように」




 真っ暗なセカイも、真っ黒なセカイも、怖くない。

 だって、支えてくれる人がいるから。光を見ることはできないけど、そーくんって光がそこにある。

 怖いわけ、ない。

 ずっと、そーくんと一緒にいられるから。ずっと、そーくんが支えてくれるから。

読んで下さってありがとうございます。面白かったでしょうか?

ソラの小さくて大変な勇気に感動してくだされば、幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フゥとソラ。なんて美しい恋人同士だろう?裕奈ちゃん、とても素敵だった!裕奈ちゃんは人を大切にしていて、思いやりの心をもっていますね!作品に表れています。素敵な女性が書いた素敵な物語でした。…
[良い点] 目の見えないことへのリアリティ。そして作品に溢れる優しさが素敵です。 [一言] お母さんが「疲れたアルトの声」というのはリアリティがありました。 確かにこのくらいの女性の声はアルトですよね…
2017/07/08 23:08 退会済み
管理
[一言]  最初に目にしたときにはなんとも思わなかったのに、二回、三回と読めば読むほど心にしみてくる。なんだろう、この不思議な感覚は。  何気なく書いてあるように見えた会話が、実はそうではないことに…
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